シュウVS猿飛
その日は気怠い暑さが支配する日だった。
午前中、うだる暑さが支配して、街全てを熱波で覆い尽くす。
温められた空気は上昇気流となって、巨大な積乱雲を形作る。
それがいくつも積み重なり、いわゆるスーパーセルとなっていく。
それに覆われて、まだ午後の1時だというのに辺りは夕方のように真っ暗だ。
吹き込んでくる冷たい空気。
一瞬辺りを眩く染めて、巨大な稲妻が叩き落ちた。
それで街中の電源の半数ほどが吹き飛ぶ。大規模な停電の発生だ。
同時に叩きつけるほどの激しい雨が、全ての地上に降り注いだ。
その日、シュウは体育館にいた。
この時間、ここはどこのクラスも使わないことは調べ付いていた。
決着をつけるならここがいいだろうという2人の判断だ。
2人とはシュウと猿飛。淀川ファン倶楽部との最終決戦だ。
猿飛は忍びの者。闇夜は得意だし、広い空間も有利。
だから昼間のこの時間、体育館という閉ざされた空間での戦いをシュウが望んだのだ。
「エテ公いるんだろ、さっさとすますべ」
耳の穴をかっぽじるシュウ。
姿は見えないが、その気配で分かる。この場に猿飛がいるだろうことは。
一瞬、辺りが眩く輝いた。
すっと後方に飛び退くシュウ。
そこ目掛けてなにかが伸びてきた。それはロープ。先には尖った切っ先が付いている。
それが床に突き刺さった。
「チッ、飛び“くない”とは、高度な真似を」
ぼそっと言い放つシュウ。
ロープは至る所から飛んでくる。先には飛びくない。次々と床に突き刺さっていく。
「結界、って訳か」
シュウはそれを怪訝そうに睨みながら避けていく。
おそらくこれは蜘蛛の巣のようなものだろう。触れればそれに捕らわれる。そこでとどめを刺される寸法だ。
案の定、ロープは放射線状に紡がれていく。体育館を真っ二つに分け、中心に大きく広がっている。その様はまさに蜘蛛の巣。
シュウがそれに手を伸ばす。
「ちっ、やっぱりな」
だが微かに触れただけで、さっと引っ込めた。
そのロープには粘着性があった。おそらくネズミ捕りのようになにかが塗ってある。
完全に触れれば、それに絡まって動けなくなる寸法のようだ。
猿飛の得意技はロープ縛り。これに触れるのはご法度。ヘタしたらまたSM縛りされてしまう。
「面倒な奴だな、てめーは蜘蛛か!」
ムカつき加減に言い放つシュウ。
「ご名答!」
刹那、後方に殺気を覚えた。
黒い影が襲ってくる。すかさず横に飛び退く。
シュウの頬がかすかに切り裂かれた。
「ちっ!」
反射的に腕を突き出すが、それはなにもない空を切る。
「よくボクの攻撃を避けたね」
響き渡る猿飛の声。
「てめー、逃げてばっかかよ」
呆れたように言い放つシュウ。腕で頬の血をぬぐう。
「馬鹿だねキミは。ボクは影に生きる者なんだよ。そうやすやすと姿を現す訳がない。もしボクの姿を見るときは、死ぬ時と思って欲しいぐらいだ」
「まったく、これじゃ話が変わってきちまうべ。この物語は“ヤンキー物”じゃねーのかよ」
ぼそっと呟くシュウ。
……確かにそうだ。これじゃ読者も困惑する。物語を簡潔にしなきゃ……
「まぁ、確かにそうだね」
それには猿飛も納得したようだ。
「だったら手短に終わらせてやるさ!」
同時に黒い影が、再びシュウに襲い掛かる。
「くそったれ!」
間髪それを避けるシュウだが、猿飛の影は幾度となく襲い掛かってくる。
それは目にも止まらぬ速さ。しかもシュウの死角を突いて、幾度となく襲ってくる。
体育館内は、蜘蛛の巣で塞がれて逃げるスペースは半分。
辛うじて避けていくシュウだが、僅かな攻撃が掠める。小刻みなダメージが蓄積していく。
一応攻撃に転じているのだが、如何せん猿飛の方が素早い。
気づいて攻撃に転じた時は、既にはるか上空に逃れている。飛びかかろうにも、普通の人間では届くことはない。




