大阿修羅の怒り
ボクシング部内はどよめきに包まれていた。
シュウと西園寺のスパーリングは3ラウンドまで行われていた。
ファイティングポーズをとり、狂気のシュウを睨みつける西園寺。
その手前には傷だらけのシュウの姿。
ヘッドギアなどは自ら拒否して着けていない。その姿勢も完全にでたら目、単なるケンカ殺法だ。
先程から幾度となく拳を放っているが、それは西園寺を捉えることはない。
逆に幾多の攻撃を貰うだけ。
見た目には西園寺の圧倒的有利に思える。
だがそれは、単なるうわべだけ。
「よし、いいぞ魔王、もう少しだ!」「そんな外道叩き潰せ!」「ホントムカついてたんだよ!」
粗方の応援はシュウに向けられていた。
彼らは先程までの西園寺と太助とのスパが、異様に気に食わなかったようだ。
あれでは単なる公開いじめ。胸糞悪く感じても仕方ないだろう。
逆にシュウの戦いっぷりには爽快感があった。
どれだけダメージを貰おうと、どれだけスピードで圧倒されようと、リングに立ち尽くすその気迫。
それが大勢の人々を魅了していた。
少なくとも太助にはそう感じられていた。傷だらけのヒーローでも見てるような感覚だ。
「くそ!」
怒りに任せて右のストレートを放つ西園寺。わずかに足がもつれる。
「馬鹿ぁ、それじゃ相手の思うつぼじゃない!」
セコンドの押尾が叫んだ。
「ボディががら空き、“お腹”をやられるよ!」
少しばかり違和感ある言い方だ。
「腹か!」
それに倣い、シュウが右のアッパーを打ち放つ。
「ぐほっ!」
それは西園寺のみぞおちを確実に抉り取った。
苦痛に顔をゆがめ、エビぞりになる。
「ダメェ、今度は顔ががら空き!」
その顔面目掛けて、シュウの強烈な右ストレートが飛んでくる。
「大阿修羅の怒り、とくと味わえ!」
それは西園寺の顔面を確実に捉えて、反対側のロープまで勢いよく吹き飛ばされた。
こうして西園寺は、ロープに背を預けて微動だにしなくなった。
一瞬の沈黙。誰もが固唾をのみ、目の前の状況をうかがう。
「やったシュウくん、勝った!」
最初に吠えたのは太助。
それで場の歓喜が爆発する。
「サイコーだぜ魔王!」「鬼の展開だ!」「ボクシング部、ナイスアシスト!」
誰もが信じられず、誰もが驚愕の展開に、誰もが心躍らせていた。




