最弱からの逆転
カーン! 部室内に二度目のゴングの音が鳴り響いた。
チッと舌打ちする西園寺。
その眼前では太助が、両腕をかざして仁王立ちで立ち尽くしている。
場に響き渡る声援。そのどれもが西園寺の怒涛の攻撃に向けられていた。
振り返る西園寺。こぶしを空にかざして、観客に応える。
対する太助は、よろめくように自らのコーナーに戻ってくる。
血と汗が滴り、顔中ぼこぼこだ。ヘッドギアなど意味を成さない。
身体は青あざ赤あざだらけ。よく倒れないもんだなと、足柄でなくとも思ってしまう。
「よくやったな太助」
すかさずその処置をする足柄。
「この3ラウンドで終いだ。殴るなら今がチャンスだろ」
声援こそド派手で、西園寺を称えるものだが、実は全然違う。
本来なら西園寺は、1ラウンドで決めたかったはずだ。普段の太助なら、それで仕留められるはずだったから。
だがこうして2ラウンド目まで終了してしまった。その胸中、怒りとムカつきの感情で溢れているだろう。
どうしてこんな小物、さっさと仕留められないんだろうと。
あの西園寺という男は、自分のことばかりしか見ないから、他が見えないだけだ。
ボクシング部に入部して、ずっと激しいシゴキに耐えてきた太助は、誰もが思うより強くなっている。
その勇気さえ持てば、これぐらい耐えることはできるのだ。
そうした点を見誤る時点で、西園寺は弱い。
「あの小僧は、ムカつくと脇が甘くなるんだ。拳も大振りになる。それを狙え」
その足柄の台詞と共にインターバルは終わる。
最終3ラウンドを告げるゴングが鳴った。
ゆらゆらとコーナーから歩き出す太助。
それめがけて、西園寺が怒涛の如く襲いかかる。
激しく執拗な攻撃だ。相手を人間と思わぬような、キツい拳。
その都度太助の身体が小刻みに震える。
それでも腕を上げ、ガード態勢は崩さない。両足を構えて、リングに立ち尽くす。
「うおーー!」
西園寺が右拳を大きく振りかぶった。それでそのガードが甘くなる。
咄嗟に右腕を突き出す太助。だがいかんせんリーチが足りない。
それどころか、西園寺の右拳が太助の顔面を狙い定める。
「えっ?」
突然、太助の身体がぐらついた。
リングにこぼれた自分の血と汗で足が滑ったのだ。
それで西園寺の拳は、太助の頬を掠めて不発に終わる。
代わって太助の突き出した拳に、西園寺の顔面がヒットした。
ミシッと不快な音が響き渡った。




