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男だったら単純がいちばん


 午後の気怠い空気が包み込む街郊外、そこを玉木がひとり歩いていた。


 気温は高く、夏の日差しが支配している。


 ただ歩いているだけでも汗が滴ってくる。

 早く家に帰って缶ビールでも飲むか。そんな学生らしからぬ思いに包まれてくる。



 そんな風に思っていた時だ、ひとりの人物の姿に気が付いたのは。


 ガタイのいい、黒い詰襟を着込んだ生徒。雷丸光一だ。


 その右手には買い物袋を抱えている。いそいそとどこかに向けて歩いている。


 その袋の中身にも興味あるし、どこに行くのかも興味がある。


 しばらく後を追うことと決めた。



 こうして雷丸が向かった先は、さびれた廃工場だった。


 立ち入り禁止のトラロープを跨いで、がらんとしただだっ広い空間に侵入していく。


 サビの臭いと機械油のすえた臭いが鼻につく。



「買ってきたぜ」


 雷丸の他に、そこには2人の人物の姿があった。


 それは葛城誠と、風間瑛人。


 雷丸が買ってきたのは、やっぱり缶ビール。合計9本ほどある。


「悪いな、俺にも一本」

「ほらよ」

 プルタブを切って、喉に流し込む。


「えっ?」

 呆然となる雷丸。



「おっと悪い。乾杯の挨拶あんだっけか?」

 玉木が言った。

 すでに半分のビールは飲み干している。



 葛城、雷丸、風間は、まだプルタブも切っていない。呆然と玉木を見つめるだけ。


「てめー勝手になに飲んでるんだ!」

 それでも声を荒げたのは雷丸。左手で缶ビールを掴んだまま、右の拳をかざしている。


「なにって、おめーが寄越したんだべ」

 覚めたように言い放つ玉木。


「とにかくいいじゃん。まずは飲めよ」


 こうなると、誰が購入したビールで、誰が主導権を握っているかも分からなくなる。


「へっ、馬鹿な野郎だぜ」

 流石の葛城も、苦笑したように缶のプルタブを切って、中身を喉に流し込む。



 それに倣い、雷丸と風間もビールを飲みだした。


 ごくごくビールを流し込む玉木。


 缶を右手でつぶして、雷丸に向かってもう一本というアピールする。


 ムカつき加減の雷丸だが、葛城に目くばせされて、缶ビールを玉木に差し出す。



 身体にまとわりつく不快な湿気。

 喉に炭酸の刺激が丁度いい。麦芽の香ばしい香りが鼻についた。



「どうよ狂犬、最近の調子は?」

 玉木が言った。


「まぁまぁじゃねーか」

 口に煙草をくわえて火をつける葛城。


「おめぇの方こそどうなのよ?」

 横目で玉木を睨む。


「かったるいかもな」

 玉木もビール片手に煙草に火をつける。


「かったるいだって?」


「いちいちめんどーなんだよ。人間関係はクチャぐちゃだし、裏で動いてる奴もいる」


「おめーだってそうじゃねーのか?」


「俺だってそうだが、あそこまでじゃねー」


 言って玉木は缶の底に残ったビールを逆さにして喉に流し込む。



 これまでそれぞれ二本ずつ缶ビールのプルタブを切っている。


 残りは一本だ。それに腕を伸ばす玉木。


「馬鹿、どこまでずうずうしんだ」

 堪らず言ったのは雷丸。


 本来ならこれはそれぞれ3本ずつ、3人で飲む予定だったビールだ。


「いいじゃねーか、おめーらまだ中身あんだべ?」


 その玉木の問い掛けに、葛城が缶を逆さにして振る。中身は空だ。


 それを認めて立ち上がる玉木。


「それじゃー、こいつで決めようか?」

 そして差し出したのは右の拳だ。



 最初葛城達3人は、その意味が分からず呆然としていた。


 それでも徐々に、葛城の顏に笑みが浮かんでくる。


「おもしれー奴だな。単純でいいぜ」

 両拳を手前にかざして立ち上がる。


「へへっ、俺も志士の会のメンバーだからな。ここでてめーの首を獲って帰りゃ、大野たちも喜ぶだろうからな」


「こっちは、ナンパ師の首で勘弁してやらぁ」


 たがいに置かれた立ち位置はなんとなく察していた。


 今までとは全然違った、微妙な立ち位置にあると認識していた。


 だからこそ多くは語らない。拳だけが全てだから。



 互いの秘めたる感情をぶつけるように、玉木と葛城、激しくぶつかり合った。

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