本牧の赤ずきん
「俺らはここで煙草を吸ってただけだろ。そしたらたまたま猫を見つけただけ。勘違いすんなよ、イジメてねーよ」
大男は明らかに動揺していた。
現れたのはたった二台。しかも片方は女なのに、それらをも感じさせぬ威厳が見え隠れしていた。
つまり格の上では、おねーさんが断然うえってこと。
「まぁいいや。むだなケンカはしないに越したことはないからね」
さばさばと言い放つおねーさん。
「キミもケガはないんだろ?」
そして拓未に訊いた。
「あ、はい」
こくりと頷く拓未。
「あのデブ、一撃入れたのはキミだろ?」
おねーさんの視線の先で、大男は気まずそうにそっぽを向いている。
この一連の動作で気づいたのだろう。大男の顎が腫れているのと、拓未の拳に返り血が付いているのに。
「ケンカが強いのはいいけど、早く帰った方がいいと思うよ。この辺はろくな男がいない。強くても仲間がいなきゃ、怖い思いをするのは自分だから」
その言葉の意味は拓未も同意する。今回はたまたま助かったに過ぎない。
運よく正義感溢れる人物に巡り合えたから。
「詩織そろそろ行くぜ。総長がいなきゃ、集会も成り立たんだろ」
仲間が言った。
それでおねーさんが振り返る。
「だね。行くか」
そして気合も新たにバイクのセルを吹かす。街中に甲高いエキゾーストが響き渡った。
「本牧レジェンド、行きまーす!」
「おめーはアムロかよ」
そして赤い特攻服たちは闇の中に姿を消していった。
その姿を認め、ふっと安堵のため息を漏らす男たち。
「あぶねーあぶねー、こんなとこでレジェンドに出会うなんてな」
「しかも“赤ずきん”だろ。ヘタしたら殺されるよ」
その会話は、小学生である拓未には理解不能だ。
「赤ずきんの頼みだ。今日のとこは帰りな」
そして大男が拓未の肩を叩いた。
つまりこれで、拓未は無罪放免。このまま帰してやるということだ。
それはそれで喜ばしいことだ。思いがけず危機を脱したんだ。堂々と帰ればいい。
だけど少しだけ興味はあった。
「今の女の人って?」
それに大いに興味を惹かれていた。
「赤ずきんか……」
ぼそりと言い放つ大男。
「あれは女としちゃ、現状最強の女なんだよ。鳳凰院詩織、高校3年生。女だてらに本牧レジェンド総長でな、男顔負けのケンカの腕前の持ち主。付いたあだ名は本牧の赤ずきん」
「赤ずきん?」
「もともと本牧レジェンドってチームは白い特攻服のチームだったのさ。三年前まではウチらと同じ弱小チーム」
その大男の台詞に仲間が「弱小って」「自分で言うか」と突っ込みを入れる。
「だけどあの鳳凰院詩織が加入してから事態は変わった。次々と敵対する勢力を倒していったんだよ。その数が半端な過ぎて、相手の返り血が乾く時間も無くなった。気づけば奴の特攻服は真っ赤に染まってた。それで連中は、仕方なくチームカラーを赤に変えたのさ。そんな経緯があるから、ついたあだ名が本牧の赤ずきん。かわいい顔して、血に飢えたオオカミなんだよ」




