繁華街にて
宵闇に包まれる繁華街。雑踏は多くの人々で溢れかえり、にぎやかな様相を醸し出している。
4月の空気は、まだ肌を切るような寒さだが、どこからともなく流れ込んでくる桜の匂いで、清々しさが感じられていた。
そこを詰め襟を羽織った集団が、威風堂々と雑踏を掻き分けうねり歩いていた。
辺りには幾多の一般人で溢れているが、それらなど一向にお構いなしだ。
先頭を堂々と歩くのは葛城誠。
オーク学園、1年生から3年生混合の集団だった。
「しかし、こうしてお前らが入学してきたというのに、有り得ぬ展開になりつつあるな」
葛城の傍ら、肩まで伸びる黒髪に、ヒゲ面の男が呟いた。
この男は山崎孝之。
現在オーク学園の頂点に立つ男で、多くの荒くれを掌握している人物だ。
「確かですね。あの入学式は、マジビビったし。まさかあれ程のビックネームが、顔をそろえてるなんてな」
その直ぐ脇を固める、短い金髪の巨体が投げ掛けた。
「おいおい、雷丸ともあろう男が、そんなビビッてどうするんだよ。俺達は最強の葛城組だぞ」
バサバサと銀髪を垂らした、表情の引き締まった男が言った。
彼らは葛城誠の参謀。金髪の男は“雷丸光一”。銀髪の男は”風間瑛人。共に葛城と同じ中学出身の男だ。
「そんなことは知っとるわ。だけど念には念をいれないと危険な情況だろ」
更に捲くし立てる雷丸。
確かに彼とて、葛城の実力は理解している。
だがあの入学式の地獄の光景を目の当たりにし、憂いの感情が渦巻いていたのだ。
流石の風間も、その感情を読み取り無口になる。
その2人の表情を窺う山崎。
「実際のところ、お前の意見はどうなんだ誠?」
そして葛城に視線を向けた。
その場の視線が葛城に集中する。
「確かにメンドーな馬鹿が揃ってますよね、あのガッコー」
葛城の表情は、穏やかだ。
遠く、煌めく街並みを捉えている。
「だけどそんなんは、俺ら気にせんでもいいんじゃないっすか? どう考えてもオーク最強は山崎さんなんだ。俺らが入学した時点でバックアップも充分。そこらの蝿が必死に飛び回ろうと、所詮は蝿。ただ五月蝿いだけ。そんなもんは気にしなきゃいい問題だ」
くわえた煙草の煙をくぐらせて、笑みを浮かべるのみ。
その表情に一切の迷いはない。これから起こる出来事を、待ち望むような笑みだ。
葛城と山崎は昔からの悪友。年齢を超越した熱い意志で繋がった同朋だった。
それゆえ葛城の目標は、その山崎を高みに押し上げること。オーク学園の覇権を、山崎の手中に収めること。
その為にオーク学園に入学したといっても過言ではない。
「だけど誠。東雲の存在は無視できねーんじゃねーか」
不意に雷丸が投げ掛けた。
その東雲の固有名詞で、仲間たちの熱気がトーンダウンする。
誰もが口にこそしないが、東雲の実力を知り得ていた。
「確かにあいつは危険極まりねーよな」
静かに言い放つ葛城。
風間たちがその背中をグッと見つめる。
「あれは予測不能、かつ大胆だからよ。……俺らの邪魔をする一番槍がいるとすりゃー、あれを置いて他にいねーだろうしな」
それには誰も反論しない。確かにその通りだから。
「だけどそれだけだろ。あのガキ、妙なカリスマ性は持ってやがるが、全部を動かす器量はねー。あれは異質過ぎんのさ、だから生理的毛嫌いしてる連中が多くいる。そんな奴が、オークのてっぺんなんか掴める訳ねーんだよ」
言って天を仰ぐ葛城。ふーっと煙草の紫煙が空に舞う。
葛城と東雲は、中学時代からの戦争相手だ。
激しい死闘を、幾度と鳴く繰り広げてきた敵同士。
故に互いの性格は、自らのことのように知り得ていた。
「だな。俺達は最強の山崎組、むやみにケンカ売る馬鹿はいねーだろ」
「そうさ。いたらそいつは叩き潰すのみ。ケンカ上等、刃向かう敵は全て排除」
「ここまで築き上げた孝之の牙城を、葛城達がバックアップしてくれるんだ。オークなんかあっという間に制覇だろ」
「頼もしい後輩を持って、俺たちは幸せだぜ」
その台詞に、口々に呟く仲間たち。
山崎はその腕力もさることながら、人身を掌握する人望でもオークのトップに君臨してきた男。
その傘下に幾多の戦線を圧倒的パワーで勝ち上がってきた葛城たちが加わったのだ。
誰も刃向かうことの出来ない、最強集団に上り詰めることも可能だった。
それを受けて葛城の表情も引き締まる。
「東雲斗馬、奴ともいつかはぶつかんだろう。だけどそれは今じゃねーだろ、まだまだ先の話さ」
静かに伝えた。
「そうだな。俺たちは俺たちなりに、やるだけだな」
「だな。誠が負ける筈ないんだからな」
風間と雷丸も同意する。
山崎が立ち止まった。それに呼応して葛城たちも歩みを止める。
「とにかく、今日はお前達の入学祝いだ。俺達が奢るから、好きなように飲み食いすればいい」
山崎が言った。
その台詞に、グッと口元をほころばせる葛城。
「そうっすね、俺らの中学以来の再開に祝杯といきますか」
そして後方の仲間たちに向き直る。
「さぁ、おめーら、カラオケに繰り出して、派手なコンサートと洒落込むぜ!」
その咆哮が、繁華街に響き渡る。
多くの一般人が愕然と見つめているが、一向にお構い無しだ。
もちろんその様子は仲間たちも一緒だ。
グッと拳を握り締め、興奮気味に震える。
葛城真は大の矢沢永吉ファンだ。
葛城がコンサートを開くと言うことは、“いつでも戦闘準備は万端、ケンカ上等”と言うも同じ意味。
「おっしゃー葛城コンサートツアー、第一弾の始まりだ!」
「ケンカもコンサートもサイコー、熱いビートをかまそうぜ!」
「永ちゃん! 永ちゃん!」
「山崎組サイコー!!」
呼応して多くの叫びが、桜並木で映える赤い空に舞い上がっていった。




