肉のサンドバッグ
ズパーン! 太助の鼻頭が弾けた。堪らず後ずさり、しりもちをつく。
頭がくらくらする。目の前が靄がかかったように白く霞む。
もう限界だ、このまま座っていたい。このまま虚空の世界に逃れたい。
「おいおい太助、しっかりしてくれよ」
だがその野太い声で、現実世界に連れ戻される。
声を掛けたのは西園寺。四角いリングの中央、赤いボクシングパンツ、シューズ、グローブに身を包んでいる。
「えへへ、ごめんね」
いそいそと立ち上がる太助。
対するこちらは青い格好。頭にはヘッドギア、胴体と両手両足も防具で完全装備だ。
「いちいち倒れてたら、練習にならんだろ」
さばさばと言い放つ西園寺。躊躇うことなく、太助目掛けて左右のコンビネーションをぶつけていく。
対する太助は両出をかざして凌ぐしかない。
防具を付けて完全ガードしてても、その衝撃が身体に伝わってくる。
身体の全てがびりびりと痺れてくる。
腹部への攻撃は吐きそうな感覚、頭への攻撃は気絶しそうな感覚、手足が付いているのかも分からなくなる。
太助が西園寺のスパーリングパートナを勤めて1か月ほどが過ぎていた。
原則その練習は週1回、時間にして30分だけ。それが契約内容だ。
そのことはボクシング部を介して生徒会へも伝わっている。
とはいえそれは非公認のもの。生徒会執行部と西園寺大輔の口頭による密約。
流石に堂々と行われることではないから。
全ては西園寺への配慮だ。彼ほどの生徒が学園にいれば、学園としての名声が高まる。来年度の入学者も集まってくるから。
「やれやれ、あの野郎よくやるよな。あんなの意味あるのかよ?」
「単なる憂さ晴らしでしょうね。自分の力を誇示したいだけの」
その様子には足柄と押尾もげんなり気味だ。
それでもボクシング部の為、己の保身の為、大声では言えない。
「ぐわっ!」
一際強烈な一撃が、太助の腕の間をすり抜けて顔面に直撃した。
堪らず後方にダウンする。
「なにやってんだ、ちゃんとガードしとけ!」
すかさず吠える西園寺。
「は、はい」
よろよろと立ち上がる太助。
「よし、行くぞ太助!」
こうして続く地獄のような時間。
太助は身体を硬直させて、それを耐え凌ぐしか手立てはなかったのだ。




