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落日



 山崎率いる正規軍は、怒涛の如き強さを見せていた。

 それはこの戦線の安泰、正規軍の完全勝利を意味するようで、絶対的な自信に溢れていた。


 誰もが痛感せざるを得なかった。彼らこそオーク学園最強だと。彼らこそが学園の覇権を摑み取るのだろうと。蒼天に飛翔して、最強の龍となるのだろうと。



 しかしこの世界に常という言葉はない。安寧あんねいとは崩壊と共に存在するもの。


 盛者必衰、好事魔多し、とはよくいうもので、いいことばかりが続くはずもないのだ。


 天空を支配する太陽も、いつかは沈むもの。この世に永遠という概念は存在しないのだから。


 全ては人の見る浅き夢に過ぎない。人が人である時間など、ほんの一瞬なのだから……




 ザーザーと雨が降り続いていた。

 悲しみで空が泣いてる、誰もがそう思っていただろう。


 小高い丘に建てられた霊園には、多くの弔問客の姿があった。


 着込む衣服の黒と、手にする傘の黒。全てが黒一色に包まれていた。


 遠く臨む港湾の姿が白く霞んでいる。


 その中を、ひとり玉木がビニール傘をさして歩いていた。


 そこにいつもチャラけた様子は微塵もない。髪もとかしておろしている。制服もちゃんと着込み、ボタンもすべてかけていた。


 そこは敵地アウェイ。山崎派閥の巣窟だ。

 多くの3年生、桜田や上原の鋭い眼光が玉木を貫く。

 その他にも風間や雷丸、永瀬や的場といった姿も見える。


 それでも今ここで、襲ってくることはないだろう。


 それ以前に彼らはすでに戦意喪失している。


 担ぎ上げる盟主の存在なくして、戦争などできる筈もない。



 山崎孝之の死は、それを意味していた。




 最強を誇る山崎だったが、事故には敵わなかった。


 暴走したトラックに撥ねられられそうになった小学生を助けようとして、自らが犠牲になった結果だった。




 霊園には山崎派閥の他にも、多くの者たちが弔問に訪れていた。


 淀川エリ率いる倶楽部メンバー、生徒会執行部、その他にも学年を超越した幾多の生徒たちの姿がある。


 その内のひとりが玉木だった。敵対する相手ではあるが、誰もが個人として山崎に敬意を払っていたから。



 その片隅、そこに淀川エリの姿があった。

 着込むのは普通の制服。髪もストレートに落として、普通の姿に戻している。


「やはりお前らも、引退するのか」

 寂しげに言い放つエリ。


 その手前には桜田の姿があった。


「それが孝之との約束だったからな」

 さばさばと言い放つ。


 山崎率いる正規軍には、ある口約束があった。

 山崎孝之が引退するとき、その同期も引退するといったもの。


 元々山崎を中心に立ち上げたメンバーだ。それが普通であって、当たり前といえば、当たり前だ。



「とにかく俺らは引退する」

 目くばせする桜田。


 それが捉えるのはエリ、そして後方に佇むエリ女2人。


「エリのことは任せな」

「うちらが付いてれば大丈夫だから」

 呼応して言い放つ2人。


 しかしエリは無言だ。そこにいつもの大胆さは見えない。

 微かに青ざめる表情、様々な想いが交錯してるのだろう。


 そしてその様子を上原が少し離れた場所から見つめていた。


 その様子に気づくエリ。ふたつの視線が絡みつく。


「分かってるさ」

 短く答える。


「私たちは私たち、そのまま突き進むのみ」

 いつも通りのふてぶてしい台詞だ。


「お主らもご苦労だったな。今までお疲れ様」

 少なくともその台詞だけは本物。自然と笑みが漏れていた。



 雨は降り続く。すべての悲しみ、悔しさ、怒り、戸惑い。すべてを押し流すように。


 そのただなか、葛城は傘もささずに天を仰いでいた。


 風間と雷丸が声を掛けるが、返ってくる返事はおぼろなもの。

 暗にひとりにしてくれ、そう言っているようで虚しさだけがそこにはある。


 懐から煙草を取り出すが、それはビシャビシャで意味を成さない。

 それを見ている方が、逆に寒気を覚えるだけ。


 遠くから聞こえる船の霧笛が、白い光景に吸い込まれていった。



 その様子を、少し離れた場所から見つめる玉木。

 懐から煙草を取り出して、口にくわえる。そして火をつけて、空を見上げた。



 おそらくだが、これで正規軍は終わりだろう。


 葛城ひとりが気を吐こうと、この荒野では意味を成さない。

 腕力に長けて、多くの仲間を従え、戦線に打って出なければ、戦う権利も得ない。


 つまり自分たち志士の会の敵は、東雲派閥一択となる。


 それさえ凌げば、勝機は見える。この馬鹿げた戦争にも終止符を打つだろう。



 もちろん問題も多く残されている。果たしてこの戦争に、僅かでも大義があるかどうか。


 それを見据える為にも、玉木は戦うしかなかった。



「さてと、帰るとするか」

 煙草を灰皿にもみ消し、バリバリと髪をかき上げて歩き出す。


 そして空を見上げる葛城と、身体を交差させた。


「なんだよ、てめー、なに見てんだ」

 ぼそりと言い放つ玉木。


「……雨だ」

 葛城が答えた。



「まんまじゃねーか」

「ああ」


 玉木の脳裏に、あの入学式での葛城の光景が蘇る。

 熱く激しく、縦横無尽に駆け抜けて、狂犬と呼ばれた怒涛の強さを秘めるその姿。



 しかし今はその面影も感じ取れない。まるでびしゃびしゃの捨て犬だ。



「雨なんざ見ててもしゃーねーだろ。いつかは止むもんだし」


 そして玉木はその場を後にした。

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