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孤独の中の少女



 オーク戦線より遡ること2年前。



 とある少女が学園に入学していた。その名は淀川エリ。


 代々続く淀川家三十代目当主だ。



 淀川家は安土桃山時代に端を発する武家の家系。その血筋には歴戦の戦国武将の名も連なっている。

 それゆえカリスマ性に富み、知力に溢れ、時には武芸にも優れた、優秀な者たちが家督を継いでいる。

 故に彼女に求められるのもその資質だった。



 しかし人にはそれぞれの個性があるもの。武家の血筋を継ごうと、それを確実に継げる保証などどこにもない。


 淀川エリは、ごく普通の才能の持ち主だった。しいて言えば、他よりも類い稀なる美貌を持っていることぐらい。


 美貌といっても、中学を卒業したばかりのレベルだ。桜で言えばつぼみも同じ。


 そもそもこのオーク学園という高校、絶世の美女ばかりが集められた学園なのだ。


 誰もがオーク学園というと、樫の木をイメージするが、それは後の世に植え付けられたビジョンに過ぎない。


 正式名称は“大奥学園”。とある高貴な血筋を絶やさぬために、花嫁候補を探すために作られた学園だから。


 とはいえ現在はその意味は成していない。


 流石に時代にそぐわぬし、人権侵害も甚だしいしからだ。




 とにかく淀川エリは、多くの中のひとりの美女、そんな立場でオークに輿入れしたのだ。



 入学当初は、その美貌と家系の良さから、多くの生徒が友達となった。


 だがそれをよしとしない存在があった。


 武家最強と呼ばれる存在が、同じくして入学していたからだ。


 それこそが源平静香げんぺい しずか。後のオーク学園、生徒会会長を務める人物だ。



 エリの家系と源平の家系は、関ヶ原の合戦以来、対極にある関係だった。


 それによりエリの地位は、最下層まで叩き落とされたのだ。


 陰口、あからさまな無視、落書き、バナナの皮、連日続く姑息ないじめ。

 更にはその見た目まで地に落とす連中まで現れる。『彼女は醜い』『彼女は整形してる』『化け物だ』そんなありとあらゆる罵詈雑言が飛び交うことになる。


 多くの生徒は源平を恐れ、それらを黙認することになる。


 それ以降、淀川エリは孤独の中に生きることになる。



 それでも彼女は負けなかった。執拗ないじめにも負けず、授業もちゃんと受け、涙さえ見せることはなかった。


 しかし本当は悲しかった。出来ることなら逃げ出したい。そんな衝動に駆られていた。




 そんな時だ。彼と出会ったのは。


 ある夏の日の暑い昼下がりのこと。


 その日は授業も午前中で終わり、エリはひとり帰途についていた。



 じりじりと照り付ける太陽。アスファルトもそれに焙られ、ゆらゆらと陽炎が立っている。


 気温は四十度にもなりそうな猛烈な暑さだった。



 突然、エリが履くスニーカーの紐が切れたのだ。

 しかも両方。それも一か所や二か所ではない。よく見れば細かい切れ目がいくつも入っていた。


 おそらく誰かの仕業だろう。彼女を快く思わぬ人物の仕業。これまでもこのようなことは何度かあった。


 仕方なくスニーカーをバックにしまい、靴下だけで歩き出す。


 しかしその日はとにかく暑い日だった。歩く度に、地面の熱が足裏に感じる。


 一歩二歩、歩く度に、それは大きくなっていく。

 遂には火傷したような感覚に陥り、遊歩道の途中で座り込んでしまった。



 何故、自分はこんなことになったのだろう。なぜ別の選択肢を選ばなかったのだろう。



 家系なんて関係なく、他の高校に通えばいいだけの話だ。

 泣きながら心を曝け出して、その旨を両親に言えば、このいばらの道からも脱せるだろう。新たなる未来が拓けるだろう。


 どうしてそんな簡単な一言が言えないんだろう。



 その場にしゃがみ込み、項垂れてそう思っていた。


 それでも世界は残酷だ。じりじりと照り付ける太陽が、頭のてっぺんから襲ってくる。



 その熱にてられて、少しばかり息苦しさも感じていた。


 多くの人が目の前を行き過ぎていくが、誰もが無関心。

 孤独という絶望の中、灼熱地獄に突き落とされた心境だった。

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