次代を継ぐもの
「くそっ、ここで引く訳にはいかぬ」
ぐっと鉄パイプをかざすゴン太。
それを手前にかざし、突っ走る。
だがそれは空を切る。
逆に宅ちゃんの裏拳が、ゴン太の後頭部を貫いた。
「ちっ」
慌てて飛び退いて間合いを取った。
ゴン太と宅ちゃんの戦いは、宅ちゃんが有利な状態だった。
最初こそ互角な状態だったが、ゴン太は気合ばかりが空回りしてスタミナを消耗していた。
対する宅ちゃんは受け身の攻撃。相手の力を殺いで、逆に攻撃に転じる。全て“いなして”いた。
「もうやめた方がよくないか?」
言い放つ宅ちゃん。
「やめるだと。引ける訳がなかろう、これは殺し合いだぞ」
しかしゴン太は頑なだ。サムライとしての心得がそこにはある。
既にザーザーと雨が降りだしていた。降り続く雨で2人はびしゃびしゃのずぶ濡れ状態。
「おいら、身体が弱いから、風邪ひきそうなんだ」
言ってクシャミをする宅ちゃん。
「はっ、鍛錬が足らんようじゃな」
呆れたように言い放つゴン太だが、すでに満身創痍。立っているのもやっとの状態。
とにかく次の一撃で決めるしかない。宅ちゃんの姿は、こうしてちゃんと見極めている。
その脳天に一撃入れられれば……
「行くぞ!」
鉄パイプを上段に構えて飛び出した。
「おい」
堪らず叫ぶ宅ちゃん。
ガラガラと天が嘶いた。
そしてひとすじの稲光が天を真っ二つに分断する。
「今はダメなんだな!」
すかさず飛び出し、ゴン太の鉄パイプを奪い取る宅ちゃん。
辺りが真っ白く輝きを放った。
「嘘だろ、あの野郎」
「マジか、霧隠先輩」
その様子をシュウと由利は呆然と見つめていた。戦いの手を止めて食い入るように見つめる。
結果から言って落雷を受けたのは宅ちゃん。完全に黒焦げ状態でダウンしてる。
そこにエリ女やエリザベートが駆け寄って介抱していた。
宅ちゃんはピクリとも動かない。あれだけの落雷だ、動く方が不思議だろう。
一方のゴン太は無傷。呆然と倒れる宅ちゃんを見下ろしていた。
「おい宅殿!」
「ダメです、早く病院に!」
「救急車の手配!」
誰もが呆然自失でテンパっている。
「拙者が運ぶ!」
すかさず駆け寄り、宅ちゃんを背負うゴン太。
「頼んだぞ、ゴン太殿!」
「行けゴン太!」
「遅いんだよ!」
「拙者は土方歳三」
こうして宅ちゃんをおんぶしたゴン太は、エリザベートたちと共に、境内を抜けて階段を下りて行った。
こうして2人取り残されたシュウと由利。呆然とその様子を見つめていた。
「とりあえず、俺らの勝利だな」
シュウが言った。
「なんじゃと?」
それを怪訝そうに睨む由利。
「形はどうであれ、宅ちゃんは倒れた。立ってたのはゴン太。これで俺らの一勝ってことだべ」
シュウの台詞は大胆極まりないもの。
大胆すぎて流石の由利も、返す言葉もない。
「ホンマ、むかつく奴じゃ」
「そいつは誉め言葉と捉えておくぜ」
そして2人、改めて対峙する。
ここまで2人は、ほぼ互角といっていい戦いを繰り広げていた。
互いの攻撃で既に身体はボロボロだ。どちらかがあと一発決めればそれで終わりだろう。
「いい加減潰れろや!」
怒号と共に飛び出すシュウ。左右の拳を乱打し、怒涛の攻撃を繰り出す。
「潰されて堪るか」
それを弾き出し、さらなる攻撃を加える由利。
「ならばこいつだ!」
くるりと回転するシュウ。左のバックブローを飛ばす。
だが由利は、それをバックステップで回避した。
すかさずシュウの懐に踏み込み、右のアッパーを飛ばす。
「ぐっ!」
しかしシュウは、それを両腕をかざしてカードする。
そのままヤクザキックをぶち込み、由利の身体を押し返す。
由利の身体がぐらつく。
「とどめだ!」
それめがけてシュウが右のストレートを繰り出す。
「甘いぜ」
間髪由利が、それを左腕で弾き出した。
そして振り向きざまのバックブローを飛ばす。
「あめーのはてめーだ!」
もちろんシュウは、それをリーチの長さ分だけバックステップで回避する。
由利の拳がシュウの目の前を掠めた。
その直後、シュウのこめかみに強烈な痛みが襲い掛かった。
一瞬、意識が吹き飛びそうになるシュウ。身体がぐらつく、天と地が分からなくなる衝動。
それでも足を踏みしめ、倒れるのだけは阻止する。
「悪いなシュウ。少しばかり獲物を使わせて貰った」
膝に両手を預けて見上げるシュウの眼前、由利は右手に革の袋のようなものをたれ下げている。
これは由利が制服の背中に隠し込む武器のひとつ。革袋の中に鉄の重りを仕込んだ代物だ。
由利の拳はかわした筈だが、そのたるんだ重りが、シュウのこめかみを貫いていたのだ。
対するシュウはなにも言わない。ただ上目使いで由利を睨むだけ。
「正々堂々やりたいが、これは戦争なんでな!」
由利の放つ右の蹴りが、シュウの鼻頭を捉える。
がっと天を仰ぐシュウ。真っ赤な鮮血が宙に舞った。
それを鬼の形相で睨みつける由利。
「悪いがエリザベートの為、死んでくれや!」
ぐっと右拳を振りかぶると、躊躇いもせずシユウの顔面にぶち込んだ。
そして続く沈黙。ザーザーと雨の降る音だけが響き渡る。
シュウは声もなく立ち尽くしていた。髪は垂れ落ちて、雨に打たれて血混じりのしずくが滴る。
ゆらゆらと覚束ない足取り。ゆっくりと由利の胸元に崩れ落ちた。
「悪いな、シュウ。恨まねーでくれや」
さばさばと言い放つ由利。
死闘を演じたライバルへの、せめてもの手向けの台詞だった。
「……別に恨みはしねーよ」
シュウが言った。
「えっ?」
愕然となる由利。
その両肩がシュウに掴み取られた。
「そんな攻撃で、俺様が獲れると思ってたのか」
シュウのギラギラした視線は健在だった。
両手で由利の身体を絡め取り、ゆっくりと頭を振る。
「まさかあの攻撃だぞ?」
困惑する由利だが、がっしり肩を掴まれて逃げることは出来ない。
「大阿修羅の怒り、とくと味わえ!」
その額に強烈な頭突きを打ち込むシュウ。
それは確実に由利の脳髄を揺らしていた。即座にその意識が吹き飛ぶ。
シュウに掴まれたまま、身体が崩れ落ちた。
「俺を誰だと思ってんだ。あのくらいじゃ俺は獲れねーよ」
ザーザーと雨は降り続く。幾多の思いを乗せて、いつまでも。




