悪夢の入学式 いじめられっ子
この性格も、出身校も、内に秘める想いも違う者たち。
だがその宿命はいつしか紡ぎ合い、巨大な大河となって突き進んでいくのだ。
流されて、押し流されて戻れぬ場所へと。
そう全てはこの時から始まっていたのだ。
後に“第一次オーク戦線”と呼ばれる、禁断の闘いの悪夢の。
「ははは、どうしたらいいの?」
そんな複雑な関係など、その少年に取ってはどうでもいいことだった。
争いに参加してないのに彼は傷だらけだ。
闘いのとばっちりを受け、他の一般生徒にさえ嫌われる。
出口はない、体育館中央部は激しい戦場。壁際は多くの一般生徒で溢れ、逃げ込む隙間もない。
「あ、あそこだけ開いてる……」
それでも壁の角際、少しだけぽっかり開いた空間を見つけた。
そこは何故か、ひとりの生徒がいるだけでその周りには誰もいない。
制服をビシッと着込み、黒いパーカーを頭から深く被った男のみだ。
「た、助かったよ」
安堵の表情と共にその空間に足を進めた。
そしてその少年の様子を、遠くから数人の生徒が愕然と見つめていた。
「おい、あのガキ、あの空間に歩いてるぞ?」
「マジだ。あの小僧、死ぬな」
「なんでさ?」
「馬鹿、お前しらねーのか? 伝説の悪党の名」
「伝説の悪党って、まさか“魔王”か」
「そうさ魔王。噂じゃ通り魔に刺されて死んだってなってるが、実際は違う」
「駅前に夜な夜な現れるんだろ? 深夜遅くに街中を徘徊する」
「あれは伝説の男さ。実際ここに入学した多くの荒くれは、あいつの首を狙ってる。あの首を討ち取れば、県下さえ手中に治められるって噂だからな。そして多分、あのパーカーの奴こそが魔王さ。顔を隠してるが、不気味なくらい覇気を纏ってる」
「成る程、だからあそこ、誰も寄り付かないのか」
見えざる恐怖に慄くように、呆然と呟いている。
「へへへ、ゴメンね。失礼するね」
そんな生徒たちの不安も余所に、少年はニコニコと笑顔を振りまいてパーカーの傍に身を潜める。
「し、死ぬぞ、あの小僧」
「魔王の顔みて、笑いやがった。出合った相手はフルボコ、それが魔王の噂だ」
顔面蒼白の生徒たち。恐怖に背筋から冷たい汗が滴った。
パーカーの視線が少年に向けられた。
「へへへ」
しかし少年は臆することはない。へらへらと笑みを浮かべて、ホッとため息を吐いている。
「狩りだ、魔王の狩りだ。地獄の視線、全てを凍りつかせる地獄の視線」
「コエーよ。ションベンちびりそうだ」
「ははは、怖いよね。どうしてあんなに殴り合い出来るんだろ?」
ボソリと呟く少年。
対するパーカーはやはり無言だ。
視線を戻して、男達の争いを食い入るように見つめるだけ。
「嘘、なんもしねーぞ」
「見当違いか。魔王じゃない」
「そんなもんさ」
こうして少年とパーカーは、並んでその地獄の光景を見つめていた。
いじめられ続きだった少年と、激しい運命を背負った伝説の男。
それがこの2人の、始めての出会いの場面だった。




