激昂する新開アンディ
数十分後、アンディの姿が個人病院のロビー内にあった。
傍らには大勢の仲間、そして東雲の姿も。
ここまでは東雲の車で駆け付けていたのだ。
東雲の車といっても、東雲の物ではない。彼の姉だという女が運転する車だ。
ことの事態を訊いた東雲が姉に頼み込み、ここまでアンディを送ってきていた。
「まだ、意識が回復してないんだろ?」
「頭にダメージを受けたらしいからな」
「それだけじゃないんだろ? 確実に暴行目的で襲われたみたいだから」
「それはわかんねーじゃんよ。……リサの意識が回復して、改めて訊いてみないと」
「襲ったのは数人らしいぜ」
「リサの話じゃ、みんなマスクと帽子で正体を隠してたらしい」
「ひとりだけ、帽子の下から金色の髪の毛が見えてたってことだけど」
「長い金髪の奴なんか、いくらでもいるしな」
白い壁で覆われたロビーの一角、仲間たちが悔しげに呟いている。
「チアガール部で、ここまで遅くならなきゃ、こんな目には遭わなかったろうに」
「予算のことなんかで遅くなってたんだろ?」
「いつもなら顔も出さないのに、たまたま行ってこんなことになるなんてな」
その日リサは、所属するチアガール部の会合で帰りが遅れていた。
それが予定よりも長引き、誰もいない公園を通り抜けようとして、犯行に遭ったらしい。
事実裏手公園で倒れているリサを発見したのも、同じチアガール部の1年生の女生徒だ。
困惑した女生徒が、アンディの仲間に連絡し、事件がアンディの知るところとなったのだ。
「犯人の目星は付かないのか?」
仲間がアンディに訊ねた。
「ある訳ないだろ。逆に言えば、可能性がある奴はごまんといる」
悔しげにうな垂れ、両手で頭を塞ぐアンディ。
「警察に、通報した方がいいのかな?」
別の仲間が呟いた。
「馬鹿、そんなこと出来ねーだろ!」
すかさず顔を上げ、言い放つアンディ。
「そうだよな。警察なんかが介入すれば、俺たちの方がヤバイ……」
呼応して仲間がうな垂れた。
「ひとつだけ、犯人の目星になるものがあったんだ」
また別の仲間が言い放った。
「……目星?」
アンディが視線を向ける。
「こいつさ、煙草の吸殻」
仲間が手前にかざすのは、ハンカチに包まれた、数本の吸殻。
「なんだ、この煙草? ゴールデンバットか?」
「今どきこんな煙草、吸ってる奴いるのかよ?」
「この煙草、犯行があった場所にいくつも残ってたんだよ。相手はかなりのヘビースモーカーだ」
ヒソヒソと囁きあう仲間達。
そしてその囁きあいは、ひとつの可能性に導かれていく。
「金髪で、ヘビースモーカーで、ゴールデンバットって……」
「……玉木、仁」
漠然とした可能性だった。
その場の誰もが口を噤み無言になる。
断言こそ出来ないものの、真実に一番近いのは確かだ。
そのとき診察室のドアが開いた。
「リサさんの意識が回復しました」
そして看護師が出てくる。
「そいつは良かった」
「一先ず安心だな」
「取り敢えずな」
場に安堵のため息が響いた。
それでも憂いの感情が拭えた訳ではないが……
「リサ……」
呆然と佇むアンディ。
誰もがその心痛察するに堪らないものがあった。
リサの意識が回復したことは嬉しいことだ。しかし問題は、その身に何が起こったか……
その状況下、東雲がゆっくりと立ち上がる。
「俺はこれで帰るぜ」
言い放ち踵を返す。
「悪かったな」
言葉少なに、その背中に投げ掛けるアンディ。
今の彼に東雲にかまっている余裕などなかった。
……今の彼に取って、気になるのはリサの安否と、その身体の純潔のみ。
見えない焦りばかりが、その脳裏に渦巻いていた。




