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底知れぬ野望


 街並みが、赤一色に染まっていた。

 遠くから響き渡る夕焼け小焼けのメロディが、寂しい感情だけを押し上げていた。




 ~喫茶ヘヴン~



 その空間、東雲たち数人が疲れ果てた表情で座り込んでいた。



 蜂須賀と千家の機転により、彼らの脱出は成功を収めていた。


 だが山崎に敗戦したという事実と、蜂須賀や千家といった主要人物を欠いて、今後への憂いばかりが頭を渦巻いていた。



「……あいつら無事かな?」

 ボソッと呟く明智。ひどく落ち込み、青ざめた表情だ。



 自分が無事だったことより、多くの犠牲が生じたことが、彼の気持ちを暗くしていた。



「大丈夫だろ、あいつらだって殺すまではしないさ」

 淡々と言い放つ東雲。抑揚ない、どこかうつろな台詞だ。



 その起伏のない台詞が、明智の感情を逆撫でする。


「そりゃー、殺すまではしないだろうが、仮にも相手は敵だぜ」

 声を荒げて言い放った。


「怒んなよ、光昭ちゃん」

 それを森がなだめた。


「……でもよ」

 明智は本気で心配していた。犠牲になった多くの仲間に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 その表情を食い入るように見つめる東雲。


「あの湯田の外道なら、怒りに駆られてなにをするか判んねーだろうな。……だけどあそこには大野や玉木、男気を尊重する奴もいた。病院送りなんて、そこまでのことはしない筈だ」

 そして投げ掛けた。



 確かにそうだ。湯田と古谷、そして鳳仙なら、蜂須賀たちを袋叩きにして殺す一歩手前まで追い込むことも考えられる。


 しかし大野や玉木といった連中が、それを許す筈はないと思われた。


 その台詞を聞き入り、明智の不安も少しずつ和らいでいく。


「そうだな。無事だよ」

 自分に言い聞かせるように呟いた。



 こうして場は、表面上の安堵を取り戻す。



「それよりどうすんだよ今後の展開? 今の情況じゃ、正規軍どころか志士の会にだって太刀打ち出来ねーぞ」

 森が言った。


「……葛城が参戦すればアウトだわな」

 ソファーに背を預けてなにもない宙を見つめる東雲。

 口に煙草をくわえて火をつける。



「山崎にも驚いたが、あのジャージの小僧、かなり強い感じだったろ? いきなりとは言え、斗馬をグラつかせるんだからな」

 森の表情はいつになく真剣なものだ。

 山崎率いる正規軍に、底知れぬ恐怖を感じたようだ。



 東雲は無言だ。

 あの時の情況を思い出すように、眼前に右手をかざし見入っている。


「……斗馬」

 それを察して森も黙り込む。



 室内は西陽に照らされて、血のように赤一色で染まっている。

 やがて訪れるであろう、暗黒の夜を想像させて、少しばかり寂しさを演出していた。



「やっぱ、アンディか」

 グッと表情を強張らせる東雲。


「……やるのか?」

 それに呼応して、森の表情も引き締まった。



 しかし明智にはその会話は理解不能だ。


「アンディって、あいつはてっぺん争いに興味がない筈じゃ?」

 困惑したように視線を向ける。



 その視線の先、東雲と森はテーブルの上をなにやらゴソゴソと探っている。


「おい、訊いてるのかよ?」

 堪らず言い放つ明智。


 不意に東雲が視線を向けた。なにやら楽しそうな満足そうな笑みで。


「やっぱお前さ、中々の男前だよな。……ナンパ師そっくりだ」

 意味深な言い回し。


「ハァ? ナンパ師って、お前なにを言ってるんだ」

 やはり理解不能な明智。


「ほら、こうすりゃ立派なナンパ師だ」

 突然森が、明智の後方からなにかを被せた。


「おい、冗談は止めろ!」

 イラつき気味にそれを脱ぎ捨てようとする明智。


「取るなよ、その“カツラ”」

 東雲が一喝した。


「は…?」


 明智の頭に被せたのは、金色のカツラだった。



 そしてその明智の表情を、東雲がマジマジと見つめている。



「へぇー、こうすると益々そっくりだぜ」


 

 意味深に言い放つその顔は、なにを考えているのか理解不能だ。


 夕日で赤く染まるその顔は、燃え盛る狂気の炎のようにも思えていた。

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