ハゲタカ
「おい湯田、本気でそんなことするつもりなのか?」
大野が言った。
「ホント勘弁して欲しいわ。俺だって、こんなクソみてーな手段、嫌なんだけどよ」
その後方からは両手をかざす玉木の姿も。
そしてさらに後方には、会に名を連ねる多くの生徒の姿もあった。
「……そうか、判った」
その一番手前を歩くのは湯田だった。耳に携帯電話をあてがって誰かと通話している。
彼らは学園校舎裏付近を歩いていた。普段使われぬそこに、他に人の姿は皆無だ。
「へっへへ、ビンゴだよ。負けたのは東雲斗馬。命がけの脱出の最中だとさ」
そして通話を終えて、大野たちに伝えた。
それこそが湯田の画いた計画だった。
東雲と山崎の闘い、どちらが勝つにせよ大きな深手を受けるのは確実だ。
化け物と揶揄される両者も所詮は人間。大なり小なり怪我はする筈。
そんな状態ならば、叩き潰すのも容易なこと。
湯田はそれを狙って志士の会の面々を召集していたのだ。
しかし大野は納得行かない表情だ。
「湯田、マジでこんなことするのかって訊いてんだ!」
憤りを全面に押し出して、湯田の手前に回り込む。
「ああ、本気だぜ」
しかし対する湯田は至極冷静だ。立ち止まりもせずに言い放つ。
「ちゃんと訊けよ湯田!」
堪らず吠える大野。
チッと舌打ちする湯田。仕方なさそうに歩みを止めた。
それで多くの視線が大野を捉える。
「ボロボロになった奴を強襲して、それでてっぺん掴んでも、虚しいだけだじゃないか?」
諭すように言い放つ大野。
「虚しい? 勘違いすんなよ朝陽。確かに俺たちのリーダーはてめぇだ。だけどそれは、命令系統としてのリーダーじゃない。……俺たちは同士であって、服従関係じゃないんだ。今あの外道を倒さなきゃ、最後に潰されるのは俺たちなんだぜ」
しかも湯田の態度は変わらない。
「俺もそう思うぜ。あの馬鹿は頭を潰さなきゃ死にはしない。それに山崎が勝ったってことは、葛城が参戦したら無敵って意味だ。その前に東雲を潰して、俺らの傘下に吸収するのも有りだと思うわ」
それに同調して言い放つ古谷。
多くの面々はそれに賛成とばかりに、うんうんと頷いて訊いている。
その様子を玉木は、口に煙草をくわえて訊きいっていた。
確かに大野の言い分は正しい。正々堂々と学園の覇権を摑み取る。それこそ理想と呼べるだろう。
しかし同じく、それは単なる理想であるとも認識している。湯田のような考えこそが正解なのだと。
この世の中、正義一辺倒では生きにくいから。所詮人が生きていく限り、どこかで誰かを傷付けているのだから。
「まぁ、いいじゃねーか朝陽。これが戦争ってことだ。条理不条理置いといて、東雲の脅威がなくなるなら良しとしようぜ。それこそが俺らの大義だろ」
そう感じて玉木も言った。
特に東雲斗馬という男は想像以上にしぶとい。まるで毒蛇のよう。頭を潰さなければ、再び復活する恐れはあるだろう。
「だけどよ、あいつ、あそこから逃げ出せると思うか? 校内は多くの対抗勢力でいっぱいらしいぜ? まさに袋のネズミだ。しかも手負い」
そして煙草の煙を吐き出し訊ねた。
およそ東雲達はあの空間からは、脱出不可能に思えた。
しかもこんな校舎裏に集結する意味が判らなかったのだ。
「多分、逃げ切るだろ。あの東雲って小僧は、そうとう悪知恵が働く。……今回の襲撃だって、敗北したときのこと、つまり逃げ出す方法だって考えて仕出かしたと考えるのが妥当だ」
湯田の口元に笑みが浮かんだ。




