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混沌と化す学園


 ~1年D組~


 全ての教師が生徒会執行部開催の風紀委員会に出席している為、全クラスは自習となっていた。


 故に多くの生徒が、ガヤガヤと会話に興じている。



「風間、雷丸!」

 だが突然そこに別のクラスの生徒が侵入してきた。

 その先にいるのは風間と雷丸だった。


「どうしたよ、吉田?」

 怪訝そうに投げ掛ける雷丸。


「山崎さんが、襲撃を受けてるらしい。相手は東雲派閥、桜田さんらとは分断されてるそうだ」

 吉田が言い放った。


「なんだって?」

 興奮気味に立ち上がる雷丸。


「なに、孝之さんが?」

 視線を宙に泳がす風間。


「ふざけんなよ、あの小僧……」

 既に雷丸は興奮状態だ。ドンと机を叩いて立ち上がる。


「なんてこった、あの鬼畜野郎」

 風間も言い放ち、その後を追うように教室を抜けていった。



 東雲が山崎を襲撃した件は、瞬く間に校内に広がっていった。


 東雲、山崎両派閥の生徒のみならず、葛城派閥の生徒達も、動き出す事態と相成っていた。






 ~同時刻~1年B組~


 教室内には、幾多の雑音が鳴り響いていた。

 それは生徒達の持つ携帯電話のSNS着信音。

 多くの生徒は携帯電話を見つめて内容確認をしている。


「なんだって?」

「へー、そいつは面白い」

「馬鹿じゃねぇ?」

 誰もが覚めたような、卑下たような表情だ。


 ひとり2人と席を立ち上がり、教室外に姿を消していく。



「なんだよ、今度は大木達だぜ?」

「さっきは後藤達だったよな。なにか起こってるのかよ?」


 多くの席が、ぽっかりと空いた教室内。一般の生徒たちがザワザワと囁いている。



「どうしたのかな?」

 同じく太助がボソッと吐き捨てた。



 出て行った生徒は、シュウと同じ帝中出身の生徒がほとんどだった。故に嫌な胸騒ぎがしていた。


「気にしないことね。単なる不良たちの馬鹿騒ぎだから」

 傍らに座る女生徒が言った。黒髪のおさげ髪、原田真優だ。


 彼女は、太助の数少ない話し相手のひとりになっていた。


「でも、こんなの初めてだよ?」

 それでも太助は落ち着かない様子。


「まっ、確かになにかが大きく動き出そうとしてるのかもね。ここにいない連中は志士の会に名を連ねる人たちだから。…それに大木くんは、葛城くんと仲いい存在だし。その2つの派閥が動いたって意味は、血みどろ戦争の始まりなのかもね」

 真優の推察は的確だ。


 携帯電話を確認していた生徒は、大野率いる志士の会の生徒たち。


 東雲と山崎の闘いの狭間で、志士の会も暗躍している状態たった。


 もちろんそこにはなんの興味を示さぬ生徒たちもちらほら見受けられる。


 シュウはひとり、机に突っ伏して寝入るだけだった。






 ~1年A組~



 そしてその情況は、このクラスでも同じことだった。


 多くの生徒が携帯電話を確認し、無言で教室を去っていく。


 それを多くの一般生徒は呆然と見守るだけ。


 そしてその中には、大野の姿もあった。


「なにを考えてるんだ、あいつらは……」

 意味深に呟き、席を立ち上がる。


 その少し後方の席には、玉木の姿もあった。席に深く座り込み、うんざりそうに両手を広げて欠伸していた。


「なんだよ朝陽、お前も行く気なのか?」

 そして大野に投げ掛けた。


「ああ。湯田の奴、どうにかしてる。こんなSNSを、一斉送信するなんて」

 大野の表情は、真剣そのものだ。なにかを憂い、なにかに困惑した様子だ。


「へへっ、あいつらの考えそうなことだ、しゃーねーじゃんよ」

 それに比べて、玉木は飄々とし態度だ。

 ちなみに彼はバリバリのガラケー。SNSには加わっていない。口頭で内容は確認していた。


「とにかくこのままじゃまずいだろう。行くぜ仁」

 言い捨てて歩き出す大野。


「やだねー、俺も行かなきゃならねーのかよ。メンドーだよな」

 玉木も渋々とその後を追って行った。



「はん、ようやるわな」

 そしてその情況を、後方から覚めたように見つめている生徒がいた。


 緑の髪をモヒカンに刈り込んだ生徒だ。

 痩せこけた頬で、やたらに細い眉毛が特徴的だ。首からヘッドホンをぶら下げている。


「山崎の旦那も、東雲とか言うけったいなガキに襲撃されては、堪らんもんじゃのう」

 男は今の現状を、粗方知り尽くしているようだ。


 知りながら動かないと言うことは、どの派閥にも属していないと言う意味だ。



「それより猿飛、マジであの黒瀬とかいう小僧、追い込みかけるんか?」

 そして誰かに訊ねた。


 その傍らの席に座るのは、黒い猿。全長20センチ程の可愛い猿だ。

 頭にはイチゴの髪飾りが付けられている。



「まぁ、ええじゃろ。姫の逆鱗に触れた男じゃからのう。なんかしらの、ケジメはつけなアカン言うこっちゃから」

 

 それは、傍から見れば不可思議な光景だ。


 それでも教室内の多くの生徒は、その光景をサラリと受け止めている。まるでそれが当たり前のように。



 多くの者が常識と思う事象の全てが、世の中の事象の全てではない。


 自らが常識と思う半分は、他からすれば非常識だ。逆に自らが非常識と思う半分は、他からすれば常識。


 つまりこの光景はオーク学園においては日常。常識の範疇ということだから。







 ~3年A組~


 1年クラスがひしめく、1階エリアとは別に、3年クラスがある3階エリアは騒然とした光景が広がっていた。


 3年生の三分の一程は、山崎率いる正規軍の生徒達だ。故に廊下での押し問答に参加している。


 故に残された数人の生徒が、教室後方で会話に興じていた。


「派手なことになったな。あの孝之が、1年生の襲撃に遭うとは」

 その中央部、堂々と座り込むのはエリザベート。


「教師たちが会合に出向いているこの情況に、このような事態になるなんてね」

 傍らの金髪の女生徒が憂うように言い放つ。


「この情況だからこそ、それを利用したんじゃねーか?」

 虎が言い放った。


「確かに有り得るじゃろうな」

 腕を組み、同意するように頷く竜。


「これは恐らくは罠だろう。生徒会の会合もどこかおかしい。山崎は罠に嵌められた。つまりそういう構図だ」

 意味深に言い放つエリザベート。



 多くの者がそれを受けて真顔になる。

 オーク学園において、生徒会の存在は大きい。下手すれば教師たちの威厳をも上回るものがある。

 おそらくだが教師たちは、その思惑によって動けない状態にあると思えた。



 そしてエリザベート、前方の空いた席を見つめた。



「負けるでないぞ、奴を守りきるがいい」

 誰に言うでもなくボソリと呟く。

 その表情に浮かぶのは、不安と希望が混在した神妙なもの。複雑な感情だけが脳裏を過ぎっていた。

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