この拳で叩き潰す
一方で山崎たちは、仲間がそんな情況に追い込まれているなど知りえる筈もなかった。
「しかし最近、校内でケンカが絶えないな」
「あの東雲とかって小僧だろ?不気味な奴だよな」
「中坊時代の誠の敵だよな」
仲間たちと煙草を吹かし、和やかに談笑していた。
「それにしても、あいつの処分、やけに早かったよな?」
眉なしの生徒が言った。
「ああ。多くの意見じゃ、誠の方が早く解除されるって言われてたのにな」
角刈りの生徒も神妙に頷いた。
その台詞を、山崎は窓際に背を預けて聞き入っている。
「確かにそうだが、気にせんでいいだろ。もうすぐ誠の謹慎も解けるだろうしな」
そして外に視線を向けて言った。
その瞳に籠もるのは、憂いの感情ではない、先を見据える明るいものだ。
「だわな、あの小僧の謹慎が解けたってことは、誠だって解けるって意味。もうすぐ俺達の時代ってことだ」
「あんな小僧なんか、問題にすることもなくなるよな」
それを察し、仲間達も自然と笑みを浮かべた。
「ごめんよ、先輩。失礼させてもらうからな」
「へっへへ、問題は大有りなんだよね」
不意に、第三者の声が響いた。
「オラーァ、死んどけ!」
「ダボがぁ。そんなんで死ぬか!」
「てめーよくもやったのう!」
「ウラー終いじゃ!」
体育館内は、激しい闘いの最中だった。
「ほらよ、こいつを喰らいな!」
モヒカンの一年生が、ヒゲ面のわき腹に拳を放つ。
「クソッ?」
後方に回避するヒゲ面。
「なめんな、ガキが!」
ムカついたように、裏拳を放った。
しかし既にモヒカンの姿はない。遠くの方まで回避していた。
「てめーの相手はこっちだ!」
刹那、鈍い痛みが後頭部に走った。
別の長身の男が、その後方で構えていたのだ。
「あーっ、アッタマくんな! ちょこまかちょこまかと、入れ代わり立ち代りで!」
あくまで戦争と考えていた桜田たち3年生とは違い、千家達の対応は違ったのだ。
「あのボーズを狙え」
冷静に情況を判断し、的確に檄を飛ばす千家。
「了解」
それを仲間達が聞き受け、即座に攻撃して回避行動をする。
まさにヒット&アウェーの戦略だった。
「クソが、逃げてんじゃねーぞ!」
「マジだぜ、やる気あるのかよ!?」
対する三年生たちは、怒りばかりが先行して空回り状態。
痛みよりムカつきの感情の方が大きかった。
しかし、そんな情況などお構いなしな存在が2人。
「おりゃー!」
「なんの!」
拳と拳がぶつかり合った。
「ぐっ?」
「はっ!」
そして同時に飛び退く蜂須賀と桜田。
「中々やるじゃねーか。姑息な集団の頭とは思えんよ」
ヘラヘラと笑みを浮かべる桜田。
「あんたこそな。流石は山崎の側近中の側近」
口を真一文字に曲げ、無表情に答える蜂須賀。
こちらの闘いは、熾烈なものだった。駆け引きなど一切無視の本気の死闘だ。
「なにを考えてるんだ? お前はともかく、あいつらのやり方は戦争をしてるとは思えんぞ」
横目で千家を見据える桜田。
「……悪いが、その質問には答えられん。俺たちは敵同士だからな」
敢然と答える蜂須賀。
形の上では彼らは敵同士。それでも桜田を好敵手と見なす敬意が窺える。
そしてその意志を、桜田もおぼろげに汲み取る。
「成る程、そいつは理解した。だけど、だったら何故お前は真っ向から挑んで来るんだ?」
そして訊ねた。
「知れたこと。お前をこの拳で打ち崩したいって感じたからさ」
蜂須賀は崇高なる精神を保持する男だ。様々な手段を用いる東雲の参謀ではあるが、けしてその意志を曲げることなく、正々堂々と突き進む戦士。
「了解、だったらこっちも、本気でお前を叩き潰すのみ」
それを知って桜田の表情が益々笑みに染まった。




