強襲
カラーンコローン。始業を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
四時限目の始まった校内、多くの生徒は授業に集中し、廊下に人影は皆無。
手洗い場の蛇口からは、水滴がポツリポツリと滴り、寂しさの中にもいつも通りの風景を演出している。
窓の外は澄み切った青空。萌えるような緑と協調し、やがて迎えるだろう夏の匂いを彷彿させていた。
3年F組~
「へへへ、じゃろ? だから俺は答えたんだって、そんなんで止めちゃ、意味ねーべよって」
「だわな、それは言えてるよ」
ここは山崎のクラス。数人の男子生徒が体育の授業をサボって、教室の端で談笑している。
「なんだお前ら、今日も体育をサボってこんな所で雑談かよ」
そこに山崎が現れた。
「へへへ、ウゼーじゃんよ、バスケットなんか。これだけ天気もいいのに、体育館なんかに引き篭もれるか」
「おっと、お前の場合、校庭でのソフトボールだってサボるじゃん」
「へへへ、言えてる」
山崎の問い掛けに、仲間たちの表情も益々笑顔に染まる。
「それより孝之、なんだったのよ生徒会執行部の話って?」
「だわ。生徒会の会合に呼び出されるなんて、普通じゃ考えられんぞ」
そして怪訝そうに問い質した。
「さあな、俺だって訳が判らんさ。俺を呼び出したはいいが、生活態度がどうの、姿格好がどうのと、要領を得ない話ばかりだった。時計ばかり気にして見てるんだぜ? 意味が判らんよ」
山崎が呆れたように答えた。
彼は生徒会執行部の呼び出しで、会議室に行っていたのだ。
その話が長引いて、体育の授業に間に合わなかった。
「とにかく、体育の授業は休みだな。ここで一緒にサボるべよ」
「今更着替えてまで、いかねーだろ」
「だわな、今日の体育はサボりだ」
仲間に同調するように、煙草を取り出して口にくわえる山崎。
生徒会の思わぬ呼び出しにより、こうして体育の授業をサボることとなった山崎。
だがこれは、偶発的に起こったことではなかった。
そう必然的に意図されたこと……
同時刻、体育館~
そこでは3年E組とF組の男子生徒が、合同でバスケの試合をしていた。
「しかしこれだけ晴れてるってのに、中でバスケってのはねーよな」
「確かにそうだけど、外は風が強そうだぜ」
「いいんじゃねぇ? どうせ俺らはこうして見てるだけだし」
「センコーは、生徒会の会合で留守だしな」
多くの生徒は穏やかな表情だ。
ある者はボールの奪い合いに熱い汗を流し、ある者は壁際でノホホンと会話に興じていた。
「ほらほらお前ら、そんなとこで腐ってちゃ、せっかくの青春がダメになるぞ」
バスケに興じる、赤い髪の爽やかそうな男が言った。
「なんだよ桜田、てめーだけで熱い青春かましてればいいじゃんよ」
「そうそう、俺らは汗臭いことに興味はねーからさ」
それに壁際にたむろする生徒たちが返す。
赤髪の生徒は桜田総一郎、山崎と同じ3年F組の生徒だ。
「へへっ、これだからいけねーよ。どうやら孝之の方も、今日はサボりのようだし」
呆れたように呟く桜田。
彼は山崎の側近で、熱い血潮と、かなりの腕っ節を誇る男だ。
そのとき不意に、表通用口と校舎との通用口扉の両方が開く。
そして幾多の生徒が侵入してきた。
それは1年生、東雲派閥の生徒たちだった。
「はん。今は俺たちの授業の時間だぜ? どこのクラスよ?」
「1年坊共だな?」
怪訝そうに視線を向ける3年生。
「おいおい小僧共、今は俺たちのバスケの授業中なんだぜ」
桜田も怪訝そうに投げ掛けた。
しかし1年生たちはなにも答えない。卑下たように笑みを浮かべるのみ。
その1年生を仕切っているのは、蜂須賀と千家だ。
「山崎先輩のとこの、桜田総一郎だよな?」
低い声で訊ねる蜂須賀。重苦しい雰囲気だ。
「……そうだと言ったら?」
それを察して睨みを効かす桜田。
「悪いが、あんたらにはここでおとなしくしてもらう。この場所は閉鎖する!」
千家が叫んだ。
それに呼応して、その仲間が通用口を閉鎖した。
それは不良ではない一般の生徒からすれば戸惑いの対象だ。
「なんだよ? 俺ら閉じ込める気かよ」
「ここでケンカでも仕掛ける気か」
「意味わかんねーって」
ザワザワとしたざわめきが包み込む。
「お前ら、東雲の仲間だよな?」
「戦争でも始める気なのかよ?」
それでも十数人の3年生は毅然とした態度だ。
神妙そうな視線で千家を睨む。
「いや、俺たちに戦争の意思はない。現時点ではな」
意味深に言い放つ蜂須賀。
「現時点だぁ?」
それでピクリと身をもたげる桜田。
蜂須賀の返答如何では、直ぐにでも飛び掛りそうな勢いだ。
それを蜂須賀の鋭い視線が捉える。
「おとなしく従うならよし、従わぬ場合は痛い目を見てもらう。そういう意味さ」
恫喝するように言い放つ蜂須賀。
やはり彼らは、抗争するためにここを襲撃したらしい。
もちろんそれで桜田が納得する筈はない。
「成る程、やる気満タンってことか。だったら先輩の怖さ、教えるまでさ」
両拳を構えて、戦闘態勢を取った。
「閉鎖だ? ふざけんなよ1年坊!」
「俺たちは最強の山崎組だぞ!」
「従う筈ねーじゃろうが!」
同じくして幾多の3年生が切り込んでいく。
「上等だ! ならば力づくで捻じ伏せるのみ!」
呼応して動き出す千家。
「よっしゃー、全て叩き潰す!」
「ぶち殺してやるぞ!」
こうして閉鎖された空間で、激しい闘いの狼煙が挙がったのだ。




