現状の勢力図
こうして幾多の生徒の思いを乗せて、カレンダーの日付は緑爽やかな5月へと移り変わる。
「はぁー、ゴールデンウイーク明けのガッコーはキツいな」
「ホントだぜ。休みなんて、終わってしまえばあっという間だったな」
放課後の教室の片隅、2人の生徒が話し込んでいる。
「そう言えば訊いたか? ナイトオペラ、新体制に代わったんだってさ」
「訊いたぜ。噂通り沖田が横浜西口支部長、浅郷が野毛支部長だって話だろ」
「前田、真田、早く帰ろーぜ」
そこにひとりの生徒が近寄ってくる。
金髪の爽やかそうな少年だ。
「分かってるよ大和」
「よお、夏樹。相変わらず呑気な様子だな」
挨拶を返す2人。
「なんの話してるんだよ?」
金髪が近くの席に座った。
「オーク学園の現状についてだよ」
「現状?」
「“新チーム”作るなら、現状把握は大切だろ」
「このガッコーは複雑だからな」
「まぁ、確かにな」
そしてその2人の返答にうんうんと頷く。
「……で、なんの話してたっけ?」
「ナイトオペラの話だよ」
「そうそうナイトオペラ。ホントあいつらも大変だよな、辺りにはブラックス、ジーク、オデッサ、レイニーウエィなんてチームが乱立してるのに、内部抗争の火種が芽吹いてる」
「あの2人が戦争起こしたら、どっちが勝つんだろうな?」
「知るかよ。だけどそうなりゃ、駅前は血の海じゃねぇ」
「そりゃー当然なるさ、血の海ってやつに。横浜駅近辺で、一番最強と呼ばれてるのが兵頭だ。ナイトオペラの抗争には、あいつも少なからず絡んでいるらしい。それにあの辺はたまにシュウが徘徊する。あの4人、道で出会っただけでもケンカしそうな勢いだ。それが事実なんだよ」
不安そうに話す2人だが、金髪は覚めた表情。
「シュウも一弥も、龍馬も雅也も強いからな。俺も早く有名になりたいよ」
飄々と笑顔を見せるだけ。
この少年、オーク学園では無名の人物だ。
それなのにこの大胆な発言。
故に2人は呆れの表情。
「ナイトオペラって言えば、あれの話は知ってるか? 1年の佐藤ゴン太」
「佐藤ゴン太? ……新撰組の羽織り着込んでるあいつか?」
金髪を無視するように話し出す。
「そう『拙者は土方歳三』って喚いてるあいつ。あいつ、沖田に『ナイトオペラに加入させてくれ』って頼んで断られたんだとさ。それで剣道部に入部したんだってさ」
「あれもヤバいよな。いつも木刀持ってる。森竜丸と変わらんぞ。あれがヤンキーじゃなくて良かったわ」
「佐藤ゴン太って、加賀見中学のNo.2だろ?」
その会話に金髪が混ざってくる。
それを2人、冷めた視線で見つめる。
「冗談だろ、加賀見のNo.2は永倉だぞ」
「そうそうNo.1が沖田で、No.2は永倉。常識だ」
そして呆れたように言い放つ。
「そうなの? 俺は佐藤だって訊いたのに……」
こうして金髪はひとりうな垂れる。
「やれやれだね、夏樹」
「そう言うのに疎いのも大和の良いとこだ」
怪訝そうに言い放つ2人だが、それも仲間なりの友情の裏返しだろう。
「だったらこれは訊いたか、1年E組の櫻井と松本の話」
「それって、チャラけた2人組みだろ?」
「チャラけてるけど、あいつらもヤバい奴ららしいんだよ。あの2人、ジャニ学に二宮と相羽の4人で乗り込んだらしいんだわ」
「ジャニ学? イケメン揃いの有名校。裏じゃ相当な悪党校で有名だけど」
「半殺しにしたんだって。あのヤクザの息子で有名な“堂本ブラザーズ”を」
「堂本ブラザーズ? あの極悪非道な兄弟をか?」
「凄かったらしいよ。止めに入った奴らの親、そいつら共々長期の入院コースだってさ。……尤もそのせいで、あの2人無期停学らしいがな」
「ヤクザが学生に負けた? そんなんじゃ示しがつかねーだろ?」
「ああ、だからこの件、ヤクザがらみのお咎めは一切なし。逆にヤクザからの引き抜きも相次いでるってよ」
「人は見かけだけじゃないんだな。良かったよ俺、あいつらにケンカ売らなくてさ。チャラけた奴とばっかり思ってたから」
オーク学園にとって、東雲や葛城、大野など、学園抗争に名を連ねる人物だけが有名人ではない。
ストリート系チームの争いに賭ける者、他校との因縁に燃える者、異質ゆえに居場所を求めて彷徨う者と、別のステージで名を馳せる猛者は多くいる。
誰もがその運命に駆り立てられ、熱すぎる青春を生きていた。
時間は着実に動きを見せていたのだ。
「それより早く帰ろーぜ。帰ってFXの仕上げするんだ」
その話題に飽きたのか、金髪が言った。
「外で待ってるぞ」
そして足早に教室を抜けて行った。
「おいおい大和」
「相変わらず飽きっぽい奴だな」
その後ろ姿を覚めたように見つめる2人。
「だけど仕方ねーな。あれを組み上げるのは楽しみだし」
「それじゃ俺らも帰るか」
そしてへらへらと笑みを浮かべて、金髪の後を追う。
ちなみにこの金髪を含めた3人。
今は無名だが、後に市内最強の暴走チームを作り上げる初期メンバー。
2人の会話は廊下に歩み出ても続く。
「それに引きかえて校内でのケンカ、少し下火になってきたよな」
「仕方ねーだろ。もともと大野は、てっぺん争いとかには興味がなかった。自らの守るべき仲間が無事ならそれでいい。この均衡が続いてれば、満足なんだろ?」
「言われてみればそうかも知れないな。あいつ、仲間って言葉に異様に反応する。よほど仲間が大切なんだろうな」
「だけど東雲たちはイラついてんじゃねぇ? このままグダグダした情況が続いてれば、葛城が帰ってくる。そうなりゃてっぺんなんか掴み取れる訳がねぇ」
「どの道東雲たちは、打つ手がなくてアウトだろな」
一方で東雲派閥と志士の会の構図は、がっぷり二つの情況を呈していたのだ。




