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魔王VSファン倶楽部

「……へっ? あいつ、あそこを通る気してんぞ」

「マジだ、エリザベートのまん前じゃん?」

「死ぬ気か?」

 だがそんな生徒たちからざわめきが起こった。


 その視線の先、あり得ない光景が広がっていたのだ。

 ひとりの生徒が、パレードに興じる集団の眼前を悠々と横切ろうとしている。



「えっ? ……シュウくん」

 愕然となる太助。

 それは黒瀬修司、シュウだった。



「ひ、姫の前を横切ったな?」

「お主、邪魔だ! 姫の御前であるぞ!」

「どかぬと轢き殺すぞ!」

「消えろって言ってんだこのクソが!」

 興奮気味に捲くし立てる倶楽部の住人。



「なんだぁてめーら。俺様がどこを横切ろうと、俺様の勝手だべ。てめーらの指図なんざ受けるか」

 しかしシュウの対応は覚めたものだ。両手をポケットにねじ込み、敢然と睨みを利かすだけ。


「お前、新入生だな? 悪いことは言わん、おとなしく引き下がれ」

 ルパン3世を彷彿させる緑のジャケットの男が、シュウを押し払った。


「さわんな、このクソ野郎!」

 しかしシュウは、それを拒むように男を押し倒す。


「なっ、逆らいおった?」

「マジかよあいつ?」

「ケンカ売ってるのか?」

 辺りが恐怖に凍りつく。


 そしてそれと同時に、倶楽部の住人達の怒りを呼び込むこととなる。


「キサン、我が校の秩序を知らんらしいのう。ここでナマスにしてくれようか?」

「マジだわ。少々痛い目、見せてやろうかぁ!」

 歩み出したのは傭兵風の角刈りの男と、派手な競馬勝負服に身を包んだ男だ。

 ……おそらくミリタリーマニアと、競馬マニアだろう。


 躊躇いもせずにシュウに向かって拳を走らせた。



「なんだてめーらは?」

 怪訝そうにそれを見つめるシュウ。


 それ目がけてミリタリーマニアが拳を繰り出すが、シュウはバックステップでそれをかわす。


「うぜーんだ!」

 そして振り向き様の回転蹴りをミリタリーマニアの腹部に叩き込む。


「くそ!」

 間髪入れずに拳を大きく振りかぶる競馬マニア。


 しかし、シュウはその懐に飛び込んで、競馬マニアの顔面に頭突きを打ち込んだ。



 こうして2人、ズルズルと崩れ落ちた。

 


「迷惑なんだよ、俺様にちょっかい出すな」

 うんざりそうに吐き捨てて、その場を後にしようとするシュウ。


 しかしそれを倶楽部の住人が見過ごす訳がない。


「おのれ、フザケおって!」

「倶楽部にたてついたこと、病院のベットで後悔するがいい!」

「俺たちゃ最強エリザベート・ファン倶楽部!」

 十数人の住人が怒涛の如くシュウ目掛けて突っ込んでいく。



「ウゼーっての! はっ倒すぞ、馬鹿たれが!」

 呼応して戦闘態勢を取るシュウ。



 かくして激しい闘いの狼煙が挙がった。



「嘘だろ? 魔王とファン倶楽部の戦争かよ、あり得ん光景じゃん」

「さすがシュウだよな、魔王の異名は消えても、あの狂った闘争心は健在だ」

「だけど、相手も相当なもんだぞ。シュウ相手に一歩も引かない」

「あのデカイ奴ってプロレスマニアだろ? レスリング部さえ破門になった凶暴な奴」

「こっちのハッピ着た奴は、ヲタ芸マニアだ。桜木町じゃ有名な奴」

 多くの生徒が愕然とその闘いを見つめている。



「シュウくん、凄いな」

 同じく太助も、その様子を食い入るように見つめる。


「……」

 そしてその一番高い場所、台車の最高部から、覚めた視線を向けるエリザベート。


「もうよい、止めるのだ」

 不意に倶楽部住人に向けて通達した。


「ちっ」

「くっ」

 それで住人たちが攻撃の手を止める。


「……」

 シュウも怪訝そうに睨みを利かしてその腕を下ろした。



「中々の腕前だな、感服したぞ」

 エリザベートが言った。


 それをムカついたように見つめるシュウ。


「はん、飛んでもねーゲテモノ集団だな」

 ペッと唾を吐く。


「ゲテモノだと?」

 それでピクリと眉をひそめるエリザベート。その透き通る白い肌が微かにざわめく。



「ゲテモノっつったら、ゲテモノだ。なによりそれを仕切ってるのが“クソ女”なんだから始末に追えねーな」

 それでもシュウの毒舌は止まらない。躊躇いもせずにアッサリと言い放つだけ。


 しかしその台詞は、ここでは禁止だった。


 誰もが戸惑い、声も出せずに立ち尽くす。



 そこに漂うのは、激しい憤怒の感情と、心まで凍り付くような恐怖の感情。




「よう言うたわ小僧、ワシら兄弟が、オドレの相手したるわ!」


「かわいそうだが、病院送りは決定だな!」

 突然2人の生徒が、シュウ目掛けて飛び出してきた。


 制服の前をはだけさせ、ジャラジャラとした鎖を胸元にかざすアフロヘアーの巨大な生徒と、制服の下に派手な獣の毛皮を着込んだ小柄な短髪の生徒だ。



「三好兄弟!」

「“淀川十勇士”の登場だ!」

 住人達の黄色い声が挙がる。



 巨体の生徒は三好竜みよし りゅう、小柄は三好虎みよし とら


 エリザベートファン倶楽部内でも、特に異質を誇る双子の兄弟だった。



 因みに竜は弟、虎は兄。体格的には逆だが、それが事実だ。


「ほら、こいつを喰らえよ!」

 猛然とタックルをかます竜。


「ぐっ!」

 それをシュウが両腕をかざして受け止める。

 直撃は免れたが、それでもかなりの衝撃がその身体を襲いかかる。



「どんなに強かろうが、所詮はワシらの敵じゃないんよ!」

 その間に虎の方が激しい乱打を繰り出してくる。



「なんだ、クソが?」

 それは小柄な人物の拳とは思えぬほどの強烈な重みがあった。

 シュウの身体が小刻みに震える。有り得ぬ痛みを刻まれていた。



 2人のコンビネーションは的確だった。

 竜が体格を生かした派手な攻撃を繰り出せば、虎がフットワークを駆使した攻撃を繰り出す。


「ウゼーぞ、てめーら!」

 それは怒りに燃えるシュウの体力を、確実に殺ぎ落としていく。

 あっという間に防戦一方に陥った。



「嘘でしょ、シュウくん」

 その光景を愕然と見つめる太助。


「当然よね、彼らは淀川十勇士。裏の支配者といっても過言じゃない」

 一方の押尾は、覚めたような言い草だ。



「なんですか、その十勇士って?」

 それに別の1年生が訊ねた。



「ファン倶楽部の幹部よ。エリザベートを守っているのは、なにもドノーマルな倶楽部会員だけじゃない。オーク学園の悪魔的存在、淀川十勇士と呼ばれる10人の戦士たち。それとエリザベートを直接ガードをする、エリザベート女子高生部隊。通称“エリ女”っていう女が完全とガードしてるのよ。だから山崎たちも、彼女らには手を出せないの」

 押尾が答えた。



 つまりエリザベートファン倶楽部には、淀川十勇士という10人の戦士と、エリ女という2人の女戦士がいる訳だ。



 因みに今エリザベートの両脇にいる女生徒2人、それがエリ女だ。


「十勇士といえば、最近新しい奴が入ったらしいぜ」


「ホントに? 三好兄弟だけでも面倒なのにね」

「例の替え玉入学あっただろ。それがそのひとりらしい」

「あの猿のことかしら……」

 こうしてヒソヒソと囁きあう押尾と陸上部員。



 しかし太助はそんな話など興味はなかった。


 いま興味があるのはもちろん……



「ほらほら、いてまえや!」


「どうだ。エリザベートの悪口、これ以上言ったらダメだぜ!」


 三好兄弟の、執拗な攻撃は続いていた。

 力任せにシュウを殴り続ける竜。

 その間隙を突いて、シュウを攻撃する虎。


「ウオーーーッ! イテーってんべよ!」

 それに堪り兼ねたか、シュウが狂気に吠えた。


 突然飛び上がり、竜の背中にしがみつく。



「な、なんだ小僧? 放れろよ!」

 それを竜は、身体を揺さぶって振り落とそうとする。



「アメーンだよ! この俺様に勝てるわきゃねーべよ!」

 だがその首筋を、シュウがチョークスリーパーの形に封じ込んだ。


「ガ……?」

 それは竜の頚動脈を確実に捉えていた。その顔色が、徐々に蒼白になっていく。



「ワレー、虎の身体から放れろや!」

 それを止めようと、虎が必死に飛び上がってシュウの足に拳を撃ち放つ。



 しかし如何せん小柄な虎のことだ。

 その拳に破壊力は皆無。シュウには少しのダメージも刻まれない。


「てめーの方が止めろってんだ」

 逆にシュウの放つ蹴りが、虎にダメージを刻み込んでいいた。


 こうして形勢は、完全に逆転したのだ。



「なんてこった、三好兄弟が梃子摺てこずってるぞ」

「マジだ、こんな情況久しぶりだ」

「やっぱシュウ、メチャクチャなケンカっぷりだ」

「オークの、てっぺん争いに、あれが参加してなくてよかったぜ」

 再び辺りが雑然と成り代わる。

 誰もがシュウの実力を、改めて認識していた。

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