体のいい生贄
翌日~オーク学園~
「見てみろよ、あいつらまだいるぜ」
「ホントだ。朝からずっとだぜ」
「あれってアルタイルの奴らだな」
「伊勢佐木辺りのストリートチームだな」
2時限目を終えた教室内、多くの生徒たちが窓の外を見つめている。
その視線が捉えるエリア、学園校門付近には、多くの男達が陣取っていた。
「確かなんだろうな? そのクソがここの学生だってのは?」
「ああ、名前と高校名は押さえてる。ここで間違いない」
「ザけたガキだわな。ウチラ相手にケンカ吹っかけるなんてな」
「見つけたらメチャクチャに壊してやるぜ」
「だけど、別の奴にはケンカ売るなよ。ここにはナイトオペラを始め、危ない奴らの出入りも激しい」
そこに集うのは、繁華街を中心に活動する武装チーム“アルタイル”の面々。数にして約十数人。
誰も彼もが、怒りに燃える復讐の炎に燃えている。
その狂気の光景を余所に、ひとりの生徒がそこに歩み寄ってくる。
アルタイルの表情が煌いた。
「頭、来ましたぜ奴が!」
「ホンマじゃ、遅刻しての登場とは大胆な奴じゃ」
肩で怒りをあらわにしながら歩み出す。
「なんだよ、朝っぱらから大勢で」
それは東雲だった。
その危険な空気も鑑みず、ひどく余裕の表情だ。
「てめー、良くもノコノコと登校出来たもんじゃのう? 俺らの仲間、闇討ちしといて」
「ホントだわ。アルタイルなめてんだろ?」
一斉に東雲を囲みだすアルタイル。まさに一触即発の情況だ。
そしてその様子を、教室内で森たちが静かに見つめていた。
「あれって、アルタイルの奴らだな。斗馬の奴、大丈夫なのかよ?」
不安げに言い放つ明智。
「大丈夫さ、あいつは自信があるから、“奴らを襲ったんだ”からな」
その傍らで無邪気に笑う森。
とぼけた表情だが、東雲への揺るぎない想いが見える。
それを察して、明智もグッと視線に力を籠めた。
「だったら、そのふざけた顔、苦痛に歪ますまで!」
肌の浅黒い短髪の男が特殊警棒を振り伸ばす。
そして東雲に向かって走らせた。
「させねーさ!」
身を低くしてそれを躱す東雲。
即座に短髪の腹部に拳をぶち込んだ。
「ぐっ?」
弓なりに反り返り、顎を引く短髪。
「俺を叩き潰す気なら、全員で掛かってくるんだな!」
その顔面を、東雲の蹴りが捉えた。
「がぁはっ」
後方に吹き飛ぶ短髪。
その台詞と態度が、男達の怒りを引き出す。
「おうよ、ボコボコに潰してやるぜ!」
「後悔すんじゃねーぞ!」
怒号と共に、一斉に駆け出した。
「おらーっ! 死ねや小僧!」
大男が勢い良く拳を振りかぶる。
その懐に飛び込む東雲。すかさず右のアッパーを叩き込む。
「てめー、よくもウチのメンバーを!」
ギャル男っぽい金髪の男が、小刻みな左右のパンチをかざし襲ってくる。
「キャキャ、弱い奴がわりいんだろ?」
東雲がバックステップでそれを回避する。
そして足払いを仕掛けた。
「ぐおっ?」
勢い余って前のめりにコケる金髪。
東雲が、円を画くように右の拳を走らせる。
「ケンカが弱くちゃ、武装集団も終いだな!」
そして金髪の頬を引っ掛けるように、地面に打ち込んだ。
「野郎!」
「これでどうだ!」
今度は2人同時だ。金色のメッシュの男と、紫色の長めの髪の男。
2二人同時に東雲に向けて拳を乱打する。
「確かに2人相手はヤバイよな」
ボソッと言い放つ東雲。
「後悔すんなよな! てめーの病院送りは確実だ!」
メッシュの拳が、東雲の顔面を狙う。
「だが、甘いんだわその考え」
東雲がその拳を、左手で掴み取った。
しかし全ての脅威を回避した訳ではない。
その後頭部目掛けて、長い髪の男が拳を繰り出していたから。
「アメーのは、そっちだろ!」
意気揚々と拳を打ち払う長髪。
「……なっ?」
だが意外な力でその頬が激しく歪んだ。
東雲が回転して、強烈なバックブローを打ち込んだのだ。
「アルタイルだぁ?」
メッシュの腕を絡め取る東雲。
「あ、あ……」
恐怖に怯え、身を竦ませるメッシュ。
東雲がその身体を一本背負いで投げ捨てる。
そして馬乗りに飛び乗って、上空から強烈な拳をぶち込んだ。
それは鮮やかすぎる怒涛の展開。
「嘘だろ? ……この人数相手に、ここまで差があるなんて」
「あいつ、傷ひとつ負ってねーよ。それどころか笑ってるし」
既にアルタイルたちの闘争心は折られていた。
この人数相手に圧倒的実力を誇る、東雲斗馬と言う男に、明らかな恐怖と畏怖の感情を抱いていた。
それはその情況を見守る、多くのオーク生徒たちからしても同じ思いだ。
多くの生徒が、東雲の強さを痛感していた。
その重厚な空気の中、東雲はゆっくりと歩き出す。
「……」
その手前に立ち尽くすのは、オールバックに髪を撫で付けた、鼻や口にピアスをつけた男。
アルタイルのリーダだ。
どうやら東雲の恐怖にたじろいで、逃げ出すことさえ出来ないようだ。
「悪かったって、あんたの力、この目で見たよ」
声を震わせて言い放つのみ。
「キャキャキャ、気付くのがおせーんだよ」
その眼前で、東雲が笑みを浮かべる。
「俺たちは、あんたを認める。……な、なんなら、あんたが俺らのリーダだってかまわねーんだぜ」
「はぁリーダだって?」
それで怪訝そうに髪を掻く東雲。
「いらねーよ、こんな弱小チーム」
そしてアッサリと吐き捨てる。
「元々おめーらは、弱小チームだろ? 伊勢佐木には“レイニーウエィ”や“樹楽醍”って武装組織が乱立してる。おめーらはその中でも最弱チーム、そんな奴らとなんて関わる必要ねーもんな」
その台詞は、アルタイルからすれば意外な台詞だ。
「だったら何故、俺たちのチームを襲った?」
困惑して訊ねた
無言でリーダーの襟首を掴み取る東雲。
「生け贄だよ、生け贄。俺の力を、オークの奴らに分からすだけのスケープゴートなんだよ」
そして躊躇いもなく、オールバックの顔面に頭突きを打ち込んだ。
「……」
オールバックが声もなく崩れ落ちた。
「あれが、東雲斗馬か……」
その様子を窺い、ガクガクと震える明智。
改めて東雲の実力を思い知らされていた。
「へへへ、マジあいつは策士だよ。策士なくせにケンカの腕もハンパねぇ」
その肩を森がポンと叩いた。
「あいつならやれるかもな、オークのてっぺん、もぎ取ること」
それは明智としての本音の台詞だった。
今までは東雲に対して、恐怖の念しか抱かなかったが、畏敬の念が新たに込み上げていた。
『へへへ、どうやらてめーの作戦、巧く功を奏したようだぜ』
その明智の台詞を聞き入り、東雲を見据える森。
これは最初から東雲の画いたシナリオだった。
わざとアルタイルを怒らせてオークまで誘き出し、大勢の生徒が見守る中で壊滅させる。
こうして自分の力を誇示して、他の勢力を威嚇する。
全ては彼の思いのままに突き進んでいたのだ。




