頭は使いよう
喫茶ヘヴン~
「なんだって? 志士の会だと」
ソファーにふてぶてしく座り込む東雲が言い放った。
東雲の髪型は、あの時と変わりはしなかった。
森に散髪代を貰った彼だが、風俗と煙草にその金は消えたと言うことだ。
「ああ、すまない。まさか大野が玉木や大瀬良、湯田なんかと連合を組むとは思わなかったんだ」
その眼前、顔中包帯だらけの千家が申し訳なさそうに伝えた。
「バーカ、そんなことでウチに兵隊、半分もオジャンにされるなんて、てめーらしくねーだろ」
呆れたように言い放つ東雲。
「マジだぜ、せっかくここまで蓄えた勢いが、これで断ち切れたって訳だ」
森も肩で木刀をトントンと鳴らしながら呟く。
大野率いる志士の会との戦争は、彼らの勢力に著しいダメージを与えていた。
多くの生徒が怪我を負って戦線離脱。
数人の者は志士の会を恐れて派閥を離脱していた。
「どうするんだよ斗馬? このままじゃ俺たちが、奴らに飲み込まれることさえ予測できるぞ」
堪らず言い放つ明智。
壁際では蜂須賀が、腕を組んで無言で見つめている。
それだけ大野率いる志士の会の出現は、彼らに混沌たる感情をもたらしていた。
しかしそんな張り詰めた空気の中、東雲だけは余裕の表情だ。
「ある程度は予測できてたさ」
煙草を口にくわえて、上体を逸らして天井を見つめる。
「弱い奴の生まれ持った防衛本能なんだよ、群れるって行為は。……いわしの群れと一緒だ」
煙草の紫煙が天井に棚引いた。
「なんだよそれは? 生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぜ」
その言っている意味が判らず、喰い寄る明智。
それで東雲がゆっくりと顔を戻した。
「慌てんなって。いわしが群れてその姿を大きく見せても、所詮はいわしだべ? 本当のクジラなんかにゃ敵わない」
そしてニッと笑う。
「……斗馬」
「バーカ。てめーは焦りすぎなんだよ。そろそろ俺の謹慎処分も解ける。それからが勝負っちゅうこった」
「謹慎が解ける? ……だってお前の処分は無期だった筈じゃ?」
堪らず投げ掛ける明智。
入学式の一件、一番重い処分を受けていたのは東雲だった。
だから直ぐにその処分が解けるとは、思いもしないこと。
現に他の連中はまだ謹慎処分中だ。
トントンと指で頭を弾く東雲。
「頭ってのは使いようなんだぜ。……それに生まれ持った立場ってのもな」
意味深に森に目配せする。
「そう言うこった。準備は万端、あと数日もすりゃぁ、斗馬の謹慎は終わりさ」
呼応して森も笑った。




