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太助、身売りされる



「さあ諸君、後は入部の承認を残すのみだ。ウチに入部してくれるんだろ?」

 足柄が言った。



「うーん、どうしようかなー」

 その手前、テーブルの対面には太助が座っている。

 そしてその他にも、数名の新入生の姿もある。


「いいじゃんよ、いじめられっ子が強くなるストーリー。まさに“はじ○の一歩”だぞ」


「そうね。内藤大助選手なんかも、昔はいじめられっ子だったしね」

 傍らではハマジと押尾が爽やかな笑みを浮かべていた。



 太助はあの日の見学以来、幾度となくこのボクシング部に足を向けていた。


 足柄や押尾を始め、先輩の態度は優しいものだった。

 いじめっ子のハマジも、先輩の前だと妙に優しい。



 なにより太助自身も強くなりたい願望はあった。

 いじめられ続きの人生を打開したいという強い想いが。



「俺、入部お願いします」


「ボクも入ります。強くなりたいです」


「足柄先輩みたくなれるかな」

 他の新入生たちが次々と入部手続きの紙に署名していく。



「……おいらも、やってみようかな」

 そして太助も気合を籠めて、自分の名前を書き込んだ。



「うふふ、今年の侵入部員は“5名”ね」

 その署名された紙切れを、ニコニコと回収して上機嫌で去っていく押尾。



 その場に居合わせた新入生は、太助とハマジを含めて六人。

 入部を辞退したのは、ひとりということだ。



「がっはっはははは! よう我が闘拳部に入部したな、小僧共!」

 突然、足柄が吠えた。


「へっへっへ、ひい、ふう、みい……今年のオモチャは5人か」


「どいつもこいつも、力のなさそうなクズ共じゃんよ」


 後方では優しかった筈の先輩たちが、狂気の眼差しを向けている。



「へっ? 足柄先輩」


「どう言うことです」

 その様子に、困惑してテンぱりだす太助たち新入部員。



 足柄が竹刀片手に立ち上がった。



「貴様らの最初の仕事は、腕立て伏せ1000回、及びスクワット1000回、地獄椅子1時間! 出来ねー奴は人間サンドバックだ!」

 そしてテーブルに激しく振り落として恫喝どうかつした。



「……嘘でしょ? 訊いてないよハマジくん」

 テンぱってハマジに視線を向ける太助。


 しかし当のハマジはそんな太助などお構いなしだ。



「足柄先輩、どうです俺が連れて来た奴らは? しごき甲斐あるでしょ」

 足柄に向けてヘラヘラと笑みを浮かべている。まるで“越後屋”のように……



「おう、ウチには特待生の優秀な新入生は揃ってるからな。今欲しいのは、使いっぱとさ晴らしのオモチャだけだ。良くこれだけの人材を集めたもんだ」

 満足そうに微笑む足柄。


 上機嫌でハマジに千円札を手渡した。



「ははは、おいらたち、お金で売られたんだね。……ひとり当たり二百円」


 太助はボクシング部に二百円で売られたのだ。



 そしてそれこそがまさに、地獄の日々の始まりを意味していたのだ。

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