悪鬼退治
学園の平和は地に落ようとしていた。
連日学園各地、市内に飛び火して乱闘が起きる。
その尖峰的集団は東雲派閥。森、明智、蜂須賀を主軸とした極悪集団の躍進だ。
最初は小さかった水の流れ。それは幾多の水滴を吸収して徐々に膨らんでいく。
せせらぎとなった水の流れは、更に別のせせらぎと合流し、更なる大きな支流となって突き進む。
こうして支流となった流れは、本流となって突き進むのが常だ。
数日後~1年G組~
教室内は異様な空気に包まれていた。
一般の生徒が輪を作って、呆然と視線を向けている。
その輪の中央、椅子に平然と座る男を、数人の生徒が覚めたように見つめていた。
その生徒たちは東雲派閥。
そしてそれを仕切るのは千家政宗。
「魔王の右腕、大野朝陽だな?」
千家が言い放った。
その眼前で、悠然と椅子に背を預けているのは大野朝陽。
辺りに彼の仲間はいない。仲間の隙を突いての襲撃だから。
「確かに俺が大野だ。だけど魔王の右腕ってのは、過去の呼び名に過ぎない」
サバサバと言い放つ大野。
「そうだな、魔王の軍勢は既に解散に追いやられた。……だな、悪鬼大野?」
覚めたように伝える千家。
「ふん」
瞼を閉じる大野。
その大野の覚めた態度は、男達の怒りを押し上げるには充分だ。
「ムカつく野郎だぜ。帝中のNo2ったって、所詮はNo2。たったひとりでなにが出来る?」
「ホントだわ。正宗の、ましてや斗馬の敵じゃない」
今にも襲い掛かりそうな剣幕で声を荒げる。
しかしそれを千家が腕をかざして制する。
「一応、訊いとく。俺達の仲間に入って、オークの覇権を掴むか? それとも今、ここで叩きのめされるか? どっちだ」
そして言い放った。
一瞬の沈黙。誰もが耳を傾けて、大野の返答を待つ。
そして響いたのは、ズダーン、という狂音。
大野が足で机を押し退けた音だ。
「だったら一応答えとく。……どちらも願い下げだって」
そしてゆっくりと立ち上がって千家を睨んだ。
「なんだと?」
眉をひそめて、睨みを返す千家。
「恭順も、敗北も願い下げってことさ。俺が選ぶのは勝利。蛮行に及ぶ暴君など、この手で排除するって意味だ」
大野の覚悟は強固なものだった。
その瞳に宿るのは何事にも動じぬ純粋さで、その心に刻むのは何事にも屈せぬ意志。
そしてその身体に纏うのは、荒野を切り拓く、崇高なる覇気だった。
しかし相手は狂気で武装した東雲の子飼いたちだ。
「いい度胸じゃんか。てめーひとりでなにが出来るってんだ!」
憤るように茶髪の男が、大野の胸ぐらに腕を伸ばす。
「汚い腕を伸ばすな!」
大野が左の拳を走らせた。
「ふえっ!?」
茶髪の鼻頭が弾けた。
「お前みたいな外道に、俺が獲れる訳ないんだよ!」
その腹部に大野が強烈な右の拳をぶち込んだ。
「ゲッハーーッ!」
苦痛に顔を歪め、後方に吹き飛ぶ茶髪。
机や椅子をなぎ倒して、床に倒れ込んだ。
「成る程、流石は大野朝陽。一筋縄じゃ行かないようだ」
その様子を認め、千家の表情が剣を帯びる。
「だからこそ、ここで貴様の首を貰い受ける必要があるな」
そして意味深に言い放つ。どうやら中途半端な決着は望んでいないようだ。
ゼロが百か、完全なる答えが望みらしい。
それを物語るように、仲間たちが戦闘態勢を構える。
千家の号令如何では、即座に戦闘に持ち込む覚悟の程が窺えた。
「俺の首を貰い受けるだって? そんなことができるのか?」
しかし大野は冷静だ。幾多の男達に囲まれて、なおも威風堂々たる表情。
「できるもなにも、この人数だぜ」
しかし千家の台詞は、的確なもの。
東雲の軍団は、今や数十人規模に膨れつつあった。
対する大野は、中学時代の武勲があるとはいえ十数人程の仲間を従える派閥。
しかも今のこの場所にその姿は皆無。
圧倒的武力で打ち崩されるのが目に見えている。
「東雲斗馬、昔からやり方は変わらないようだな」
大野が言い放った。
「なに?」
「圧倒的な数の兵隊を送り込んで、敵の首を討ち取る。それが奴のやり方だ」
その大野の台詞にかすかに眉をひそめる千家。
「確かにそれが斗馬の闘い方さ。巨大な恐竜だって、蟻の群れにかかればお手上げ状態。それこそが戦争ってもんだろ」
それでも冷静に返って答えた。
「くっくく、はっはははは!」
突然、大野が天に向かって高笑いしだした。
千家たちはその意味が判らず、茫然自失に陥る。
「俺の首を獲ろうと、かなりの兵隊引き連れて出向いたようだが、“囲まれてるのは”お前らなんだぜ」
大野が言い放った。
「なに?」
意味が判らず、辺りを見回す千家。
「そう言うこと。ちゃんと周りを見て、言えってんだ」
「東雲の馬鹿にてっぺんくれてやる程、俺たちは馬鹿じゃねぇ!」
「数なら俺たちの方が、圧倒的有利なんだぜ!」
刹那、一般生徒の輪を切り裂いて、数人の男たちが雪崩れ込んできた。




