東雲派閥 蜂須賀理
同時刻~1年H組~
「ぐおーっ!」
髪をオールバックに撫で付けた長身の男が後方に弾け飛んだ。
「なめんなよ、このクソが!」
それでも床に足を踏みしめて、踏ん張りながら眼前を睨む。
「なめてねーよ。最初から貴様の実力は知ってたからな」
その眼前にはひとりの男が立ち尽くしていた。
茶髪をリーゼントで撫で付けた、太った身体にサングラスを掛けた男。
蜂須賀理。東雲の参謀役的生徒だ。
その周りは、敵味方入り乱れた多くの者たちで囲まれている。
辺りに響き渡る叱咤激励の声援。
数分前のことだ、蜂須賀が仲間を率いてこのクラスを襲撃したのは。
白熱したバトルはいつしか過熱して、大将同士のタイマン勝負と相成っていたのだ。
「まさかお前が、東雲の兵隊をしてたとはな。飛んだ笑いモンだ」
口から滴る血を、腕で拭い去るオールバック。
この男と蜂須賀は、昔からの顔馴染みのようだ。
それでも蜂須賀は冷静。
「笑いたきゃ笑えよ。お前は所詮は小者、斗馬の実力を知らないだけだ」
アッサリと、それでいて恫喝するように答えた。
「斗馬の実力だ? ……ヘドが出るぜ」
イラつくように吐き捨てるオールバック。
それでもその額に流れるのは、冷たい汗。
蜂須賀、それと東雲の実力に、明らかな恐怖を抱いていた。
ポリポリと後頭部を掻く蜂須賀。
「いいんだぜ、斗馬が嫌いならそれで」
そして上目遣いでオールバックを睨んだ。
「だけどこれは戦争。仲間になるなら、受け入れもしよう。……だが嫌だと言うなら、ボコボコに叩き潰すのみ」
それは、明らかに蜂須賀の最後通告だ。
それを察し、ゴクリと唾を飲み込むオールバック。
受け入れるべきか、拒否するべきか、相当悩んでいるようだ。
そして沈黙が辺りを包んだ。
「まっ、仕方ねーな」
イラつきを顕わにするように、拳を突き出す蜂須賀。
「病院通い程度で、済ましてやるさ!」
怒涛の如く走り出した。
「やって見ろよ! 返り討ちにしてやるからさ!」
オールバックも、見えざる恐怖を追い払うように拳を構える。
「えっ!?」
そして愕然と声を漏らした。
目の前にいるはずの蜂須賀の姿を、いつの間にか見失っていたのだ。
「先ずは初戦、楽勝といかせて貰うぜ」
下方から響く蜂須賀の声。
同時に、激しい痛みが腹部に走った。
蜂須賀は身を低くして、オールバックの死角に潜んでいたようだ。
「ぐはっ!」
痛みに堪えかねて腰を引くオールバック。
「吹き飛びな!」
その顔面を、蜂須賀のストレートが貫いた。
「……」
声もなく吹き飛ぶオールバック。
机を薙ぎ倒して、後方に崩れ落ちた。
「悪いな、今ので骨が折れたようだな。入院生活に、変更だ」
蜂須賀の口元に浮かぶのは笑み。
全てを叩き潰しても、東雲をてっぺんに君臨させようという、決意の表れだった。
「どうする? お前らの大将は敗れ去ったぜ。これ以上、俺たちに刃向かうか?」
そして蜂須賀、周りに陣取る生徒たちを見回す。
辺りでは、オールバックの仲間も見入っていた。
しかしそれらはなにも答えない。つまりは恭順することを意味していた。
その様子に満足そうに懐から携帯を取り出して操作する蜂須賀。
「……1年H組、落としたぜ」
サバサバと会話しながら教室を後にした。




