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黒瀬修司、その過去



 そして翌日。~オーク学園1年B組~



 朝の教室の光景。


 机に突っ伏し寝入るシュウを、帝王中学の面々が取り囲んで、雑談を交わしている。



「しかし、お前が高校に進学するって聞いた時はびっくりしたんだぜ。中学もろくにいってないのに、ここに入学できるなんてな」

 短髪の生徒が訊ねた。


「中学の頃は、ガッコー側の命令で、自宅でベンキョーしてたんだよ。それにオークって、金さえ積めば誰でも入学出来んべ」

 チラリと瞼を開けるシュウ。


「そうか納得、確かだわ」

 短髪がうんうんと頷いた。



「休んでる間、駅前とかでエラク暴れてたそうじゃんよ。“ナイトオペラ”の奴ら怒ってたぞ、魔王が俺らのテリトリーを徘徊するって」

 リーゼントに頭を撫で付けた生徒が言った。

 ナイトオペラとは、駅前に拠点を置く武装チームの名だ。



「馬鹿、あれは買い物に出かけてただけだ。それなのに因縁つけてくる、迷惑なのはこっちなんだよ」

 ムカつき加減に吐き捨てるシュウ。その光景を想い出してか、額に青筋をたててる。


「夜中にか。買い物っていったい?」

 それでもリーゼントは納得が行かない。更に問い質す。


 しかしシュウの方も納得いかない表情だ。


「いいべよ別に。プライバシーの侵害だ」

 ムスッとして吐き捨てる。



「まぁ、それはともかくさ、一弥の奴言ってたぜ。『シュウの首、獲るのは俺だ』って」

 別の生徒が割って入る。小柄な、ニキビ面の生徒だ。



 その台詞に、怒り心頭気味のシュウ。


「やるならやれっての。言っとくが、“俺様を殺す”覚悟がなきゃ、俺様は負けねーぜ」

 それでもそうとう眠いのか、ファーっと大欠伸をかく。


 それに反応して、面々の表情が笑顔に変わった。

 いつものシュウだ。そんな雰囲気。



「シュウ、ここにくる途中で、大乱闘したって言うじゃん。国道沿いを血の海に染めたんだってな」

 今度はオールバックの剣呑な生徒が訊ねた。


「馬鹿、被害者はこっち。俺様が車に轢かれそうになったの。奴が勝手に事故ったの。……献血の収集車だったから、血の海になったんだべ」

 またもや訳の判らぬ答えを返すシュウ。


 面々の混乱は、益々深まるばかりだ。



 もっとも多くの生徒たちは、シュウに対し不信感や嫌悪感は微塵も感じてないようだ。

 その誰もが、かつて知ったる仲間。故に懐かしそうに会話に興じていた。



 そんなシュウ達の方向に、ひとりの女生徒が近づいてきた。


 眼鏡姿で、肩まで伸びる黒髪を両肩で結わえた女だ。


「シュウ、お早う」

 淡々と言い放ち、教室最前列の席に座り込んだ。


「オウ、おはよー」

 シュウも視線も向けずに言い放つ。


 それで周りの面々の会話が止んだ。


「シュウ?」


「今の女、誰?」


「知り合いか? 見たことねーけど」

 顔を寄せて、怪訝そうに訊ねる。



「知らねー。昔どっかで会った女じゃねぇ?」

 しかしシュウの態度は淡々としたもの。


「そうだな、シュウは有名人だからな。顔を知ってる奴はごまんといる」


「女嫌いなシュウが、特定の女なんかいる筈ないしな」


「それよりあんな女、昨日いたか?」


「昨日はいなかったな。だけど一昨日はいたぜ」


「でもあの女、俺もどっかで見た感じなんだよな?」



 因みにこの女、原田真優はらだ まゆ。加賀見中学出身の女だ。




 そしてそんなガヤガヤした様子を、太助が教室の後ろから眺めていた。



『ふうーん。シュウくんって、多くの仲間がいるんだ』いつものように、ニコニコと朗らかに。



「おい斉藤、なにをヘラヘラ笑ってんだよ?」

 右側から声が響いた。


「ハ、ハマジくん、お早う」

 それはハマジだった。頬には痛々しいシップが貼られている。



「大丈夫なの、その怪我?」

 不安そうに訊ねる太助。


「へっ、魔王の気まぐれにも、困ったもんだな。機嫌が悪いと、すぐに誰でも殴る」

 ムカつき気味に吐き捨てるハマジ。

 それでもその声は、シュウに聞かれぬように絞ったトーンだ。


「あの、シュウくんが、そんな凶暴なの?」

 ハマジの放つ台詞は、太助には理解不能だった。


 少なくとも彼にとってシュウは、羨望の眼差しで見つめるような生徒だから。


 魔王とか、制御不能の荒くれとか、そんな噂は嘘に思えた。



「おいおい、斉藤? もしかしてあいつにこび売ってる? ダメだぜあいつは誰ともつるまない、孤独なヤンキーなんだ。誰ともつるまず、ケンカに明け暮れるヤバイ奴なんだからな」

 言ってハマジは、太助の頭を羽交い絞めにして、拳でグリグリしだす。


 激しい痛みに苛まれる太助。



「分かったよ、ハマジくん。痛い、痛いから」

 それでも笑って言い返した。


「なんだよ、斉藤? こんぐらいで痛いなんて言ってちゃ、先が思いやられるぜ?」

 渋々とその拘束を振り解くハマジ。

 それでも内心、悪いとは思っていないようだ。


 その拘束からやっと解放された太助。



「へへへ、だけどどうしてシュウくんは、誰ともつるまないのさ?」

 呼吸を整えて問い質す。


「あいつ、中学2年の頃まで、市内最強のヤンキーだったのさ」

 話し出すハマジ。

 それを太助がうんうんと訊いている。


「ところが一変、ある日あいつは、通り魔に刺された。運よく命に別状はなかったんだけどな、それ以来仲間を遠ざけるようになった、人とつるむことを嫌って、ガッコーにも行かなくなったって話だな」


 それは掴みどころのない漠然とした内容だ。


 それでも太助は、益々シュウに興味を注られる感覚を覚えていた。



「それよりお前さ、高校に入学して部活とかはやらないのか?」

 不意に話題を変えるハマジ。


「えっ、部活」

 意味が判らず視線を向ける太助。


「部活だよ、部活動」


「うーん、そうだね。興味が持てる部活があれば、やってもいいんだけどね」

 そして答えた。


「オーク学園は、色々と部活動も充実してるからさ。これから見学いかねーか?」

 ハマジの表情は、いじめっ子とは思えぬ程サバサバしたもの。

 

「そうだね。それもいいね」

 ニコッと微笑む太助。


「よし、行こうぜ」



 こうして太助は、ハマジと共に部活見学と相成ったのだ。

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