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魔王と呼ばれた少年


 その様子を多くの生徒が愕然と見つめていた。



「シュウだ。シュウの奴、やっぱりここに入学してたんだ」


「噂は本当だったんだ。血の雨だぞ、学園は血の雨で染まるんだ」


「魔王シュウだ。伝説の男、第六天魔王シュウ」


 誰もがシュウの姿に困惑して、恐怖に慄くように呟いている。


「しっかし、さっきからウゼー小僧だな、俺様に近づくとろくなことねーぞ」

 突然シュウが、イラついたように立ち止って、後方を振り返った。


 その突然の展開に、テンぱる太助。


「ゴ、ゴメンなさい」

 深々と頭を下げて必死にあやまった。調子に乗ってベラベラお喋りしたことを心から悔いる。


 なによりあれ程ケンカの強い男だ、ボコボコに殴られるかも知れないという恐怖だけが、脳裏を過る。



 しかしシュウの態度は淡々としたもの。


「まぁいいや。メンドくせーことは嫌いだかんな」

 ファーッと欠伸を掻き、教室内に歩いていく。



「ね、ねぇ」

 その後を追って太助も入室する。


 そしてはっと我に返る。そこは太助のクラスだったから。



「シュウ?」


「ガッコー来たのか!」

 教室の後方、数人の男がシュウの姿を認めて声を荒げる。



「なんだおめーら。おめーらもオークに来たのか」

 しかしシュウは気負わない。淡々と伝えてそのまま歩き出そうとする。

 しかしはっとして立ち止まった。


「そういや、俺の席ってどこだ?」



「馬鹿シュウ、お前の席はそこだぞ」

 その様子に、先ほどの生徒が前の席を指差した。



 どうやらシュウも、太助と同じクラスのようだ。


 そしてその様子を呆然と見つめる太助。


 このクラスに来て2日目。

 それでも教室内は、幾多の生徒が欠けた状態で、全ての生徒の名前はおろか、顔も知らない情況だった。


 だからこそ少しだけ、嬉しい感情が込み上げていた。



「まったく、久々のガッコーは眠いな」

 シュウはサバサバと歩き出し、自分の席に腰掛ける。

 そして気だるそうに頭を突っ伏しうな垂れた。


 即座に駆け寄る、先程の男たち。



「同じクラスだっては知ってたが、こねーんじゃねーかと心配してたぞ」


「そうだぜシュウ。お前入学式にも来てたんだろ? 知り合いが言ってたぞ『多分来てた筈なんだ』って。どうしてその後、帰ったんだよ?」


 そして怪訝そうに問い質す。



「ハァ? まぁあれだ、式が終わって体育館を出ようとしたら、後ろの奴に押されて、倒れて、何百人に踏んづけられて。……泣きそうになったから帰った」

 淡々と答えるシュウ。


「流石シュウ。言うことが大胆だわ」


「ははは、ホントだな」


 辺りの生徒は、その意味が判らず空返事を返すだけだ。



「大野が心配してたぞ、せっかくお前を追って、ここに入学したのに、デマだったんじゃないかって」


「大野? アッキか。そんなの余計なお世話だ」


「そう言うなよシュウ。俺達はマジで心配してたんだ。仲間としてお前の人生を」


「心配かけたのは悪いって思ってんよ。だけど無視してくれ」



 親しく思える和やかな会話だ。


 シュウに声を掛けてきた生徒は、帝王中学出身者だ。つまり大野朝日の仲間。


 そしてシュウも、帝王中学の出身。

 様々な諸事情はあるが、かつて知ったる仲間だった。



「ふうーん。仲間がいるんだ」

 その様子を静かに見つめる太助。

 何故か少しだけ、寂しい感覚に包まれていた。



「おい太助!」

 そんな彼の思いを、ハマジの怒号が断ち切った。


「はい!」

 咄嗟に身体を硬直させる太助。


「てめー、パンは?」

 そのハマジの声は、太助を現実世界に引き戻すに覿面てきめんだ。


「マジ、こっちは腹をすかせて待ってたんだよ。早くよこしなよ」

 その後方から痩せ型が、イラつくように蹴りを入れている。


「ははは、ないんだなこれが。売り切れでした」

 笑顔で返す太助。

 実際ないものはない。ふざけてる訳でも冗談でもない。


 だがそれで、ハマジと痩せ型が納得する訳がない。


「太助お前、俺たちを餓死させるつもりか?」

 すかさずハマジが太助の胸ぐらを奪う。


「ホントだよ。笑って済まそうって態度、いただけないよね。卑怯者のすることだ」

 その後方では痩せ型が、ムカついたように髪の毛を鷲づかみにしている。



「グヒヒ、面白いな。ブヒッ」

 そしてすぐ傍で、小柄な男が席に座って可笑しそうに見つめていた。



 それはいつものパターン。激しい言葉でくし立てられ、執拗な暴力でさいなまれる。

 持たざる者と持つ者の、絶対的な服従関係だ。



「ほら太助。なんとか言え、俺達を殺すつもりか?」

 両手で胸ぐらを奪い、ゆさゆさと揺さぶりを掛けるハマジ。



「俺らが死んだら、慰謝料たっぷり巻き上げてやるからな。お前の親に」

 痩せ型も調子に乗って、太助の頭をガンガン小突きだす。



「なんとか言えって太助ちゃん!」


「そうさボクたち、心を許した仲間じゃん」

 遂にはガンガンと太助のボディを殴りだす始末。



 むろんそれに力は籠められてはいないだろう。軽い挨拶程度のものだ。


 それでもそれを幾つも食らうと、内臓が飛び出しそうな激しい痛みを感じる。


 事実太助の目には涙が浮かんでいた。

 ヘラヘラと笑みを浮かべながらも、痛みだけは確実に感じていた。




「なあ、シュウ、また俺たちで組まないか? お前さえいれば、葛城も東雲も敵じゃない」


「そうだぜシュウ。……なんていうか、あの“事件”は俺だって頭にこびり付いてる。当事者としては思いもひとしおだろ。だけどあれから2年だぜ。傷も癒えただろ」


 一方シュウの周りでは、帝王中学の面々が神妙な会話を繰り広げていた。



「悪いけどよ、俺はパスだわ。今さら市内の制覇なんざ興味はないし、てめーらと連むつもりも毛頭ない。そっとしてくれや」

 それでもシュウの態度は変わらない。

 向き直ることさえせず、視線を宙に泳がせている。



「シュウ」

「シュウ!」

 堪らず声を荒げる帝王中学の面々。



 それを尻目にシュウが席を立ち上がった。


「わりい、便所行って来るわ。しょんべん行くの忘れてた」

 そしてゆらゆらと歩みだす。



「マジかよシュウ?」


「ホントーに魔王は死んだのかよ」

 その後姿を、悔しげに見つめる帝王中学の面々。


 怒り困惑を通り越し、哀れむ感情までそこには垣間見えた。



 その視線の先、シュウは淡々と教室入り口に向かって歩いている。


「イテッ!」

 太助を攻撃する、ハマジの足を蹴り上げて。


「なんだお前? 人にぶつかって、挨拶もなしか?」

 憤り声を荒げるハマジ。


「挨拶、挨拶ってのはこれか?」

 シュウがそのハマジの腹部に拳を叩き込んだ。



「ゲハッ!」

 弓なりに飛び退くハマジ。


「は…は…は」

 悶絶の表情を浮かべて、ガックリと崩れ落ちた。



「おいハマジ?」

 そのいきなりな展開に、駆け寄る痩せ型。


「なんだお前? いきなりぶつかって何様だ。上等だよ、この“藤木”様をなめんなよ」

 必死に声を荒げた。その名を藤木と言うらしい。


「藤木とハマジって、ちびま○こちゃんか」

 その胸ぐらをシュウが掴み挙げる。



 それで藤木の表情が益々蒼白になる。


「よ、よしてくれって。ボクは被害者だぞ。……こいつらとは仲間じゃない」

 咄嗟に嘘を吐く。

 調子に乗って、ハマジとじゃれあって太助をいじめたことを後悔したようだ。



「ケッ、てめーみてーな卑怯者に用はねーんだ!」

 シュウが怪訝そうに吐き捨て、その頬に拳をぶち込んだ。


「……!?」

 藤木が腹を抱え、声もなく膝から崩れ落ちた。



 それでもシュウの大胆さは止まらない。


「ブヒッ!?」

 ズカズカと歩き出し、席に座ってる小柄の身体を押し倒す。


「ブヒーーッ!?」

 腹ばいに崩れ落ちる小柄。


「痛いんだなブヒッ。怪我したらどうするのさ?」

 それでも興奮気味に立ち上がって捲くし立てる。


「ザケンな“ブー太郎”! そんなとこで見物してた自分が悪い。恨むならてめーを恨め!」

 それをシュウが一喝した。



「ブー太郎? なんだそれは、ブヒッ! 俺は綾小路……」


「ウルせー! てめーは今日からブー太郎だ!」

 名乗りを挙げる小柄の台詞をシュウが遮った。



「ブヒッ? ……ブー太郎?」

 涙目になって、硬直するブー太郎?


 ドノーマルなヤンキーが、シュウに敵う筈はないのだ。



「邪魔な場所にいたてめーがわりい。グダグダ抜かすようなら、俺様のストレス解消のオモチャにすんぞ。考えて行動しろ」


 黒瀬修司、こう見えて大胆不敵。

 やることは理不尽極まりないのだ。



 こうして室内を抜けて行ったシュウ。


 教室内に覚めたような空気が漂う。



「なんだよシュウ。あの頃の腕力と理不尽さは健在じゃん」


「だけど、それを発揮しない」


 愕然と呟く帝王中学の面々。



 それでもそれは、ムカついたからの台詞ではないように思えた。

 シュウを仲間と信じ、同士と認めていたからこその台詞に思えた。


 その証拠に、彼らの表情は悔しいようないかんともし難い表情。



「仕方ないさ。あの事件だぜ。シュウでなくとも尻込みするさ。新聞に書かれるくらいだからな」


「そうだよな。生きてることが奇跡みたいなんだ。シュウをあてにするのはやめるか。元気で生きててくれたことだけが、なによりだしな」

 やがて観念したような、シュウの気持ちを立てるような、そんな表情で言い放った。



 黒瀬修司の過去は複雑だ。


 幾多の荒くれでも引きそうな、とてつもなく過酷な人生の持ち主。

 だから彼らは、多くを語ることはない。



 しかしそんな凄まじい彼の過去を、少しも知らない男がここにいる。



「えへへ、助かっちゃったよシュウくん」

 先程までの泣きっ面は一変。ヘラヘラと笑みを見せるのは太助。


 こうしてシュウの気まぐれな行動でことなきを得た太助。


 だけどそれは、その場のトラブルを一時的に解決したに過ぎない。


 その情況が、更なるトラブルを巻き起こすということを、少しも理解できずにいたのだ。

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