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殺して下さい

 それでもそこを通行する生徒は、なにも声をかけない。

 クスクスと笑みを浮かべるか、怪訝そうに睨みを利かせたりで、何事もなく通り過ぎていくだけ。



 太助の心境、堪らない感情が込み上げた。

 意を決したように駆け寄る。



「ねぇキミ、背中になにか張られているよ」

 悲しそうな表情で伝えた。


「……」

 だが男はなにも答えない。俯いて立ち尽くすのみ。



「ねぇ、どうしたの。取ってやろうか? いじめられてるんだろ」


 背中にこうしたものを貼られるは、太助もよくあること。


 自分の姿とシンクロさせて、堪らぬ感情が込み上げていた。



「……悪いが、外すなよ」

 ボソッとした声が響いた。男の声だ。



「どうして? キミも新入生でしょ。昨日一緒だったもんね」

 笑って語り掛ける太助。



「へへへ、このガッコー怖いよね。ケンカばっかりする人ばっかじゃん」

 無言の男など気にもせず喋り捲る。


 どうやら太助は、この男のことをいじめられっ子と認識したようだ。


 昨日一緒に並んで、あの光景を見つめていたことが、男と自分を重ねてシンクロさせていたのだ。



「俺もね、友達にパシリに使われて、パン買えなかったからメチャクチャに殴られるんだ。怖いよね」

 それはいじめられてる男とは思えぬほどの笑みだ。


 その笑顔を男がチラリと窺う。


「てめー、いじめられてるなら、なんで笑ってんだ?」

 そしてぶっきら棒に訊ねる。



 それで益々笑顔に染まる太助。 


「あのね……」


「がっはははは! 馬鹿なガキめっけたぜ!」

 太助の言葉を遮り、ひときわ甲高い笑い声が響いた。


「ふえっ?」

 テンぱり気味に視線を向ける太助。


 廊下の奥の方で、数人の生徒がこちらを指差して笑っている。


 中央部に構えるのは、ボーズ頭をイナズマ状に剃り込んだいかつい男だ。


「殺してくださいだぁ? 誰にやられたか知らんが、哀れなガキだな」

 嘲るように吐き捨てて、堂々と近づいてくる。



「誰がやったか判らんが、頼みごとは引き受けないとな」


「確かだわ。俺たちゃどんな依頼でも引き受ける、正義の味方だからな」


 その後方では仲間達も口々に呟いて、ゲラゲラと爆笑している。


 その様子には流石の太助も気が気ではない。


「逃げようよ、殴られるよ」


 だが男は脱げようとしない。微動だにせず立ち尽くすのみ。



 既にその目の前に、ボーズ達は侵入していた。



「なんだ。逃げる勇気もないか。それとも足がすくんで動けないか?」

 ボーズが男の胸ぐらを引き上げた。



「へへっ、この張り紙、冗談だよね」

 すかさず言い放つ太助。


 それをチラリと見つめるボーズ。


「冗談だっていいだろ。なんせ面白い。こういうストレス発散道具は、みんなのオモチャなんだからよ」

 そして躊躇いなく言い切る。


「それと、お前もこいつの仲間か?」

 その台詞は、太助にとってもピンチな台詞だ。



「ぎゃはは、こっちのちびスケも殺しておこうか。オモチャがふたつってのもありだ」


「だな。拉致っちゃえ」

 そして仲間たちにアッサリと拘束された。



「……やめてよ。キミだって嫌だよね」

 顔面蒼白の太助。ガタガタと震えて男に視線を向ける。



 しかし男は不気味な程のオーラを纏ったままだ。


「殺してくれるのか?」

 響き渡る地の底から響くような低い声。


「へっ?」

 それでボーズが訝しく顔を歪める。


「ああ、半殺しにしてやるわ」

 それでもニタニタとにやけて言い放つ。


「半殺しなんか、却下に決まってんだろ? この張り紙に書いてる言葉は『殺してください』だ」

 やはり男の台詞は、支離滅裂で意味が判らない。



「なんだと? 殺してって言われて、殺す馬鹿がどこにいる」

 その台詞には、流石のボーズも戸惑い気味だ。


 一瞬の沈黙。


 意味が分からずボーズの仲間たちも呆然とその様子を窺っている。


「俺は、殺してくれる奴を探してんだよ! 出来ねークソは引っ込んでろ!」

 男が吠えた。


 その台詞でボーズの方もぶち切れる。


「クソだと? 貴様誰に口利いてんだ。俺はギャングスタの石橋だぞ!」

 憤怒の感情を全面に押し出し、昂揚気味に男の胸ぐらを引き上げた。


 それでパーカーのフードから男の顔が現れた。


「てめーだてめー。口の臭せぇクソ野郎だ!」

 バサバサと黒い髪をなびかせた、目付きの鋭い男。



「あん? どっかで見たツラだなぁ?」

 愕然と視線をくれるボーズ。



「ホントだ、なんか危ない表情だ」


「パシリじゃねーのか?」

 他の面々もその気迫に圧倒されて、顔面蒼白で後ずさる。



 愕然とした空気が辺りに漂いだす。


 その場の誰もが気付いていた。男の顔形もることながら、男が身から放つ覇気に。


 圧迫空間に身を置くような、そんな息苦しささえ感じていた。



「オウこら。殺す覚悟もねーで、いつまで俺様の首触ってんだ」

 男がボーズの腕を握りめた。


「グハッ!? な、なんて握力だ!」

 激しい激痛にさいなまれるボーズ。

 腕が圧迫され、血の巡りが悪くなる。見る見るうちにその腕があざ黒くうっ血していく。


「止めろって言ってんだ!」

 テンぱり気味に、男の身体を押し放す。


「な、なんて野郎だ。腕の感覚がねーぞ?」

 そしてプルプルと感覚の戻らぬ腕を見つめる。



 その光景は、太助にとっても訳が判らない。


「なんで? この人強いよ、やんであんなことしてたのさ?」

 益々テンぱり、呆然と見つめるのみ。



「なんだてめー。そんな弱くて武装集団の一員な訳か?」

 突き刺すような視線でボーズを睨みつける男。


 目の前ではボーズが、ガクガクと震えて男を見つめている。


「……思い出した。魔王、シュウ!」

 そして蒼白になって呟いた。



 その襟首を、男の左手がガッシリと握り締めた。



「魔王じゃねー、大阿修羅だ!」

 そして躊躇いもなく、強烈な右の拳をぶち込んだ。



「グギャーーーッ!」

 唾液を滴らせ、大きく上空に吹き飛ぶボーズ。


 やがて鈍い地響き音と共に、床に叩き落ちた。



 その様子を仲間たちが愕然と見つめている。


「嘘だろ、ここに入学したのは訊いてたが、いきなり出会うなんて……」


「ヤベーって、だから大人しくしてようって言ったんだ」


 踵を返し、恐怖におののくようにあっさりと逃げ出す。



「てめーら、この俺様に舐めた口利いたんだ、ソッコー潰してやる!」

 すかさず走り出す男。


「ギャー殺される!」


「うるせー、泣くんじゃねーぞ!」


「嫌だって、助けて!」


「おめーらが悪い。俺様の前をチョロチョロすんな!」


 そして圧倒的パワーで、男達を難なく潰していく。



「シュウ? 魔王?」

 それは太助に取って意外な出来事だった。

 その狂気の男の姿を、食い入るように見つめるだけ。



 それでもその男に、興味を抱いていたのは確かだ。圧倒的腕力を持ちながら、奇妙な行為に興じる男に。


 何故か心が癒される気分を、感じていたのだ。




 この男の名は、黒瀬修司くろせしゅうじ。通称シュウ。



 かつて“魔王シュウ”と呼ばれた、伝説の男だった。

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