使いっ走りの太助
翌日の学園は、不気味な程静かだった。
いや静かと言うのは間違いだ。些細な乱闘は繰り広げられていたから。
それでも入学式があった前日よりは、だいぶマシということ。
その証拠に、校内の各所で様々な争いなどが繰り広げられていた。
名前の売れない下っ端や、雑魚同士の理不尽な争いがだ。
それは1年C組でも同じこと。もっともそれはケンカの類ではなく、いじめ行為だが……
「ほら斉藤、今日こそはパン買って来いよ」
声を荒げるハマジ。
その右腕で太助の胸ぐらを握り締めている。
「マジっすわ、太助ちゃん。ボクらお腹すいてんだよ。ほんとイライラさせないでくれよ」
その後方では痩せ型が、イラついたように太助の足元を蹴り上げている。
「ブヒッ、ホント斉藤って、マジどんくさいし馬鹿な奴」
そしてすぐ脇で、別の男がその様子を楽しそうに見つめていた。
それはソフトモヒカンの、背の低い生徒。
息をするのに支障があるようで、ブヒブヒと鼻を使って浅い呼吸を繰り返してる。
「はは、買ってくるけどさ、お金ないんだよね。お小遣いも底をついちゃってさ」
太助が言い放った。
「嘘をつけ、財布見せてみろ」
すかさず太助のポケットに手をねじ込むハマジ。
「あっ?」
愕然となる太助から、財布を奪い取った。
「嘘じゃねーか、ちゃんと入ってる」
そして中身を確認しヘラッと笑った。
「そ、それはノートを買うお金で」
「うるさいな、ノートなんか書き取らなきゃいいだろ」
困惑する太助の頭を、痩せ型が小突いた。
「だね。買ってくるよ」
仕方なさそうにヘラッと笑う太助。
「早くしろよ。カレーパン」
その拘束を解き放つハマジ。
「俺は焼きソバな」
痩せ型も伝えた。
昨日が初対面だった痩せ型の男だが、いつの間にか太助を完全なるつかいっ走り、およびストレス解消の遊び道具と認識していた。
更にその様子を窺い、へらへらと笑う小柄な生徒。
いじめなどは伝染する。ひとりが始めれば、他の面々も調子に乗って参加する。
更にはエスカレートして、クラス全体でのいじめが始まりだすのが常だ。
特に太助の場合、その見た目が災いして、その期間が短いようだ。
こうして販売場所まで訪れた太助だが、既にパンの販売は終わっていた。
ハマジたちのダラダラした拘束が、遅れを取らせていたのだ。
「怒るよなハマジくんたち」
愕然とその場に立ち尽くす太助。このまま戻るのを、躊躇っていた。
手ぶらで帰ればキツいお仕置きが待ち構えているのは明白だ。
だけど戻らなければ戻らないで、後から壮絶なお仕置きが待っている。
どの道、彼の先に立ち塞がるのは地獄の光景。
「戻ろうか」
こうしてひとり、肩を落としてよたよたと歩き出した。
オーク学園の購買場所は、講堂前の廊下に設置されている。
そして続く廊下に自動販売機が並べられていた。
「あれって」
太助の視線が、その自動販売機エリアに向けられた。
そこにはひとりの生徒が、廊下を塞ぐように仁王立ちで立ち尽くしていた。
ポケットに両手を突っ込み、なにをするでもなくただ立ち尽くしている。
黒いパーカーのフードで頭を覆った男。入学式の時のあの生徒だった。
「あの時の人だ。だけどなんで?」
意味が判らず、顔をしかめる太助。
それもその筈だ。男の背中に一枚の紙が貼り付けてあったから。
『誰か殺してください』
力強く、大きな文字で。




