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信頼する仲間



 夜のとばりに包まれた港街。


 それでも繁華街の輝きは健在だ。


 希望に満ちて、胸躍る始まりの月、4月。幾多の想いを籠めて、多くの人々が青春を謳歌する。

 それは喜びの光景だ。



「がははは、誠の奴、相変わらず永ちゃん大好きだよな」


「そりゃーそうっすよ。なんせカリスマ的存在だ」


「お前、相当酔ってるな。おまわりさんに捕まらないよう、気をつけて帰れよ」


「酔ってないっすよ。気持ちが昂ぶってるだけ」


「それが酔ってるってんだ」


 その一角、カラオケ店から大勢の高校生が出てきた。


 それは山崎と葛城の仲間たち。

 そのほとんどが酒を呑んでいたらしく、真っ赤に頬を染め、口調も滑らかだ。


「おいおい、明日もガッコーだぞ。そんなに酔ってどうするんだよ?」

 呆れたように言い放つ山崎。


 山崎も相当量の酒を呑んではいた。それでも他とは違って至極冷静だ。



「孝之さん、男がそんな細かいこと言っちゃ、あきませんって」


「そうっすよ。俺たちのかための杯なんすよ」

 それでも口々に喚き散らす男たち。

 永瀬と相沢という2年生だ。


「なんだ永瀬、気持ち悪いのか?」

「俺は酔っちゃいねーよ」

「それが酔ってんだよ。そんなんじゃ1年になめられるだろ」

「大丈夫。俺は男、永瀬晋作、山崎さんの為に……」

「それは分かってるって」


 この2人、山崎を心から信頼する者たち。

 それ故調子に乗って呑み過ぎたようだ。



「分かってんでしょ山崎さん。葛城も強いだろうが、山崎組には俺ら2年生もいる。俺たちが山崎さんをてっぺんに持ち上げて見せますよ」

「応よ、先輩としての意地、見せようぜ」


 山崎の派閥は、3年生はおろか2年生をも従える大所帯。

 それ故この2人は、年下である葛城に対抗意識があるようだ。



「分かってるって。お前らも俺の頼れる後輩。お前らにも期待してるさ」

 堪らず言い放つ山崎。


「そうっすわ、俺ら頼って下さい。みんなで掴むぜ、オークのてっぺん!」


「葛城は明日から謹慎だけど、俺らがいるから無敵だぜ!」


 それで永瀬たちの機嫌も直る。


 ここに集うのは、誰もが山崎の力に惚れて、自ずと集った者たち。

 生まれた年や日にちは違えど、死ぬときは一緒だと誓った仲間だ。


 誰もが信じて疑わなかった。山崎こそが最強で、オークの頂点に昇り詰めるだろうと。


 その道程に幾多の困難が待ち受けようと、自分たちなら切り拓いて行けるだろうと。


 それこそが山崎率いる学園正規軍。オーク学園最大の派閥だから。



 その揚々とした空気の中、葛城がキョロキョロと辺りを窺っていた。


「孝之さん、“歩夢あゆむさんの姿が見えないっすね?」

 そして山崎に向けて言い放った。


「歩夢? あいつカラオケ屋でも、ひとり浮いてたからな」

 呼応して山崎も辺りに視線を注いだ。





 繁華街の傍に広がる公園は、見渡す限りの桜並木で薄紅色に包まれていた。


 下から放たれるライトアップの光が、その色を益々鮮やかに染め抜いている。



 そして夜空に広がるのは、青く広大な夜空。


 それらが一緒に溶け込んで、赤く輝く銀河のように映えていた。



 その幻想的な光景を、多くの人々が顔を見上げて楽しんでいる。


 その中央の遊歩道を、天を見上げるようにゆっくり歩く人物がひとり。


 黒いジャージ、黒シャツの華奢な人物で、頭には黒い野球帽を深く被っている。


 両手をポケットにねじ込んで、どこかもの悲しげに思えていた。



「探したぜ、歩夢さん」

 その後方から声を掛ける葛城。


「誠……」

 ゆっくりと振り向いて、立ち止まる黒尽くめ。


「まったく、久々の再開だってのに、こんなとこで空を見上げてるなんて、あんたらしいな」

 ヘラヘラと微笑む葛城。



 その人物の名前は歩夢というらしい。


 そして葛城の台詞から察するに、同じオークの生徒、しかも先輩のようだ。


 葛城の姿が近づくのを待つ歩夢。

 そして2人、並んで歩き出す。



 歩夢は小柄な身長の持ち主だった。

 巨体な葛城と並ぶと、その背の違いが異様に目立つ。まるで大人と子供が歩いているような錯覚さえある。



「悪いな、ああいう場所は少し苦手だ。桜を見ていた方が、気分も晴れる」

 俯き加減に地面に視線をくれる歩夢。


「桜か、綺麗だよな」

 葛城が空を見上げた。


 歩夢も同調して、再び空を見上げる。



 桜は満開に咲き誇り、散り際を見せていた。


 ふーっと吹き込む風が、散り行く花びらを舞い上がらせ、深い青に溶けていく。



「……はかないな、桜ってのは散り際が美しい。必死に狂い咲き、命が尽きるように散っていく。それこそがこの世の摂理だと言わんばかりに」

 ボソリと呟く歩夢。どこか遠い彼方にあるような、おほろげな台詞だ。


 それでも葛城が視線を向けてるのに気付き、はっと視線を向ける。


「馬鹿、なにを変な目で見てるんだ?」

 紅潮して言い放った。



 しかし葛城の口元に浮かぶのは笑み。


「確かに桜の花ってのは、散ってくもんだ。だけどそれって、熱い夏に向けての準備だろ? 夏にはその命を謳歌するように、鮮やかな緑色に映える。それこそが命の証。全ては始まりであって終わりじゃねーのさ」


 何事にも屈せぬ強い意志が感じ取れた。



「……始まりか」

 その意志を知って、再び空を見上げる歩夢。


「とにかくあんたは俺らの仲間なんだ、強い絆で結ばれた同志」

 その横顔を神妙な面持ちで見つめる葛城。


「ほら、孝之さんらが待ってるぜ」

 そして歩夢の肩を押し払った。


「えっ?」

 愕然と目の前に視線を向ける歩夢。


 公園の出入り口付近には、山崎を筆頭に多くの仲間が並んでいた。


「帰るぞ、歩夢。明日からはガッコー、俺たちの青春はこれからだ」

 堂々と投げ掛ける山崎。



「みんな」

 困惑したように立ち止まる歩夢。


「そうだな、みんな仲間だ。誠も孝之もみんな仲間だ」

 しみじみと呟き、輪に向かって歩き出した。



 その人物の名は上原歩夢うえはら あゆむ。オーク学園3年生にして、山崎の相方。


 葛城が信頼する先輩のひとりだった。

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