筆禍逆転
『これ以上何を言っても無駄です。さようなら』
スマホの画面に表示されたそれに、溜息が零れる。
きっかけは自分がSNSで零した愚痴を、共通の知り合いの悪口だと決めつけられ、説教めいた個別メッセージが送られてきたことだ。勘違いだと指摘したら謝罪はされたものの、理不尽な疑いをかけられた怒りは収まらず『謝ったらそれでいいと思ってるの?』と送ったところ、冒頭のメッセージが送られてきた次第だ。
結構長い付き合いだったが、切られる時は一瞬。まあ、SNSから始まった関係だからそんなものかもしれない。
それでもある程度の信頼関係を築けてきたと思っていたが……そう思っていたのは自分だけだったようだ。
(というか、私だけじゃなくて共通の知り合いのことも信じてないってことだよね。『悪口を言われる程失礼なことをした』って思ってるってことだし)
結局誰のことも信じておらず、それどころか見下しているのだとよく分かった。
事実確認もせずに正義の味方気取りの断罪メッセージ送って来る辺り、自分が一番可愛くて正しいのだと証明しているようなものだ。
「好き」の反対は「無関心」とはいうが、それは少し語弊があると思う。
元々「好き」だった相手への感情が反転した場合、それは「無関心」ではなく「憎悪」にも近いものへと変わる。
(あの人は承認欲求が高いが小心者……そこを突いてやればいい)
これで終わりだと思うなよ。
かちり、と。
クリック音が妙に鼓膜に響いた。
相手の職業、それはフリーのシナリオライター。それと同時に二次創作でも小説を書いている。
以前読んだ時は社交辞令として褒めたが、実をいうと思うところがあった。
ならばそれを形にしてやれば良い。
『絵や世界観は綺麗だと思う。ただ文章が単調で少々飽きるし、展開もありきたり。課金してまですぐに先を読もうという気にならない』
『台詞に頼り過ぎ。地の文章が全然書けてないから、エロさが足りない。台詞に♡付ければエロくなる訳じゃないですよ』
『何だか読みにくくて目が滑る文章ですね。結局何が伝えたいのかも分からないし、キャラの仕草どころか可愛さやカッコ良さも全然引き立っていません。好きCPタグが付いてたから読んだのに、時間の無駄でした』
ということを『作品を読んだ上』で評価、コメント欄に書き込みまくった。
作品の『評価自体』は結構高いし、感想も好意的なもので溢れている。だが、そこに批判的なものが一つでも紛れ込んだら?
真っ白なシーツに少しの汚れを発見した時のように、じわじわと心を蝕んでいくだろう。
(あの人の性格なら、これが一番効果的だ)
承認欲求が高いクセに小心者。かつプライドが高ければ、自分以外の人……つまり『見下している相手』にこのような感想をもらうのは酷く屈辱的だろう。
(他人を見下して傷つけたツケは払わないとねぇ?)
誰もがお前を崇め称える世界?
そんな世界は存在しねぇんだよ。
カタン、とエンターキーを押す手に、自然と力が込められた。
そしてその後。
あの人のSNSのアカウントを見ると、更新が数ヵ月前から停止していた。
それが自分の書き込みが関係しているのかどうかは。
証明など、出来る筈もない。
(終)