第5基地訓練③
「よく寝れたか?」
朝起きて一階に降りるとロルフが煙草を吸っていた。
昨日のうちに近隣の地形確認するついでにムルを捕まえランタンに入れておいたおかげで、
冷えることなく過ごすことができた。
ジャックスの頷きを確認し、ロルフが続ける。
「今日はちょうど気温も高くて動き回ってると思うぞ。やり方は任せる」
ポーションを受け取る。これでしのげということだろう。
建物の外に出る、なるほど確かに今日の気温は堪えそうだ。
一呼吸おいて目標地点へ進む。
目標地点の壊れた街並みにたどり着いた。
4階建ての大きめの建物の屋上に上がる。
石道が残っているところは小さな魔物がちらほら見受けられる。
奥の建物が砂に侵食され更地に近い状態となっている場所をじっと見つめる。
昨日の涼しい時間帯では確認できなかったが、砂が波打っている。
「いるな」
石をつかみ砂に向かって投げる。
砂に落ちたと同時に巨大なムカデが砂から飛び出してきた。
地面が大きく揺れる。
「まてまてまて、まじか?」
砂が降り注ぐ。目に入らないよう払いのける。
ムカデは餌が降ってきたのかと思ったのか体を揺らし対象物を探している。
「どうするか・・・」
近づくにしろ足場が向こうは悪すぎる。最悪引っ張られでもしたらどうしようもない。
なんとかこちら側まで引きずり出したいところではある。
さっきの様子を見るに基本は待ち伏せで餌をとるタイプのようだ。
「・・・やるか」
ジャックスは持ってきたワイヤーを広げ罠の準備を始めた。
「お、なんか仕掛けるみたいだな」
遠くの時計台からそんなジャックスをロルフとメルは見つめていた。
「なんでもいいから暑いし早くしてほし~」
メルは恨めしそうに太陽をにらみつける。
「そもそもなんでこんなしっかり試験ってかんじでやるわけ?勝手に入れるじゃダメなの?」
日陰に座りポケットから飴を取り出す。
「あいつの場合は建前がいるつーか、上がうるさそうなんだよな」
ロルフも口に煙草をくわえる。
「そんなすごい奴なの?パッと見た感じ良くも悪くもただの軍人って感じだけど。
まぁ、魔力はエーデル人にしてはありそうだけど・・・」
ロルフが無言で資料を渡す。メルは受け取り目を通す。
「読んだら消しとけよ」
読み終わるとメルは指から火を出し書類を燃やした。
「言われなくても・・・まだこんなことやってたわけ?終わってるわ」
メルの目には憎しみが浮かんでいた。
「メルネルリティ」
フルネームで制止される。
「大丈夫よ、少しむかついただけ」
ふぅ…と息を漏らすと、髪をなびかせる。
「ってかあの虫あんな大きさだっけ?メルが見た時はもっと小さかったかも?」
先ほどの大人びた表情から一転し、子供のような声色でジャックスの方へ眼を向けた。
「こっちまで影響が出てきてるのかもな。ちょっとまずいかもだな」
「まずいなら助けに行きなさいよ」
引き気味でメルが咎める。この男は成長のためなら命ギリギリのことをする男だとよく知っている。
「ま、やれるとこまではお手並み拝見ってことで」
ロルフは煙草をふかし笑った。
「おし、こんなもんか」
ワイヤーを建物の柱に巻き終えたジャックスは手の砂を払う。
ワイヤーの反対側には小さな魔物を縛り付けている。
魔物を砂に向かって投げる。
ムカデは先ほどと同様に食いついてきた。そのままワイヤーで引っ張る作戦だ。
ムカデの巨体に建物が悲鳴を上げる。
「暴れんなっての」
ワイヤーに魔力を込める。
警備隊御用達のワイヤーは対捕獲戦闘において魔物を捕まえやすくする痺れ薬が魔力で発動する仕掛けになっている。
ムカデの体が痺れ鈍くなっているのを確認し引きこむ。
体の割にムカデは力はそこまで無いようで、ジャックス一人でも分があるようだ。
砂からムカデの体すべてが出てきた。
「よっしゃ」
ワイヤーを短く固定し、建物下に出てきたムカデに武器を振り下ろす。
「ギュイィィィィィィィィ」
雄たけびをあげ暴れる。
さらに関節部分に刀を突き刺したまま雷を流し込む。
激しく暴れジャックスは振りほどかれた。
すぐ体制を整え関節に刀を伸ばす。
が、はじき返されてしまった。
「くそっ!!かてぇな!!」
ムカデは拘束されながらも体を動かし弱い関節を守る。
ジャックスも攻撃を繰り返すが巨体に弾かれてしまう。
その攻防が何度も続いた。
(くそ、やべぇなもうすぐ痺れ薬がきれるぞ。何とかしねぇと)
巨体の攻撃を躱し、斬撃を入れる。
(浅いっ!奥側に攻撃しねぇと)
欲が出たのか少し踏み込みすぎた、と気づいた時には遅かった。
右側から強い衝撃を受け体が吹き飛ばされた。
「ガッ!!」
そのまま建物に吹き飛ばされる。
瓦礫をどかし息を整える。
「くそが、いてぇじゃねぇか」
口にたまった血を吐き捨てる。
(くそ、焦りすぎた)
建物が大きく揺れる。ワイヤーもそろそろ限界のようだ。
「武器に頼りすぎんな。ちゃんと魔力で戦え」
初めて聞く声に顔をあげる。
白髪の青年がこちらを見ていた。
「立てるか?」
スタスタと近づく青年に警戒する。
「その反応ができるならまぁ及第点か。
安心し、仲間や」
オリジナリティは出ているが軍服のようなものを着ている。
ここまで制服をいじっているということは遊撃隊の一員だろう。
「魔力で戦うってどいう・・・」
おとなしく先輩のアドバイスに従うことにする。
「え、お前そんなあってわからんの?…ガチ?」
ジャックスの頷きに困惑した表情を浮かべる。
「雷呼べたりせえへんの?」
「雷をよぶ・・・?」
「できると思うで?魔力ためてバーンってしたら。やってみーや」
ムカデを指さす。大真面目に説明しているんだと思う。
とにかくやってみろというアドバイスをもとに魔力をぶつける。
が、致命的なダメージは出せていないようだ。
「もっとガーーって当てるんやって!!」
「やってるって!!!!」
攻撃をよけながら魔力を当てる。これならダメでも刀振った方が早くないか?
「イライラしてもしゃーないて!集中してちゃんとイメージするんや!!」
雷を当てるイメージ。いつも電撃ではなく。もっと強い力で。
ムカデがこちらに向かって攻撃を向けてくる。
攻撃をかわし姿勢を整える。
「ほらこっちみーや」
青年が氷の刃をムカデに当て意識を引き付ける。
(雷、雷)
意識を集中させ、ムカデの中腹にむかって魔力をぶつけた。
天から稲妻が走りムカデを貫いた。
あまりのまぶしさにジャックスは着地に失敗し転がった。
痛みの中目を開けるとムカデは真っ二つに裂けていた。
「やるやん!!」
青年が笑顔でかけてくる。
お礼を言おうと立ち上がろうとしたが、視界は斜めになりそのままジャックスは気を失った。
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「ええんちゃう?ここにいれれば。まぁあんたはめんどくさいことになるかもだけど」
「メルは関係ないし隊長いつもみたいにうまくやればいいだけだし」
「めんどくせーな。また色々言われるんだろうな」
「いつものことやん」「それが仕事でしょ」
笑い声に目を開ける。
「お、気づいたか」
ロルフが近づいてくる。
起き上がろうとするが全身が筋肉痛のように動かない。
「無理すんな。あんだけの魔力ぶっ放したんだ。気絶で済んだだけよかったぞ」
ロルフに支えられ上体をあげることができた。
どうやら拠点まで運ばれたようだ。
「お疲れさん、やるやん!」
先ほどの青年が近づいてくる。
「俺はヴァン。同じ遊撃隊の一味や。」
「同じってことは」
メルが後ろからやってきてバッジを持ってきた。
遊撃隊のマークが刻まれていた。
「そういうこと~ようこそ遊撃隊へ」
「天下の遊撃隊やで!」
「でもあんた一番下っ端だからね」
「こいつ見た目の割に年言ってるからお局やねん。気を付け」
「は?何言ってんの?」
騒ぐ二人を前に、手にあるバッジを握った。
(遊撃隊・・・遊撃隊!!)
父親と同じ魔工銃隊にはなれなかったが、遊撃隊に。
能力を認められたものにしか入れないといわれた遊撃隊に。
「正直手助けがいるくらいに思ってたが、よくやったな」
ロルフに言われ、今一度バッジの重さをかみしめるのだった。
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「さて、改めて紹介をしておく」
全員分の食事の準備が終わるとロルフが声をかけた。
食事といっても簡易的なものではある。
ジャックスも少し体力が戻り、椅子に座ることができた。
「こいつがメルネルリティ。ヴァンパイアだ。炎系の攻撃魔法が得意だ。」
「長いからメルでいいよ~よろ~」
「んで、こいつがヴァン。狼人で、オールラウンダー系だな。」
「よろしゅうな」
二人ともエーデル人ではない上に、人間でもないときた。
「こいつはジャックス・ヴァンダル。警備隊にいたが今日から遊撃隊の一員になる。
あとの奴らは今基地周辺にいないからまた会った時にって感じだな。」
「ほかにもいらっしゃるんですね」
遊撃隊の人数は非公開のためどのくらいいるのかわからないが、少数精鋭と聞いたことがある。
「基本はソロだもんね~ メルも全員は知らないな」
「会わん奴は一生会わんもんな」
「遊撃隊ってのは一人一人が各隊長と同じ権限を有する扱いになるからな。
自由に動ける分、頭が何人もいたら現場も混乱するからな」
「喧嘩が起きるの間違いやろ」
ロルフがヴァンの頭を小突く。
「遊撃隊の任務は基本、基地の外で動くことだ。
任務内容については端末から指示が来るから確認し任務にあたってくれ。
ただ、基地外での戦闘ってのはもう少しお前さんは慣れていった方がいい。」
「外での戦い・・・?」
「そうだ。魔力の使い方が全然変わってくるからな。今日みたいにぶっ放して倒れられたら困る」
ロルフが魔法石を渡してきた。
「これは?」
「今日からしばらくこれを見に着けててくれ。
お前さんの入隊にあたって中央で手続きがあるんだが、その間はこれをつけて生活しておくように」
言われるまま魔法石を首に巻く。
その瞬間体が重くなるのを感じた。
「これは魔力を押さえる石だ。フル放出した魔力はコントロールが一時的に難しくなるからな。
特に中央にいる間は魔力が流れるのは防ぎたい」
「中央とここと外で何が違うんですか?」
まるで中央に行くのが嫌だという雰囲気に違和感を覚え質問する。
「この国って基地ごと障壁があって魔物から生活をまもってるやん?
中央に行くとその加護が強くなるから魔力の巡回が悪うなんねん」
ヴァンが説明を引き継いだ。
「だからエーデル人は魔力で戦うんじゃなくて魔工銃とか武器で戦うことが多いねん。」
「あ、そうか俺は母さんの力があるから」
「せやね。だから俺らと同じように基地外での任務の方がええわけや。
まぁ外の方が魔物も強いんやけど」
死ななければ儲けもんやとヴァンは笑う。
「そもそもエーデルが異例なのよ。障壁作るのにそもそもどれだけの犠牲があったのか」
今度はメルが引き継いだ。
「だから他の国から煙たがれるのよ」
自分の知らないエーデル国の事情が多くあるようだ。
「まぁ、この辺の話は後々な。
明日、朝一で中央に戻って正式な手続きを行うとしよう。
今日をしっかり食べて休め」
ロルフがコップを高く持ち上げる。
「まずはお疲れさん」




