第5基地訓練①
普段任務で乗る魔工列車と違い少ない車両数であった。
座席も少なく、どちらかというと荷物を置くスペースが多いつくりである。
積んである荷物は軍のマークが入った荷物が多く目につく。
先に座ったロルフが手をあげ向かいの席に座るよう促す。
ジャックスはそれに従い席に着いた。
「第5基地って今は使われてないって聞いたんすけど」
荷物に目を向けながら声をかける。
「あぁ、居住地としては厳しいな。魔素も濃いしな。」
ロルフが煙草に火をつける。
魔工列車は禁煙である。
「どうせこの便を使うのは遊撃隊だけだから構わないさ。」
そんなジャックスの思考を読み取ったのかロルフがハハっと笑う。
「そんなとこに何しに行くんすか」
ジャックスの問いにロルフは煙を吐く。
「そうだな。まぁまずはお前さんのことを詳しく知りたいってとこだな」
「俺の?さっき話してた訓練どうこうって話っすか」
ロルフが頷く。
「基本的に軍人の能力や戦闘スキルは俺ら上官には公開されてる。隊長陣が毎日軍学校を見て配属を決めるわけにいかないからな。」
ロルフの言う通り、エーデル国では軍人のデータに関し、軍学校時代の成績を含めて軍所属後の訓練内容・戦闘実績などはすべてデータで記録されている。
それをもとに配属や転属が決まる。また任務時にもスコアをもとに編成を組むこともある。
「特に遊撃隊・・・ここにはある特別な適性が必要なんだよ」
「・・・魔力適性」
ジャックスの答えにロルフが頷く。
「正確には魔力の循環能力だな」
聞きなれない言葉だ。
「魔力が高いだけなら警備隊にも魔工銃隊にも適性がある可能性がある。
魔力はどう作られるか知ってるか?」
「そいつのエネルギーみたいなものだから食って寝るってので作られるって思ってます」
今度の答えは違ったようだ。ロルフはふむ、と腕を組んだ。
「そうだな、例えばこれを砂漠に放置するとどうなる?」
ロルフは魔法で小さな氷を生み出して差し出してきた。
「溶ける?」
これは正解のようだ。今度は水の球体に姿を変えた。
「んじゃこれをまた氷にするには?」
「冷やす」
簡単な話だ。が、話の先が見えない。
「どうやって?」
今度はジャックスが腕を組んだ。
「え・・・氷とかで?」
「溶けちまうような環境でどう用意する?」
ジャックスは頭をひねる。答えは出ない。
「これを自己修復するってのが魔力の循環能力の有無だ」
そういってロルフが魔力を込めると、水球の中心部分から凍っていき最初に見た氷へ姿を変えた。
「いま俺が外から魔力を流し込んだが、お前さんが氷だとすると外からの俺の魔力を取り込んで自分の力にするイメージだな。」
ロルフが指をはじくと氷がパキっと音をたてて消えた。
「食って寝るってのは半分正解だ。体が弱ってるとそもそもエネルギー出せないからな。
ただ、それだけじゃ追いつかないんだよ。いかに外の魔力を取り込めるかが大事なんだ」
はじけた氷がキラキラと二人の間を流れる。
「ここじゃそれができる人間は少なくなっちまった。
・・・だが、お前さんにはその力がある。素晴らしい力だ。」
ロルフがまっすぐこっちを見つめる。
「俺がお前さんの力をしっかり使えるようにしてやる」
軍学校時代は魔力があるだけ。親のコネだけだ。
そのくせ魔工銃は使えない。剣を振ることしかできない。
そんなことを言われていた。
警備隊になってから同僚からは戦闘能力で一目置かれていたが、
軍人の基礎ともいえる簡易的な魔工銃戦闘すらまともにできなかった。
父親のような立派な軍人にはなれないといわれなくても伝わってきた。
どこかで自分もあきらめていた。
そんな俺が、遊撃隊の隊長に認められた。
この力は弾薬を作るだけの力じゃなかった。
ジャックスは言葉に詰まった。
「お前さんがどういう扱いだったかは記録を見ればわかる」
「・・・っす」
ロルフは視線を窓の外に向けてくれた。
「いまのこの国じゃ魔工銃が当たり前だが・・・外はそんなことないんだ。」
外・・・遊撃隊の言うそれは基地外、国外のことと言えるだろう。
「むしろこの世界においてこの国が・・・ま、それは今はいい。
問題はお前のこの情報が意図的に俺にきてないってことだな」
ロルフは外を見たまま続ける。
「遊撃隊ってのは常に人員不足だが外でやってくにはある程度の人間じゃないとやっていけない。
俺も定期的にスコアを見てスカウトしてる。だが、これでも忙しい身でな。
こっちの条件をクリアした人材がいたら第5基地訓練を受けさせて、俺がそれを評価するようになっている。」
ロルフの落ち着いた口調にジャックスも気持ちが落ち着き、背筋を伸ばし口を開く。
「本来なら俺の話はそっちに行くはずだったと」
ロルフが目線をこちらに向け頷く。
「警備隊としてお前さんが優秀だから基地内で任務に当てさせたいってのも嘘でないだろう。
だが、俺には別の理由があるとふんでる」
普通に考えれば遊撃隊という特殊な任務に使える人材であればそちらに回すはずだ。
軍自体が万年人員不足だとはいえ、一番人数がいる警備隊に回す理由が見当たらない。
が、そこで叔父のダルシムとの会話を思い出した。
『この第5基地訓練ってのは受けなくていいのか?』
『お前には必要ない任務だ。俺の方から不要と申請しておく。必要ないことをやる時間はないだろう』
「博士は俺には必要ないって言ってました
・・・悔しいけどあの人が非合理な答えを出すとは思えない」
そりは合わないが、この国の中でもトップクラスの知能を持つ人間である。
ジャックスもそこは認めざるを得ない。
「そうなんだよ、そこが俺も最初疑問に思った。あの博士がそこの判断を間違えるとは思えない。
ってなると、博士以上の者が圧力をかけたか・・・」
ロルフが顔をあげる。
「本当に使い物にならんかどっちかだな!」
ガハハと豪快に笑う。
「いや、それはそれで困るっていうか!」
冗談なのか何なのかとジャックスは苦笑するしかなかった。
そうこうしているうちに列車が駅についたようだ。
ロルフが先に席を立つ。
「いいか、この訓練で上の連中にお前がここにいていいと認めさせるんだ。
そうしたらきっと見えてくるものがある」
そういって列車の扉を開けた。
まぶしい光と共にあたたかな風がジャックスを包んだ。




