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第一話 ひとりぼっちだと思っていた......。

さとる、君に出会えてよかった。君に出会わなければきっと今も苦しみながらひきこもっていたと思う。

君が私を変えてくれたんだ。

ありがとう。



窓の外の空は、今日も相変わらず青空だ。

 佐藤陽菜、22歳。


 朝目覚めると、ベッドの上でスマホを手に取り、SNSを眺める。タイムラインには、知らない誰かの楽しい日常が流れてくる。大学の卒業式、海外旅行、友達とカフェでの写真——私には関係のない世界だった。


 「……お腹すいた。」


 小さく呟いて、ベッドから起き上がる。 部屋の隅には、昨夜食べたコンビニのパンの袋が広がっている。


 「……おはよう。」


 キッチンのテーブルには、父が朝食をとっていた。 会社員の父は、いつも決まった時間に食事をしながら、仕事へ向かう。


 「……あぁ。」



 それが父の日常だった。


 「今日はどこか行くのか?」


 私は少しだけ驚きながらも、無理に微笑みながら


 「ううん、特に予定はないよ。」


 「......そうか。」


 それ以上、父は何も言わなかった。ただ、コーヒーを飲み干し、新聞をたたんで席を立っていた。


 「行ってくる。」


 「……いってらっしゃい。」


 父の背中を見送ると、ふぅ、と小さく息をついた。


 朝食を食べる気にはなれず、私はまた自分の部屋に戻る。 部屋に入って、PCを立ち上げ、ヘッドフォンを装着した。 アニメのエンディング曲が流れる。


 ゲームを起動し、キャラクターを操作する。ネットの向こう側には、同じゲームを楽しむ知らない誰かがいる。


 「おはよ~!」


 ゲーム内のチャットにフレンドの名前が表示される。


 「おはよ!今日もやる?」


 「もちろん!今日こそボス倒そうね!」


こんな他愛のない毎日が、今の私の「日常」だった。


 ——こんなはずじゃなかった。


 ふと、そう思う。


 高校生の頃は、私にも夢があった。母が生きていた頃、私は歌うのが好きだった。カラオケで思いきり声を出すと、母はいつも笑顔で「陽菜、すごく上手よ」と褒めてくれた。


 「いつか歌手になりたい。」


 そう言った私に、母は優しく優しく、夜空を指さした。


 「星にはね、願い事が叶う魔法の力があるのよ。例えば、叶えたい夢ができたら星に願いなさい。きっと叶うから。」


 あの夜、私は母と一緒に星に「いつか歌手になれますように」と願った。



——母が死んだ。


 私がまだ高校2年生の春の季節だった。

窓から桜が儚く散っていくのを私は見つめていた。

 

 この世界からはたった1人いなくなっただけなのに私にとってはとても大切で、大好きな大きな存在の1人だった。私はバラバラに割れたガラスのように心が壊れてしまった。


 母がいなくなった現実を受け止められず、私は学校に行くことができなくなった。それからは友達とも疎遠になり、父と会話もほとんどしなくなった。


毎日、毎日、泣いては寝続ける日々で顔は腫れぼったくなってしまった。 心配した父は、私を通信制高校に転学させてくれた。卒業はできたけど、気がつけば外に出ることさえ怖くなっていた。


 歌手になりたい——そんな夢を語る資格すら、今の私にはない。


 「……ゲーム、しよ。」


 余計なことを考えると、胸が苦しくなる。だから私は、またゲームの世界に逃げる


 時間経つのは早かった。気づけば夕方になり、窓の外がオレンジ色に染まっていた。


 ——たまには外に出てみようかな。


 そう思ったのは、何かの気まぐれ。

私はパーカーを羽織り、久しぶりに玄関のドアを開けた。外の空気は思っていたよりも冷たくて、少しだけ頬がひんやりする。


 公園まで歩いてみることにした。


 数分間歩くと、小さな公園まで来た。


 今の私はひとりぼっちだ......。


(第一話・完)


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