表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

平和と平穏のために

「こんなもんか」

 怪物領域を駆け巡り、多くの怪物に追いかけられた。

 その数は圧倒的で、中には強力な大型怪物を混じってる。

 これが防衛戦に押しよせれば一溜まりもないだろう。

 男が狙ってるのはそれだった。



 地球に怪物があらわれて数十年。

 西暦1999年に突如出現し、怪物は世界を席巻した。

 人類は敗退と後退を重ね、一部地域に密集して立て籠もる事になる。

 日本も例外ではなく、数カ所の地域に生存圏を確保していた。

 その一つ、関東地区の北方に男は怪物を集めていた。



 男は怪物退治を生業としていた。

 怪物はびこるこの世界ではありふれた仕事だ。

 その仕事に特に不満はないのだが。

 人間関係には憎悪を募らせていた。



 もとより幼少期より最悪の環境であった。

 毒親に学校犯罪に囲まれて。

 食っていくためになった怪物退治でもパワハラ・モラハラは当たり前。

 無駄に体育会系・軍隊系な気質な業界だ。

 暴言暴行は当たり前である。



 そんな生活を続けていれば、嫌気もさすというもの。

 生きていくため、食っていくために仕事をしてるのだが。

 そもそも生きててどうするのかと疑問もわいてくる。

 もちろん自殺などするつもりはない。

 だが、嫌になるような環境への怒りは生まれていく。



 その気持ちに男は正直だった。

 嫌な思いをしてまで働く必用は無い。

 そして、嫌な思いをさせてる奴を生かしておくつもりもない。

 加害者がのさばるような社会を存続させてどうるするのか?

 そんな世の中、壊れてしかるべきであると。



 なので男は行動する事にした。

 やり方にも目星をつけている。

 なにせ、社会崩壊の危機はすぐ目の前にあるのだ。

 それらを集めてくれば良い。



 怪物は世界各地に点在する迷宮からあふれてくる。

 そこで発生して外に出て来る。

 この怪物を集めてぶつければ良い。

 あとは怪物が勝手に物事を進めてくれる。



 集めるのも簡単だ。

 怪物は人間を見ると襲ってくる習性がある。

 なので、遭遇・即戦闘になる。

 ただ、この習性を利用する事でおびき寄せも可能となる。

 有利な地点まで怪物を引き寄せて始末するという戦法がとれる。

 誰かを囮にして見殺し、他の者が逃げるという事も。



「そういや……」

 そんな事もあったなあ、と男は思い出す。

 他の連中が男を囮にして逃げだそうとした事が。

 幸い、何とか生き延びる事が出来たが。

 見殺しにした連中は、後日皆殺しにした。



 そんな事をしでかすような連中の集まりだ。

 そんな事を容認するような社会だ。

 あらためて滅ぼすに十分な連中だと確認する。

「生かしておくとろくな事にならん」

 怪物退治業界、それによって生かされてる人類がだ。



 嫌な事を思い出しながらも、行動をしていく。

 実際、これはこれで有効な手段だ。

 うまくおびき出せばすぐに多くの軍勢を作ることが出来る。

 今の男に必要なものだ。

 自分を囮にして、怪物を集め、関東の防衛線までつれていく。

 それだけで戦線の一部を崩壊させる事が出来る。



 人類も対策として、防壁や無人砲台などを設置している。

 魔術による怪物除けの結界も作っている。

 だが、大挙して押し寄せる怪物を完全にふせぎきる事は出来ない。

 今回集めた勢力をぶつければ、確実に防壁を破壊する事が出来る。

 だが、まだそれだけでは足りない。



 防壁の一部は破壊出来てもそれで終わりだ。

 集めた怪物もほぼ潰滅。

 集まってきた軍や怪獣退治業者によって殲滅させられるだろう。

 それでは駄目なのだ。

 もっと徹底的にあばれてもらわないと。



 その為に男も防壁へと向かう。

 内部から破壊するために。

 怪物を阻む結界を。

 怪物を攻撃する砲台を。

 少しでも怪物の損害が減るよう努めていく。



 そのおかげで怪物はさしたる損害もなく防壁を破壊。

 関東内に進入する事に成功する。

 防壁によって進入経路は限定されているが。

 まずは怪物が関東内に入ったことだけでも良しとする。



 男は更に動いていく。

 各所に設置されてる自動防衛機構。

 これらを破壊していく。

 まともに動いたら怪物の損害が大きくなる。

 少しでもこれを抑えるために、設置してある防衛用の設備などを破壊していく。

 怪物用なので簡単に壊す事が出来る。

 人間の男にむけて一切作動しないのだから。



 こうして北関東の一角が壊れる。

 そこに怪物が流れこんでいく。

 慌てて軍隊や怪物対峙業者が駆け付けるのだが。

 押し返す事は出来ない。

 強力な怪物がいるから。

 後続が途切れる事無くやってくるから。



 男は止まらない。

 この程度で終わらせるつもりはない。

 続いて他の防衛地点も破壊していく。

 無人砲台や怪物除けの結界を破壊していく。

 こうしておけば、怪物が近づいてくる。

 近づけば、壁はいずれ破壊される。

 自動的に怪物が人類の領域に入り込む。



 既に怪物が侵攻してきてるのが幸いだった。

 そちらの対処に兵力が割かれている。

 おかげで他の防衛線の警備は手薄だった。

 そこそこレベルの高い男だけで攻略できた。

 普段通りなら手間どって失敗していたかもしれない。



 こうして防衛機構を破壊すれば、そこに怪物が集まる。

 集まった怪物への対処が必要になる。

 兵力を集めねばならない。

 別の部分の兵力を削りながら。



 北関東全域が怪物に襲われる。

 軍隊と怪物駆除業者の防衛戦が突破され、市街地に怪物がなだれ込む。

 こうなればもうどうにもならない。

 ろくな武装もしてない一般人が、防衛設備のない平坦な土地で戦っても被害を増やすだけ。

 生き延びるなら逃げるしかない。

 だが、逃げる場所がない。



 こうした避難民のせいで、軍隊が阻まれる。

 あちこちの通りに人があふれてるのだ。

 出動した軍隊もろくに移動が出来ない。

 ヘリコプターなどで空中移動する部隊はともかく。

 そんな部隊も、補給もなされないのですぐに潰滅していく。

 どれだけ素早く場所を確保しても、弾丸がなければ戦えない。

 そして、弾丸は手持ちの分しかないのだ。

 押しよせる怪物相手に銃を撃ち続ければすぐに弾切れになる。



 もちろん軍隊とてレベルの高い人間で構成されている。

 並の怪物相手なら、接近戦用に所持してる刀などで対処出来る。

 この時代、軍隊も銃だけで戦ったりはしない。

 高レベルの人間の素手の一撃は銃弾を超えるからだ。

 なので、軍隊も高レベルの人間の育成に勤しんでいる。



 そんな兵士によって怪物達は撃破されていく。

 なのだが、それも限界がある。

 せいぜい数百人にしかならない部隊が数千数万の怪物の全てを撃退出来るわけがない。

 一人、また一人と倒れて戦力を消耗していく。

 そして、人数がある一点を超えて低下すると、そこで部隊が壊滅する。

 敵を撃退するのに必要な最低限の戦力を割り込むからだ。

 こうなったら残りの人数など木偶の坊に等しい。

 押しよせる怪物にすりつぶされるだけ。

 しかも損害などこれっぽっちも与えられない。

 無駄死にである。



 そんな部隊があちこちに発生する。

 戦線を保つために投入された空中移動部隊が壊滅し。

 避難民によって阻まれた軍隊が、避難民ごと怪物に飲み込まれ。

 かろうじて優勢を保っていた部隊も、怪物の中に孤立する。



 かつての栃木・群馬・埼玉・茨城が怪物に制圧されていく。

 利根川などの河川を防衛戦にして、東京・千葉はなんとか持ちこたえてるが。

 それも時間の問題だ。



 当然、政府や官僚、商工業の重鎮などは脱出をはかる。

 しかし、逃げ道がない。

 日本の他の地区へ向かおうにも、街道に鉄道は怪物制圧地域だ。

 移動するなら護衛が必要だが、そんな兵力はどこにもない。

 空路も海路も怪物によって阻まれている。

 これらを退けて移動する事も不可能。

 民衆を捨てて逃げだそうとした上級国民だが、これらも民衆と運命を共にするしかなくなった。



 そして人のいなくなった地域に怪物が巣を作っていく。

 いくつもの怪物が寄り集まって一つに溶け合い、巨大な魔力結晶となる。

 魔力を放つこれに更に怪物がとりつき、溶けあっていく。

 そして巨大な建築物が出来上がっていく。

 怪物が一つに混ざり合って出来る巨大な魔力発生装置。

 魔力の塊である結晶を中心とした巨大構造物。

 その内部は迷路のように入り組み、怪物の住処となる。

 新たな怪物が生まれる苗床にも。

 こうして新たな怪物の拠点が生まれる。



 こうした怪物の根城は迷宮と呼ばれる。

 かつての創作物にあやかって。



 そんな迷宮が北関東に乱立していく。

 そこから新たな怪物が吐き出され、怪物は勢いを増す。

 関東に残された人類に撃退するだけの余力はなかった。

 東京・神奈川・千葉を守るので限界だ。

 それすらもおぼつかない。



 やがて関東から人類は駆逐される。

 時間はかかるだろうが、確実に消える。

 遅いか早いかの違いがあるだけだ。



 ひいては日本における怪物とのパワーバランスが崩壊していく。

 これまでは拮抗状態だったのだが。

 人間側の勢力が衰えた事で、怪物側の勢いが増した。

 迷宮も増加し、これまで以上に多くの怪物を相手にする事になる。

 それを撃退できるだけの戦力は日本にはない。

 生き残ってる他の地域もいずれは増大した怪物に押し潰されるだろう。

 関東での怪物の勝利は、日本全土への影響をもたらしていく。



 更には世界全てにおよぶ。

 日本が制圧されれば、怪物は他の地域にも向かう。

 大陸にわたり、その地の人類を駆除していく。

 世界から人類が消えるのも、そう遠い先の事ではない。



 たった一カ所での敗北。

 それが人類全体に影響を及ぼしていく。

 たった一人の人間による行動で。

 一人の人間を虐げた事によって。



 これがまわりに危害を加える悪人悪党ならともかく。

 まっとうな人間を虐げてきたのだ。

 その罪悪は大きい。

 なにより、そんな罪悪を見逃していた、放置していた者達の罪は大きい。

 人類はその責任を追及される事となった。



 このような自体を避けたいなら、問題を解決しておけば良かったのだ。

 危害を加える者達を成敗し、皆殺しにしていく。

 そうする事で、被害者を少しでも救済する。

 なにより、加害者を皆殺しにする事で、今後発生する被害者を無くす事が出来る。



 それなのに問題を解決せず、加害者に肩入れをする。

 加害者を擁護する。

 それが人類社会である。

 被疑者が救済される事などない。

 人類は加害者が好きなのだ。



 なら、加害者になっても問題はない。

 危害を加えても問題は無い。

 加害者を放置してたのだ。

 被害者が加害者になっても何も問題はない。



 男はそう悟って行動に移った。

 怪物を使って人類に危害を加えていった。

 非難されるいわれなどない。

 男は加害者になったのだから。

 加害者を擁護してきた人類は、男に賛同し従っていくのが正しいあり方である。



 もちろんそんな事になるわけもない。

 人類の大半はこんな事態になった事に非難をあげた。

 どうして怪物が攻め寄せてきたのかと。

 つまりは加害者になった男に非難していく。

 言行不一致、言ってる事とやってる事が違う。

 なのだがそれにも気付かない。

 今回の出来事に男が関与してると知らないからでもあるが。



 それでもやはり問題だらけである。

 加害者を賞賛するのが人類である。

 ならば、怪物という加害者のやってる事にケチをつけるのがおかしい。

 自分たちを殲滅している怪物は最高の加害者になる。

 その加害者を褒め称えないのはおかしい。



 男にはそんな人類の態度が不思議で仕方がなかった。

 なぜここまででたらめな行動をしているのか?

 虐げるものを賞賛し擁護しながら、時にそんな人間を非難する。

 どうしてそんな違いが出て来るのかがわからない。

 加害者を褒め称えるなら、自分らが殲滅される事を喜ぶべきなのに。



「本当にわからんな」

 自分以外の大多数の考えに首をかしげつつ。

 そんな危害を加えてくる危険な存在の潰滅を喜ぶ。

 これで人類が防衛以外の事に頭を使う事はないはず。

「まあ、バカだからどうなるかわからんけど」

 国家滅亡がかかってる戦争中でも派閥争いをするのが人間だ。

 この期におよんでも、内部抗争を繰り広げるかもしれない。

 だが、それならそれでかまわない。

 男に害がおよぶ事はないのだから。



 男は今、人類の生存圏外で生活をしている。

 怪物はびこる危険地帯でだ。

 そこにある、かつて町だったところにいる。

 怪物に囲まれて危険なのは確かだが、それでもかまわなかった。

「ここには人間がいない」

 この一点でとてつもなく暮らしやすい。



 食料は怪物を倒す事で得られる魔力結晶で真兼ねる。

 これを使った回復魔術が栄養を体に与えてくれる。

 必要な道具も魔力結晶を変化させて様々な物質を作り出す事が出来る。

 錬金術と呼ばれるこの方法で、物資はいくらでも手に入る。

 燃料などのエネルギーも、魔力結晶の魔力を用いれば良い。

 水もまだどうにか確保出来ている。



 また、男一人だけというわけではない。

 同じように人間に嫌気がさした者達が集まっている。

 こういった者達が小さな集落を作りあげている。

 協力しあう事で生存率を上げている。



 そんな生活拠点に帰ってきて、男は安心感をおぼえた。

 怪物除けの結界を作ってるとはいえ、周りは怪物だらけ。

 なにかきっかけがあれば、すぐにでも怪物が攻めこんでくる。

 それでも男にとって安心できるのこの危険地帯だった。

 人間があつまってる生存圏ではなく。



 人間にとって最悪の敵は人間である。

 日常的に接する者達がもっとも危険である。

 そして、もっとも鬱陶しい。

 怪物なら排除しても問題は無い、むしろ賞賛される。

 だが、人間を排除・撃破したらそれだけで非難される。

 危害を加えてくる危険な人間が相手でもだ。



 そんな問題だらけの人間社会よりも、怪物うずまく危険地帯の方が気が休まる。

 怪物は基本的には身近にいない。

 すぐ近くにはいるが、生活範囲にはいない。

 それだけでも気が休まる。

 人間ではこうはいかない。



 常に身近にいる人間。

 だからこそ、もっとも凶悪な敵になる。

 これがいない空間はそれだけでも安心が出来る。



 もちろん、小数だが人間が皆無というわけではない。

 だが、一緒に暮らしてる者達は、基本的には距離を取って生活をしている。

 交わる事はほとんどない。

 挨拶すら交わさない。



 最低限やるべき事、協力すべき事はある。

 そういう時はさすがに共に活動をする。

 だが、それでも事務的な指示を出すだけ。

 そんな生活が男には心地よかった。 



 そんな集落を出て、今回は関東殲滅に出向いていた。

 これにも理由がある。

 最近、人類が勢力を盛り返し、怪物の勢力圏に出ようとしていたのだ。

 放置すると男達が暮らしてる場所が脅威にさらされる。

 そうなる前に人類を殲滅しなければならなかった。

 さすがにそこまでは無理だとわかっていたが。

 せめて活動を頓挫させる必要はある。

 その為に、怪物を集めて襲撃をした。



 男はその為に行動していた。

 仲間と作戦を立て、如何に上手く事を運ぶか。

 それを考えて実行した。

 とりあえず敵の行動をある程度おさせる事が出来れば良いと思っていたが。

 求めた以上の成果が得られた。



「やったぞ」

「やったな」

「やったね」

 帰ってきた男の声に、仲間も言葉を返していく。

 誰もが喜んでいた。

「これで邪魔が消えるな」

 人生で初めてというほどの笑顔をうかべている。



 人類は絶滅への道を歩み始めた。

 怪物にいずれ飲み込まれるだろう。

 だが、それを望んだ男達は、誰もがこの事態を喜んでいた。

「やった人類が滅びる」

 最悪の敵が消えたのだから。



 それからも男達は似たような方法で人類の生存圏を縮小させ。

 これが原因で人類は滅亡をしていく。



 ただ、男達は小数ながらも生きながらえ。

 人類という種族を存続させていく事になる。

 これはこれで皮肉な事だろう。

 滅亡を望んだ者達が存続の理由になるのだから。



 それでも男は手にした結果に満足していた。

 もっとも求めたものを手にしたのだから。

 平穏、ただそれだけを。



「平和だねえ」

 ようやく勝ち取った成果。

 それに男は満足していた。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を



どうせ書籍化しないから、こっちに寄付・投げ銭などの支援を↓



【よぎそーとのネグラ 】

https://fantia.jp/posts/2691457



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


_____________________

投げ銭(チップ)・支援はファンティアで随時受付中↓


【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/fanclubs/478732


_____________________



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ