幸運があればいい
「最悪だ……」
渡会ヒトシの最後の呟き。
これが彼の人生の全てを表していた。
生まれたのは毒親家庭。
世間体だけ気にする親による成績追求の日々は決して安穏としたものではなく。
保育胃炎から高校までの子供社会では学校犯罪であるイジメの標的にされ。
就職氷河期と言われる時期に高卒で放り出された社会ではブラック企業にしか入れず。
罵り怒鳴られ殴られる日々が人生の大半だった。
せめて最後くらいは良い目にあえれば良いが。
それもかなわず、路上で血を噴き出して野垂れ死ぬ事となった。
そんな人生に振り返りたくなる良いところなどあるわけもなく。
ただただ苦痛と苛立ちと後悔と憎悪だけが浮かんでくる。
人生最後の記憶の羅列、走馬灯と呼ばれるものはそんなものだった。
思い出したくない日々である。
「次は────」
せめて次の人生があるならば。
もっとマシな人生になって欲しい。
そう思うのも無理はない。
そんな切なる願いが今際の際に浮かんでくる。
「楽して、幸せになりてえなあ……」
働かずに糧が手に入る。
好きな事だけして楽して生きていく。
煩わしい他人も必要ない。
一人でのんびりと生きていきたい。
そんな思いを最後に、ヒトシは息を引き取った。
享年59歳。
苦難と苦労だけで報いなど一切無い人生だった。
そんなヒトシの霊魂は体から抜けだして。
宇宙をも超越した次元の境を飛び出していく。
最後の願いに従い、世界の教会すらも飛び越え。
望んだ場所、望んだ状況を求めていく。
その途中。
いうならば霊界ともいうべき空間を横切りながら。
ヒトシの霊魂は吸収していく。
周辺に漂う気力と呼ぶべきエネルギーを。
それらがヒトシの望みに応じて引き寄せられ、霊魂に吸い込まれていく。
気力を取り込んだ霊魂は、望みに従い霊魂の力になっていく。
その果てに霊魂に一つの力を与えていった。
言葉にするなら、それはこう呼ぶべきだろう。
【幸運】
あるいは、
【ご都合主義】
そんな力を得て、ヒトシは別の世界に辿り着く。
望みにふさわしい環境を備えた世界に。
望んだ力をふるうにふさわしい状況に。
求めにふさわしい世界に飛び込み、新たな人間として生まれていく。
その日その時生まれた生命の中に。
受精したばかりの卵子に。
こうしてヒトシは異世界への転生を果たす事になった。
何も知らない夫婦の子供として。
そして。
ここからヒトシの人生最盛期が始まる。
さて、転生した直後はさすがに意識がなかったわけだ。
思考がまだ定まっておらず、自分の意思で活動する事が出来ない。
まあ、お乳をもらってだっこされてる赤児の時期はしょうがない。
せいぜい、ハイハイが出来て、更に足で立つ事が出来るくらいになるだろうか。
自らの意思で行動し始めるのは。
だが、手に入れた【幸運】は所有者の意思や自覚など関係無しに働く。
ヒトシにとって都合の良い結果をもたらすために。
文字どおりに【ご都合主義】といえる状況を作っていく。
まず、近所の悪ガキが死んだ。
このままいけば、ヒトシの害になる存在だった。
それが足を滑らせて転んで、頭をそこに落ちてた石にぶつけて死んだ。
村の子供に怪我をさせ、物を壊し、盗み、と悪戯では済まされない事をしていたガキだ。
死んで村の子供達は大いに喜んだ。
その親も死んだ。
子供が子供なら親も親で、ロクデナシだった。
父親は乱暴者で嫌われており。
母親は媚び売って村長にとりいり、色々と駅贔屓を引き出してるクズだった。
誰もが早く死ねとネガるような連中だった。
それが、父親の方は水路にはまって溺死。
足首までの深さしかないような所でである。
母親は従えていた暴れん坊によって殺された。
さそわれてその気になっていた取り巻きの男に殺された。
ついでに取り巻き達も、互いに罵り合い始めて、最後には殺し合いをして死んでいった。
誰も生き残らなかった。
この出来事に、村の者達は喝采をあげた。
クズが死んだと。
そこまで嫌ってたなら、自分たちで始末すれば良いのだが。
そこまでする度胸もないのが大多数である。
クズの母親に肩入れしていた村長が止めていたのもある。
そんな村長も、ほぼ同時期に死んだ。
用事があって領主の所へ向かう途中、盗賊に襲われたのだ。
跡継ぎの紹介で、村長の息子や孫も同行していた。
その全てが死んだ。
もともと評判のよくなかった村長である。
その息子と孫もクズとして村の者から嫌われていた。
いわゆるパワハラ・モラハラに、無理な労働の押しつけなど。
収穫物の上前をはねるのも当たり前。
好きな人間などいるわけがなかった。
そんな輩が盗賊に皆殺しになった。
村の者が歓喜の声をあげるのも当然。
更にその盗賊だが。
さすがに放置は出来ないので領主によって成敗されていった。
このついでに領主も死んだので、統治下にある者達全員が喜んだ。
こいつも定められた以上の税を取り立てるような極悪人だった。
死ねば誰もが喜ぶような輩だ。
盗賊と相打ちになって領民の誰もが喜んだ。
「最後に一つだけは良い事をしたな」
そう評価しながら。
「けど、今までが最悪だった。
善行一つで覆せるかよ」
真っ当な評判もしっかり残していく。
当然、領主は息子が継ぐのだが。
この息子がまだ幼いという事で親戚が見内争いを開始。
さすがに家督を奪う事は出来ないのだが。
後見人としての地位を狙う者達で騒動となる。
この争いのおかげで統治もままならず。
さすがに「見苦しい!」とお叱りをうけて、領主の地位を剥奪される。
さすがにお家断絶や、一族の処刑にはならなかったが。
役目を失い、権力も消えた元領主一族は、少しずつ衰退の道を歩んでいった。
こうして空白になった領主の地位に、他の貴族が乗りだしてくる。
出自は貴族でも役職がない者は大勢いる。
空席が出れば群がるのは当然。
ここに醜い権力争いが勃発する。
貴族同士での暗闘で、賄賂が飛びまくる。
この賄賂の取り締まりで幾つかの家が吹き飛んだ。
更に暗殺者飛び交う暗闘も発生。
殺し殺され、更には取り締まりに出て来た治安関係者により、逮捕投獄まで発生。
お家取り潰しからの一族離散まで起こった。
こうしてロクデナシが芋づる式に潰滅し。
幾らかまともな貴族が領主にすえられる事になった。
特別優秀ではないが、問題をおこすような事のない。
温和な性格が取り柄の者が。
おかげで領地の中に含まれるヒトシの家は苛政から解放された。
もっと身近なところでも良い事が起こっていく。
ヒトシが生まれてから、ヒトシの家の田畑は毎年豊作。
どうしてこんなに上手くいくんだと言わんばかりにである。
おかげでヒトシの家は少しずつだが豊かになっていった。
親も偉大だった。
こういう状況になれば浮かれて羽目を外すのが人間というもの。
だが、ヒトシの両親はそんなバカではなかった。
「こりゃあ、えらいこっちゃ」と驚き。
「けど、こんな良い事がずっと続くわけもねえ」と自制が出来る人間だった。
なので、贅沢は基本的にしなかった。
収穫が増えた分で腹を満たしはしたが。
飽食とは無縁だった。
また、増えた収穫の分でまずは必要なものを買いそろえていった。
道具も便利なものを出来るだけ集めた。
今後の仕事がしやすくなるように。
倉が建つほどの収穫を使って、人を雇いもした。
田畑を耕す小作人として用いもしたが。
道や水路工事などの人手としても用いた。
さすがに土地がなかったので田畑は増えなかったが。
一応は豪農と言えるくらいにはなった。
こうして【幸運】で引き寄せた豊かさで、ヒトシは得がたい機会を手に入れていく。
家の仕事をする必要が少ないので、比較的自由な時間が多い。
おかげでヒトシは勉強をする時間が得られるようになった。
この世界、まだ寺子屋のようなものもない。
おかげで、読み書きできる者が少ない。
村に一人か二人、いるかどうかだ。
だが、ヒトシには時間がある。
学ぶ機会がある。
そこで親は子供に読み書きなどをおぼえさせる事にした。
「知っておいた方が色々便利だからな」と言って。
幸い、この一体をあずかる神社で色々教えている。
ヒトシはそこで読み書きから計算まで学ぶ事になった。
ただ、使って文字がいわゆる片仮名平仮名なので、おぼえる苦労はほとんどない。
漢字も含め、さして難しい内容はなかった。
ものおぼえの良いヒトシに、教える方も目を見開く。
そして、こんな田舎でくすぶらせるのはもったいないとも考えた。
かくて町の学校への推薦を獲得。
村から出る事になる。
町といっても近くの町というわけではない。
現代日本でいうところの市町村の中心地まで出向く事になる。
そういう所でないと学校が存在しないのだ。
子供が勉学に励むというのが当たり前の世界ではないのだ。
まず、学ぶ機会があるほど裕福な、仕事をしなくて良い者達が少ない。
ヒトシは例外といえる。
そんなヒトシの学校生活だが。
楽しいものになった。
クズのいない学校生活はヒトシにとって初めての事だった。
前世ときたら、犯罪が当たり前だったのだから。
それがないだけでも過ごしやすい場所だった。
もちろん、ここでも【幸運】が働いてる。
ヒトシに害をなすようなものは事前に消されている。
それこそ生まれた瞬間に死亡した者もいる。
おかげでヒトシの周囲にはクズな人間はいない。
ヒトシより優れた人間はいるが。
こればかりはさすがに仕方がない。
ただ、そういった優秀な人間との付き合いが今後に大きく影響していった。
有力者になってヒトシに便宜をはかるようになるからだ。
人手が必要になってるヒトシの家にて働く者もいる。
また、出会った学生の伝手から商人や職人とのつながりも出来た。
これらがヒトシの今後に大きく寄与するようになる。
伝手だけではない。
学校でもそれなりの成績をおさめたヒトシは、あちこちから声がかかる事になる。
役所から、商会から、工房から。
「ぜひ、うちに来てくれないか!」
就職先に困る事はない。
前世と正反対な状況だ。
優秀な成績を残したヒトシだ。
自分の所に欲しいという要望は当然発生する。
既に実績もあるのが大きい。
同級や同窓の伝手から役所や商会、工房などへの進言もしていた。
それらが上手く機能し、成果が上がっていた。
そんな人間を手放す者はいない。
ヒトシとしてはどこかに肩入れするつもりもない。
どこかに取り込まれれば良いように使われる。
また、入社した所はともかく、他から様々な攻撃がなされる。
それを懸念した。
なので、独立して各所と提携関係を作ることにした。
弁護士や会計士が複数の会社や団体と取引するようなものだ。
ヒトシは何処にも入らない。
その代わり、あらゆる所と手を取り合う。
ヒトシとしては全員への誠意のつもりである。
誰かの利益だけ優先はしない。
全員で上手くやっていこうと。
だが、世の中の大半はそう思わない。
誰にも良い顔をする八方美人だと考える。
都合が悪くなればすぐに裏切るだろうとも。
だから、様々な制裁や制約、身動きがとれない状況を作り出そうとしていく。
ヒトシを取り込むために。
【幸運】が発動していく。
【ご都合主義】な展開が発生していく。
ヒトシに害をなす、損になる事を考えた者の全てが潰えていく。
風邪を引いたと思ったら重症化して死亡したり。
滑って転んで、頭を階段に打ち付けて死んだり。
暗闘や暗躍の果てに、互いに互いを潰し合う形になって滅亡したり。
謀事を企てた連中の悉くが死滅していった。
当の本人だけではない。
その家族も、一族も、派閥も。
関係してる者達全てに影響がおよんだ。
誰もが不慮の事故や病気でくたばっていった。
権謀術数に巻き込まれて死んでいった。
これに気付いた者は関係者から離れようとした。
巻き込まれたらたまらないと。
だが、【幸運】の効果はそれを認めない。
少しでも関わりがある者達は例外なく死んでいった。
それに気付いた者達はヒトシへの介入をやめた。
下手に関わればどうなるかわからない。
死ぬのは避けられない。
それも自分だけが死ぬのではない。
一族郎党全てが死ぬのだ。
そんな危険はおかせない。
極悪非道の悪党でも、なぜか自分の血縁者や親戚は慈しむ。
人を虐げても何とも思わない、むしろ苦しむ姿を見て楽しむほどのクズなのにだ。
そんな連中からすれば、自分だけでなく家族まで危害がおよぶような事は避けたい。
ヒトシに手を出して危険がふりかかるような事は避けたかった。
だが、その努力も無駄に終わる。
ヒトシに危害がおよぶ可能性全てが潰えるのだ。
直接関わってなくても、【幸運】は危険人物を根絶やしにしていく。
例外はない。
効果はヒトシの周囲から、更に国全体に。
そして、国の存在する大陸と、星の上全体におよんでいく。
全てはヒトシのために。
問題になり、障害となる全てが排除されていく。
その反対もある。
ヒトシの利益になる、少なくとも危害を加える事がない者達。
これらは害がおよぶ事は無い。
繁栄していく。
成果があがり、効率がよくなり手も共に残る利益が大きくなる。
新発見や新発明を手に入れる。
今までの無駄を省き、不要なものを排除して。
より大きな利益がもたらされていった。
これも【幸運】の影響だ。
よりよい者が残り、それらが手を取り合って成果をあげていく。
クズが死んだ事により、一時的に人手は減った。
このため、各所から労働力が減った。
一時的に業績が悪化した。
だが、一時的だ。
残った者達による働きで、クズが死ぬより前より業績は良くなった。
足を引っ張り、無駄な仕事を増やす者が減った。
利権を作り、予算を奪う者が消えた。
横領で必要な物資を奪う者が消えた。
自分のワガママのために、優秀で有能な人間を追いおとす者が消えた。
まともに働く者が持てる能力を発揮できる状態になった。
資本や資源がどこかに横流しされる事もなく、適切に用いられるようになった。
今までは本来の能力が発揮できなかった。
それが普通に用いられるようになった。
才能や能力が上がったわけではない。
ただ、持ってる力を普通に使えるようなっただけだ。
それだけで、効率が格段に向上した。
今までは邪魔がとてつもなく大きく多かったという事だ。
その元凶が消えた事で、物事がよりよく動くようになった。
巡り巡ってこういった状況がヒトシの利益になった。
各所と提携してるヒトシのもとに大量の報酬が流れこんできた。
その報酬で事業を拡大し、更に金回りがよくなった。
大半は経費で消えていくが。
それでも手元には多くの金が残った。
この金を使って、生活水準を上昇させていった。
なにせ水道すらまともに通ってない世界だ。
水くみは井戸までいかねばならない。
トイレはくみ取り敷き。
21世紀の日本になれたヒトシには辛い。
なので、こういった身のまわりから改善していく事にした。
その為に水道を引き、下水をしいていく。
これらの研究開発に費用を費やしていった。
おかげで、ヒトシの住処には蛇口と水洗トイレが備わった。
個人の家の中にだ。
この世界では有り得ないほどの贅沢だ。
更に風呂も用意した。
家の中に水が引けて排水が出来るのだ。
やらない理由は無い。
お湯を沸かすのは大変だが。
これも技術を発展させる事で対処した。
ならば冷暖房も、といきたいが。
これはさすがに簡単にはいかない。
電気が必要だからだ。
これが出来なければ話にならない。
そもそも発電が必要になる。
その為の設備がない。
なので、まずは蒸汽機関からという事で、そちらを発達させていった。
とはいえ、ヒトシにこれらを作り出す能力は無い。
科学的な能力など持ち合わせてないのだ。
だが、そこは【幸運】が働いてくれる。
ヒトシに出来ないなら、出来る者を活躍させればよい。
そういう状況を作り出していく。
発明家や発見者がヒトシのまわりにあらわれる。
ヒトシの近くにいなくても、話が伝わる。
それを聞いて資金や資源を提供する。
たとえヒトシが聞いてなくても、権限を持ってる者に伝わる。
おかげで科学が発展し、快適な生活につながっていく。
ヒトシを中心とした場所が発展・発達していく。
ヒトシの住居から始まり、家に付け加えられる様々なものが周囲にひろがっていく。
ある意味、ヒトシは実験台だ。
出来上がったものを真っ先に導入し、どれだけの効果が得られるのかを知るための。
だが、これをもとに改良版が作られ、それがヒトシに再びもたらされ。
十分に採算がとれるくらいにまで発展したところで、周囲に売りに出される。
問題は無い。
むしろ、事前に問題点を洗い出すためにも、ヒトシに新規製品を届けた方が都合が良い。
そうすれば世間にひろめる際に無駄な騒動が起こらなくなる。
故障などが減るのだから当然だ。
こうしてヒトシの生活環境は世間一般よりも格段に上回っていく。
世間がまだ産業革命を迎えてない時期に、既に20世紀初頭くらいの段階に突入している。
ありえない発展速度だ。
しかもこれが止まらない。
止まらないのは科学の発展もだ。
地球において100年200年とかかっていた事が、大幅に短縮されていく。
相次ぐ発見や発明が滞る事なく実用化されていくからだ。
ここにも【幸運】の効果が出ている。
無駄な失敗がない。
権益を巡っての衝突もない。
全てがヒトシの快適さの為に用いられていく。
これを脅かす者がいない。
いうなれば全てはヒトシの為になされている。
他の誰かの事など考えられていない。
だが、ヒトシが快適さを受け取るためにも、世間の発展が必要だ。
世間の生活水準や労働環境が快適になる。
そして作業効率が上がる。
研究開発から生産にいたるまでの時間が短くなる。
即座に新製品が開発される事で、ヒトシが快適さを受け取るまでの時間が短縮される。
この為、【幸運】はヒトシだけを幸福にしていくわけにはいかない。
あくまでヒトシの幸福が最優先であるが。
これを手助けする為にも、作業に携わる者達の発展も必要だった。
結果として、大勢の人間も快適さを受け取る事になる。
例外は、ヒトシに害をなす者達くらいだ。
既に生きてる者達の中にそんな人間はいないが。
それでもたまに生まれてくる者の中には、ヒトシの害になる者もいる。
そういった者は生まれる事無く死ぬか、生まれてもすぐに死ぬ。
生き残れる者はいない。
快適さが人間関係にもおよんでるのだ。
ヒトシの周りにクズは居ない。
これもまた生活水準の上昇と言えるだろう。
なにも便利な生活用品だけが快適さというわけではないのだから。
おまけに医療知識や技術も発展していく。
このおかげでヒトシの寿命は大幅にのびていった。
細胞の老化は避けられないが、これを大幅に遅らせる事が出来るようになった。
ヒトシは400年におよぶ人生をおくる事になる。
また、人類全体の寿命もこれくらいの長さになっていく。
この長い人生の間で、ヒトシは最先端の快適さを獲得していく。
最初に作られた便利な製品をヒトシが受け取るのだ。
その時点で一番快適な生活をおくれるのは言うまでもない。
【幸運】がそんな生活を運んでくれる。
家庭も順調だった。
温和な気質の女と巡りあい、結婚。
生まれた子供もすくすくと育っていく。
残念ながら女房は延命措置が遅れたので、ヒトシほど長生きはしなかったが。
それでも200年余りの人生をおくり、穏やかに死んでいった。
残されたヒトシは、そんな女房との思い出と、孫やひ孫など共に暮らしていく事になる。
それはそれで平穏な日々であった。
「楽しかったなあ」
今際の際、ヒトシは感想をもらす。
無駄な衝突もなく、快適な生活をおくる事が出来た。
前世と正反対の波乱もなく平穏な日々。
それはヒトシの求めた幸福そのものだった。
「これからもこんな世の中であって欲しい」
そう願いながら息を引き取っていった。
子供や孫などの一族にみとられながら。
そんなヒトシの願いを【幸運】は聞き入れ。
ヒトシが生きていた頃のように邪魔な人間が生まれない世の中にしていった。
様々な発見や発明も続くように。
死してなお、ヒトシの影響は世界によりよい効果をもたらしていった。
それはヒトシが生まれた星に留まらず。
宇宙にまでおよび、別の星まで伝わっていった。
人類はその効果を受け取り、永遠に続く最盛期を続ける事になる。
あるいは黄金期とも呼ばれる繁栄は、たった一人の転生者によって永遠に確保された。
この恩恵が解明されるのは、科学が因果や事象の全てをつまびらかにする頃まで待つ事になる。
だが、この事実を知った人類は、繁栄をもたらした最初の一人への感謝を抱いた。
既に亡くなってるのでお礼のしようもなかったが。
だが、感謝の気持ちが影響をもたらす事も既に解明されていた。
だから多くの者達がヒトシへの感謝を願いとして放った。
彼の霊魂が死後も幸せであるようにと。
その願いがまた新たな奇跡を呼び起こす。
だが、それはまた別のお話。
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