敵の味方は敵でしかない
「終わったか?」
探知できる範囲にいる最後の一人を殺した。
脅威となりうる存在はこれで消えたはず。
なのだが油断は出来ない。
探知を凌いで隠れてる者がいるかもしれないのだから。
削剛ヒトシは気力を周囲に放って様子をうかがう。
周辺の様子をレーダーのように探る事が出来る超能力。
世界が変わった瞬間から使えるようになったものだ。
これのおかげで目に見えない場所に潜んでるものも把握出来る。
自分を中心とした数百メートルの中なら、たいていのものを見つける事が出来る。
ただ、完璧ではない。
相手が超能力を阻害する能力を持ってたり。
超能力に抵抗するだけの気力を持ってたり。
こういった場合、見逃してしまう事もある。
そうそう起こる事もないが、念には念を入れるしかない。
ありがたい事に、そういった者はおらず。
見つけられる範囲に居る敵は全て殺した。
「これで少しはマシになればいいけど」
そうもいかないだろうなと思ってため息を吐く。
人間が怪物に変化していく。
そんな現象が起こってから数年。
人間はなんとかこの状況に対応していった。
怪物を凌ぎ、安全圏を確保し、生活を保つ。
おびただしい血を流しながら。
しかし、こんな状況に異を唱える者達がいる。
怪物といっても、元は人間。
それを殺すのはいかがなものか?
などという輩が大勢いる。
こういった者達は怪物を倒そうとする者の邪魔を始めた。
撃退したからいいだろと。
怪物には怪物の生活圏があるからと。
それを脅かさなければ良い。
人間と怪物で住み分けようと。
こういった戯言のせいで、被害がいつまでも絶える事がない。
撃退した怪物は勢力を盛り返して襲ってくる。
何度も何度も。
根絶やしにしない限りは。
その手伝いをしてるのが、怪物の殲滅を止めてる者達だ。
怪物保護主義とでもいおうか。
人間の安全が脅かされてるというのに。
怪物の存続を願って行動している。
人類の敵というしかない。
この人類の敵が駆逐されるようになるのに時間はかからなかった。
怪物の味方などもう人間ではない。
怪物の一種である。
これらは根絶やしにされていった。
もちろん、一応は人間である。
残っていた警察などがこれらを保護しようとした。
しかし、そんな警察も共に殲滅されていった。
怪物を保護する人間、それを守る者など人類の敵である。
警察を動かした役人・官僚も根絶やしにされた。
これらが警察に指示を出し、怪物の仲間を守らせたのだから。
指示を出す者としての責任がある。
当然、政治家にも矛先は突きつけられた。
役人・官僚を束ねなかったのだから。
また、諸悪の根源となった主義主張。
怪物を守れという考え方、思想や哲学というべきもの。
あるいは宗教だろうか。
生きとし生けるものは平等であるという考え方。
怪物の保護はこういったところからきている。
これらを主張している者達全てが根絶やしにされていった。
直接関与してないものとて例外ではない。
同じ考えを抱いていれば、いずれ同じ問題が発生する。
問題を再生産する温床になる。
そんなもの、放置できるわけがなかった。
かくて、怪物を守ろうとする者達全てが根絶やしにされていった。
人間の中に潜んでいた怪物。
そういうべき者達が。
ヒトシが根絶やしにしたのは、そんな連中である。
怪物に肩入れする連中が逃げ込んだ先。
粗末な集落。
その全てを根絶やしにした。
潜んでいた数百人の人間は誰一人生きていはいない。
こうする事で、ようやく平穏を取り戻す事が出来る。
なにせ、こういう連中が消えてからの怪物の脅威は格段に減った。
追い返し、追跡し、作っていた集落を殲滅する。
こうする事で、怪物が勢力を盛り返す事がなくなった。
不定期的に繰り返されてきた襲撃がなくなり、人々の生活は平穏を取り戻した。
脅威は排除する。
安全を確保するために必要な事だ。
怪物によって発生する脅威は、怪物を取り除かねば残り続ける。
無くすためには、怪物を消さねばならない。
これがようやく出来るようになった。
邪魔する人間を消す事で。
怪物に味方する者は怪物である。
たとえ人間でも、もう人間ではない。
怪物人間とでもいうべき、怪物側の存在だ。
共に消した方が安全を確保できる。
人間は決して平等ではない。
全て同じなどという事はない。
平和に生きる事が出来る者と。
争いをもたらす者がいる。
この場合、平和に生きる者が怪物を倒し。
争いをもたらす者が怪物を守る。
平和や平穏は争いを取り除かねば成り立たない。
騒動が起こってるところに平和や平穏はない。
騒動の原因を作ってる、守ってる者は全て争いをもたらす者である。
嘆かわしい事に、こんな連中が人間のふりをして生きている。
今も変わらず怪物を守るために活動をしている。
まずはこれらを根絶やしにしないと、怪物の殲滅が出来ない。
おかげで怪物退治に出向いてる者達は、まず人間の中にまぎれてる敵を倒す事になった。
その一つを潰滅させ、ヒトシは集落を出る。
粗末な建物が並ぶ貧しい隠れ里。
そこから遠ざかり、次の目的地へと向かう。
倒さねばならない敵はまだ多い。
数百人の集落を潰滅させたのは大きい。
だが、こういう連中はまだ他にもいる。
それらも倒しにいかねばならない。
それが怪物退治を専らとする者のつとめだった。
怪物の被害を減らすため。
怪物と怪物に与する者達を根絶やしにせねばならない。
生き残るために。
そんなヒトシが集落から立ち去って。
暫くしてから、数人の人間が出てきた。
集落の中に潜んでいた者達だ。
探知の超能力に抵抗できた者や、超能力を無効にする事が出来る者達だ。
そんな者達があちこちから出てくる。
そして、顔を見合わせると集落から脱出していく。
生き残るために。
あてはないが、この場に残ることも危険だ。
とにかくこの場から離れなければならない。
本能的にそう考えていった。
そんな彼らが集落から外に向かった瞬間。
全員に向けて銃弾が放たれた。
体のあちこちを貫いたそれらは、生き残りに致命傷を与えていった。
即死は免れたが、生き残る事は出来ない。
貫かれた傷を治す事が出来ないのだから。
「やっぱりいたか」
潜んでいたヒトシが銃を構えながら距離をつめていく。
超能力による探知。
それに反応はなかった。
だが、もしかしたらどこかに潜んでるかもしれない。
だから集落の外で待っていた。
その際に、視力や聴力を強化しておいた。
レーダーのような探知にひっかからないとしてもだ。
それは精神や気の力を撥ねのけただけの可能性がある。
姿を消したり、足音などを完全に消せるわけではない。
だから、五感を強化しての見張りをしていった。
これならば、動いてる者がいれば見つける事が出来る。
おかげで生き残りを見つける事が出来た。
用心したかいがあるというもの。
家に火を付ける事も考えたが、手間がかかってしまう。
それに、林の中に作られてるので、延焼が怖い。
山火事になったらめもあてられない。
集落の潰滅のためなら、それも覚悟しなければならない時もあるが。
できればこういった事は避けたかった。
そういった事は、これから来る後処理の者達に任せれば良い。
先行隊であるヒトシの仕事は、現地の調査と、可能であれば敵の殲滅だ。
集落の本格的な調査と処分は、数十人で編成される後処理の部隊が担うもの。
ヒトシの役割ではない。
「────というわけで、こっちは終わった」
「了解、あと30分で到着出来る。
それまで警戒を頼む」
連絡をいれて、一息吐く。
急いで他の場所に向かいたいが、そうもいかない。
後処理の本隊が到着するまで警戒は必要だ。
まだ敵が集落に残ってるかもしれないのだから。
合流するまでは、この場で警戒していなければならない。
「面倒だな」
ぼやきながらヒトシは集落に目を向ける。
まだ誰かが潜んでるかもしれない。
見つけ次第に処分する為に。
幸い、そんな面倒な事は発生せず。
あとからやってきた本隊と合流。
後処理を任せてヒトシは別の方面へと向かった。
まだまだ倒さなければならない怪物人間は多い。
だいぶ数を減らしたが、まだヒトシがお役御免になるのは先の事だ。
こんな事せずに怪物を倒していきたいのだが。
その為にも、邪魔になる者達をまずは根絶やしにせねばならない。
急がば回れである。
それでも、
「面倒だ」
無駄な事を強いられてるのは変わらない。
もんくの一つも出るというもの。
そんなヒトシと、同じような作業をしてる者達の苦労が報われるのは数年後。
ようやく人は怪物退治専念出来るようになる。
人であって人でなしから解放され、ヒトシ達怪物対峙に専念してる者達は心から歓声を上げた。
なお、敵への慰霊を企てる者もいた。
敵であっても人だからと。
そういった連中は容赦なく殲滅させられていった。
怪物に与する者として。
当たり前である。
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【よぎそーとのネグラ 】
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