5 レベル上限
「あーあ」
落胆の声が漏れる。
レベルが上がった直後だというのに。
だが、その理由を知ればそれも納得だろう。
「これで終わりか」
レベルが最大値になったのだから。
レベル。
人の能力の段階をあらわす数値だ。
これが上がると体力や知力、気力といった能力が上がる。
場合によっては、技術や知識、魔術に超能力といったものを身につける事もある。
なのだが、これにも限界がある。
レベルの上限と呼ばれる。
通常、レベルの上限は100前後になる。
人によって低かったり高かったりするが、この数値から大きく変わる事は無い。
ただ、世の中には例外もいる。
今ここでため息をついてる者がそうだ。
「なんでまあ……」
嘆きながら能力一覧を見る。
頭の中、思考として浮かび上がる自分の状態。
その数値を見てため息をこぼし続ける。
平凡な能力値と平凡な知識・技術。
それらの一番上に表示されてるレベル。
そこにはこう書かれている。
『レベル 10/10』
残酷な事実だ。
彼には一般的な人間の一割程度のレベルが最大値なのだ。
当然、これ以上の能力値の上昇はない。
新たに憶える知識や技術、魔術に超能力などもない。
ならば、これらが一般的なレベル10よりも高ければ。
一般的なレベル10よりも貴重で希少な知識や技術を得ているならば。
それならばレベルの低さも納得出来るだろう。
なのだが、そんな事もない。
能力値はごく一般的なレベル10のもの。
知識や技術などもごくごく平凡なもの。
便利ではあるが、特段珍しいものでもない。
「最後の最後に何かあればと思ったけど」
レベルが限界になった時に、何か特典として能力が急上昇したり。
素晴らしい効果のある知識や技術などが手に入ったり。
そんな事が起こればとも思ったが。
もちろんそんな事もなく。
ごく普通にレベルが上がり。
ごく普通に能力が上昇し。
ごく普通の知識や技術が手に入った。
これで『以上、終了』である。
「こんなの、あるかよ……」
嘆きたくなるのも当然だろう。
なにせ、ここで成長は終わりなのだから。
極限にまで達した。
これ以上はない。
────はずだった。
レベルの上限に到達する者は少ない。
人生の全てを費やしても到達できない者の方が多い。
そこまでたどり着ける者は、100年に一人いるかどうかである。
レベルが上がりやすい状況ならばもう少し多くなるが、それでも一時代に数十人から数百人がせいぜい。
その先がある事に気付く者などほとんどいなかった。
しかし、今ここに限界に到達した者がいる。
レベル上限が低いという理由だ。
確かに能力値は低い。
知識や技術も大したものではない。
しかし、限界に到達した。
最大値に成り上がった。
これも揺るがない事実である。
レベルとは能力の段階を示す。
言い換えると、人として、生命体としてどの暗いまで霊魂を満たしたかという数値である。
条件をどの程度満たしているか、という事でもある。
レベルの最大値が100として。
レベル60なら60パーセント。
レベル80なら80パーセント。
そこまで霊魂が成熟した事を意味している。
ならば、レベル上限が10の者がレベル10になったら?
霊魂の成熟度は100パーセントになったという事になる。
卵を想像すればよい。
人を含めた生命体は卵のようなものだ。
肉体という殻をもち、その中に黄身や白身のような霊魂がある。
この霊魂が肉体の中で成熟し、新たな存在として生まれる事になる。
虫のサナギと言っても良い。
何にせよ、今までの自分から更に上位の何かに進化する。
これは変わらない。
レベル上限の低いこの男はそこに到達した。
最低限にして必要不可欠な条件を揃える事が出来た。
あとはゆっくりと霊魂が孵るのを待つだけだ。
その為に男は眠りにつく。
全ての意識が遮断され、体も最低限の生命活動だけにしぼられる。
エネルギーを全て進化に使うために。
ただ、ここを超える事が出来る者は少ない。
霊魂が孵化して新たな段階にうつる。
この為にそれなりの時間が必要になる。
それまで肉体に残ったエネルギーで生命をギリギリまで保たねばならない。
しかしここを乗りこえる事が出来た者は少ない。
それまでにエネルギーがもたず、衰弱して死亡するからだ。
これまでレベル限界に至っても、霊魂の進化を成し遂げた者が少ないのはこれが理由である。
それに、レベルを限界まで上げた者は、たいていが老境に入ってる者ばかりだった。
霊魂はともかく、肉体は限界になってる場合がほとんどである。
新たな存在になるまで肉体がもたない事が多かった。
ようするに、寿命が尽きてしまうのだ。
しかし、この男は違う。
レベル限界が低かったせいで、若くして霊魂の成熟を迎えた。
肉体もまだ若い。
そして、成熟に必要な時間も少ない。
レベルの上限が高いと、霊魂の成熟に必要な時間も長くなる。
霊魂そのものが大きく巨大になってるからだ。
だが、男の限界はレベル10。
その分、霊魂としての大きさなどはたいしたものではない。
だから成熟にかかる時間も少なくて済む。
その短い成熟期間を経て、男は目覚めていく。
姿形は大きく変わる事はない。
だが、その中身は大きく変わっている。
肉体の限界である寿命がなくなった。
広く浅くといったものだが、様々な知識や技術、魔術に超能力が使える。
なにより、レベルの上限が消えた。
今の男のレベルは次のようになっている。
『 レベル 10/無限大 』
望めばどこまでも自分を高めていける。
それをすぐさま知り、男は大きく息を吐いた。
「……すげえ」
無かったと思っていた可能性。
その感動をあらわす言葉はこれしか出てこなかった。
男は歩き出す。
自分が手にした可能性を確かめるために。
どこまで行けるのか、何が手に入るのかは分からないが。
だが、人が、生命体がどこまでいけるのか。
それを探るために動きだす。
新たな冒険の始まりである。
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【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457