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4 怪物の発生

「……」

 無言で目の前の現象を眺めていく。

 人間が怪物になっていく所を。

 響きを感じてやってきたら、案の定だった。



 こうなったらどうしようもない。

 怪物になるのを防ぐ方法はない。

 まだ完全に怪物になる前に処分するのが一番だ。

 完全に怪物に変化したら、対処が面倒になる。

 なにせ人間を超越した能力を持つのだから。



 人が怪物になる。

 変化と呼ばれるこの現象により、人類の大半が人間をやめた。

 残った者達は寄り集まって怪物に対処するようになっている。

 とはいえ、それもまた問題を大きくさせているのだが。



 怪物は人間から発生する。

 例外もあるが、たいてい人間が変化する。

 そんな人間があつまってるのだ。

 怪物が発生したら場合の被害はとてつもなく大きくなる。

 理想をいえば、出来るだけ離れて暮らすのが一番良い。



 ただ、それが出来ないのが人間だ。

 群れたがる習性がこういう時に頭をもたげる。

 つまり、「危ないから集まって行動しよう」と。

 弱者の生存方法である。

 それが危険に繋がるのだが。

 そうと分かっていても集まるのが救いがない。



 少し頭を使えばわかりそうだが。

 不思議な事に、頭を使う者ほどこういう危険方向に向かってしまう。

 むしろ、直観的・本能的に行動する者の方が安全な方策を立てている。

 自然と身を守る行動をとっている。



「不思議なもんだ」

 呟きながら、怪物化してる者達へと向かう。

 頭を使って危険な方向へと進み。

 今、こうしてその結果を出している。

 群れて集まって出来た都市。

 そこに立て籠もった者達の中で発生した怪物化。

 当然、周辺に大きな損害をもたらしている。



 怪物への変化は共振によって起こる。

 気力やオーラと呼ばれる存在。

 物質とも言いがたいこれらの運動。

 波のようにうねる気力・オーラが人や物に響いていく。

 これに同調する事で怪物への変化が始まる。



 この時、周囲に人間が多ければ多いほど怪物になる者は増える。

 誰か一人でも気力やオーラの響きに反応してしまえばだ。

 そこを中心に周囲の人間にも影響が出る。

 音叉が響き合っていくように。



 おかげで変化が発生した地域は壊滅している。

 最初の一人が怪物になり、その周囲にいる別の者がつられて怪物になり。

 そうして連鎖した結果、大量の怪物が発生。

 人間のままだった者達は襲われ、既に死体になってる。



「そうなると分かってるだろうに」

 怪物が発生したらどうなるか。

 そんな事は既に多くの人々が知るところだ。

 聡い者は出来るだけ一人で生きていこうとする。

 その方が被害にあう可能性が減るからだ。



 なのに、それを阻む者達がいる。

 一人は危ないと。

 どうにかして群れに引き込もうとする者がいる。

 そうして発生する同調圧力が被害を拡大する。

 その結果が怪物の大量発生と、巻き込まれて死滅する周囲の人間になる。



 こうなると、安全のためというのが嘘だという事になる。

 むしろ、被害を拡大させるためにやってる。

 集団生活の強制は、もはや他の誰かを道連れにするためでしかない。

 これを求める者は破滅願望の持ち主とみなされるようになっていた。



 それでも、そんな人間に従い、まとまって暮らす者達もいる。

 そういった者達のなれの果てが、今ここにある。

 最初の一人の怪物化。

 連鎖して周囲の人間も怪物になり。

 そうならなかった人間達に襲いかかる。



 そんな怪物の大量発生を察知してやってきて。

 大半の怪物を処分した。

 あとは、残ってるものの掃討。

 怪物になりかかってるものを片付けていく。



 連鎖的な変化は怪物を倒せばひとまず終わる。

 なので、怪物は残らず処分しなければならない。

 なりかかってる者もだ。



 一度怪物になったら元にもどる事はない。

 処分しない限り、今後も怪物としての影響力を放ち続ける。

 延々と怪物が発生する可能性が残る。

 そんなものを生かしておくわけにはいかない。



 その為に、怪物退治に来た男は最後の処理を続けていた。

 怪物になりきってない者を見つけてとどめを刺していた。

 まだ人間としての部分を残した連中を。



 それを残酷残虐と罵る者もいる。

 怪物ではないなら、殺すのは駄目だと。

 馬鹿げた戯言だ。

 怪物になったら人間を超越した強さを発揮するというのに。

 そうなったら処分するのも面倒になる。

 まだ怪物になってない内に殺すのが一番手間がかからない。



 どのみち、怪物から人間に戻る事はない。

 なら、怪物になりかかってる者も怪物の一種だ。

 楽に片付けられるうちに倒すのが道理である。

 それを理屈にもなってない理由をつけて処分をさせない。

 そんな人間は怪物の味方だ。

 こういう人間はまとめて処分するしかない。



 実際、まとまって暮らそうなどというのはこうした者達だ。

 どこまでも被害を拡大させようとする。

 どこまでも手間を増大させようとする。

 生かしておく理由がない。

 早めに見つけて処分するべきものだ。



 それらもまとめて片付けて。

 今、この都市に残った最後の怪物の所までやってきてる。

 これで最後のはず。

 他に共鳴してる者がいなければ。



「じゃあな」

 怪物にとどめを刺す。

 まだ人間の姿を留めていたそれは、急所を貫かれて死んだ。

 それと共に、共鳴が止まる。

 発振源がなければ変化は起こらない。

 自然に発生する響きは止めようがないにしても。

 明確に原因となる怪物がいないなら、その分だけ変化が発生する可能性は下がる。

 今、この場における問題はこれで片付いた。



 今回起こった問題を終わらせて都市を出る。

 都市は一部に潰滅的な損害を受けた。

 立ち直るのは不可能だろう。

 これが今回だけならどうにかなったかもしれないが。

 今まで何度も怪物を大量発生させている。

 その影響を免れるわけがない。

 積み重なった損害は都市全体の5割に及ぶ。

 これを元に戻すにはかなりの年月がかかる。

 今の人類にそれだけの支出が出来るわけもない。



 人の流出もある。

 危険な都市から逃げだす者は多い。

 特に大きな事件が起こった直後はなおさらだ。

 あらためて集団生活の危険性を悟り、都市から逃げだす者は多くなる。

 今回の事件もそうした動きを加速させていく。



 怪物を倒した男にとってはありがたい事だ。

 怪物への変化を誘発する都市。

 そんなもの、都市の外で暮らす男には邪魔でしかない。

 怪物が大量発生する度に片付けに出向かねばならないのだから。



 なにも善意によるものではない。

 怪物が連鎖的に大量発生したら後始末が面倒なだけだ。

 都市で発生した怪物は、やがて外に出てくる事になる。

 そうなったら、男のところにも押しよせてくる。

 そうなる前に、出来るだけ早い段階で片付けておきたい。

 その為にわざわざ都市まで遠征してきていた。



 だから怪物を倒せばやる事は終わる。

 被害を受けた都市の事など放置して帰って行く。

 人や物の損害など男にはどうでも良い事だ。

 そうなる原因を作ってる都市の人間が処理するべき事なのだから。

 男のように、周辺に住んでる者達がどうにかするべき事ではない。



 怪物への変化。

 それをもたらす共鳴。

 これが発生してる間は人々が寄り集まるべきではない。

 どうしてもやりたかれば、男のような人間に限る必要がある。

 共鳴しない人間だけで。

 そうでない者が一緒にいても災害をもたらすだけだ。



 なのに、寄り集まって生活しようとするのは怪物に対処できない者だけ。

 問題を片付ける能力をもった者は、自ら危険から遠ざかる。

 ままならないものである。



 気力やオーラの波。

 これらが放つ響き。

 大半の人間はなんらかの影響を受ける。

 しかし、例外もいる。

 響きを受け付けない者達が。



 そういった者達は怪物同様に超常的な力を使う。

 超能力や魔術といった能力を持ち、人間を超えた怪物と戦える。

 だが、あえて危険に飛び込む者はいない。

 対抗できる力をもっていても、確実に倒せるとは限らない。

 怪物が危険で強力な事は変わらない。

 そんなものと好んで戦おうという者は極めて少ない。

 誰だって自分の命と安全が大事なのだから。



 力をもってるのに、とわけのわからない義務を押しつけられるのも原因だ。

 勝手に義務を押しつけてくる奴らの事を省みる者はない。

 そんな者達はたいていその場で殺されていく。

 脅迫の報復として。

 都市が一つ消えた事もある。



 それでも多くの者達は寄り集まって暮らし。

 自分で危険地帯を作っていく。

 そんな連中の自業自得に付き合いたいという者はいない。

 距離をとって普段の接点を断ち切るのが最大の妥協だ。

 怪物が発生する前に殲滅されるよりはマシなのだから。



 そんな自業自得の問題を片付けさせられ。

 男は不機嫌な気分で都市をあとにした。

 どうせまた何かが起こって駆け付ける事になると思いながらも。

 それでも住民を皆殺しにしないだけの温情はまだある。

 それが尽きるまでは好きにさせておくつもりだった。



「早く死ねよ」

 そうは思うにしてもだ。

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