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1 目に見える景色

「え?」

 自分の中で何かが響いた。

 その感覚をおぼえた瞬間、目にうつる景色が変わった。



 特に何の変哲もない日だった。

 いつものように職場に行き、いつものように仕事をする。

 低賃金・長時間労働という苦行をこなす。

 そんな最悪のいつも通りの一コマ。



 そんな中で、底辺労働者の男に変化が訪れた。

 あまりにも唐突に。

 突如の出来事に男は戸惑いをおぼえた。



 それもそうだろう。

 見慣れ過ぎて普通になった職場。

 そこに唐突に波紋状の何か溢れていってるのだ。

 ついに自分もおかしくなったかと思った。



 きつい職場である。

 セクハラ・パワハラ・モラハラ当たり前の上司・同僚・後輩だらけだ。

 そんな中で精神に変調をきたす者はいくらでも出てくる。

 実際、男の同僚で気がおかしくなって消えていった者達はいくらでもいる。

 男が今の今まで何とか仕事をこなしてるのが奇跡だ。

 それが20年も続いてるのだから奇跡だろう。



(でも……)

 そんな自分もついに、と男は思った。

 見えないものが見えるようになってしまったのかと思ってしまった。

 そう思えるくらいに目に映る景色は異様で異常だった。



 目にうつる壁や棚、作業員。

 それらから何かが放たれている。

 水にいれた音叉から波紋がひろがるように。

 そんな波紋のようなものがそこかしこから放たれている。

 天井・壁・床に棚。

 置かれた物や作業する者達。

 それらから様々な波紋が放たれている。



 人や物だけではない。

 何もない空間からも波紋が生まれている。

 あるいは、何もない空中に水のように波紋が流れていく。



 そんな波紋がぶつかり、打ち消しあっていく。

 あるいは同調して混ざり合い、あらたな波紋を生み出していく。

 それが目に映るようになった。



 見えるだけではない。

 耳にも聞こえる。

 波紋がさざ波のように。

 あるいはそよ風のように。

 男の耳に届いてくる。



 もっとも、この場で発生する音は心地よいものではない。

 よどんだ濁流のような。

 雑音のような。

 金切り声のような。

 不快感極まる醜悪なものだ。



 更には肌にまとわりつく空気も変わっていく。

 よどんで巻き付くように。

 体をおさえつける重圧のように。

 男にのしかかるような空気。

 まるで拘束のような戒めのように男に絡みついてくる。



 更には臭いとして鼻を突き刺してくる。

 それは臭みという方が正しいだろう。

 腐敗臭や焼き焦げのような。

 それだけで吐き気を催しそうになる。



 まとめるなら雰囲気とでもなるだろうか。

 目に見える形としては波紋として映る何か。

 それが男の体を蝕んでいく。



 響き。

 あえて表現するならそうなるだろう。

 体に、頭に、心に響いてくる。

 音として耳に届くだけではない。

 それこそ魂に振動が直接ぶつかってくる。

 そんな感覚をおぼえる。



 そういって良いなら波動ともいうのだろう。

 結果として音にもなるかもしれない蠢き。

 それが男に襲いかかってきた。



(駄目だな)

 異様な風景を見て、男は自分が狂ったと考えた。

 目に見えるだけではなく、五感の全てで感じ取るほどに異様な何かを感じ取ってるのだから。

 あるいは、観じると言うべきか。

 目ではなく、心で観る。

 そんな感覚に男は己の正気をまず疑った。



 そうでない、これで正常なのだと思うのは、これから少しばかり時間が経った頃。

 それまで男は自分をまずは疑った。

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