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星降る大樹の少女と魔法使い  作者: 畑根蓮
第3層 夜空へ落ちる
33/45

想い出の箱③

 初日は早めに切り上げて町へと帰ることにした。

 お互いにまだ余裕はあったけど、少し間が相手からの探索だったのと、新しい場所ということもあって無理はしないように、ということで。

 集めた戦利品を行商人さんのところで売ると、銀貨で20枚ほどになった。今までの倍以上の収入。戦闘も無理せず早めに帰ってきてこれだけ稼げるとは思ってもみなかった。もちろん、今日がたまたま運が良かっただけかもしれないけど。

 メルティエさんが、「これだけ稼げるならお休みの日を増やすのも……。」なんて言い出したので、私達の目的はあくまで光枝を見つけることだと、改めて釘を差しておいた。

 たくさん入ったお金の一部を使い、市場でお肉や野菜を二人で抱えるくらいに買ってみた。たくさんお金が入った記念に、ソミアさんにこれでご馳走ちそうを作ってもらおうかなって。

 宿に帰ると、思ったよりも早く帰って来た私達と、運び込んだ食材に驚くソミアさん。早速、料理に取り掛かってもらう。

 私もメルティエさんも手伝って。始めは、お客さんなんだから、と止められたけど、メルティエさんが押し切って。私は切ったり焼いたりとかはできないので、井戸から水を汲んだり、食器を並べたり、使い終わった調理器具を洗ったり。

 ソミアさんとメルティエさんが手際よく作業を進めるのを横から見ながら。

 ……今度、料理を教えてもらおうかな。

 簡単なものでいいから、作れるようになって、それでメルティエさんに……。

 もちろん、皆に食べてもらいたいけど、最初はメルティエさんがいい。自分でもどんなこだわりなのって首を傾げてしまうけど、そこは譲れない気がした。

 そんな感じで1日、そしてまた1日が過ぎていく。

 探索が始まったら、もっと何かに追われるような気持ちになるのかな、と思っていた。けれど、実際はゆるゆるとした時間が過ぎていく。もちろん、探索をサボっているわけではないし、地図も1日、また1日と紙を埋めていく。

 そして、3日頑張ったらお休み。メルティエさんが、お休みを糧に頑張る!って言っていた。私はそれを諫めたのだけど、気が付けば私もメルティエさんと同じ気持ちになっていた。

 お休みの前日は、明日は何をしようかな、なんて考えてばっかりで、早く引き返す時間にならないかなって、無意識にメルティエさんがぶら下げるタイムムーンをこまめに確認してしまっている。

 そんな私にメルティエさんが、気が付かないわけでもなく、「早く帰りたい?」なんて悪戯っぽく聞かれたりして。私から、きちんと光枝も探さないと、って言い出した手前、帰りたいです、なんて言えるはずもなく、そっぽを向いてはぐらかして。

 でも、きっとバレてたよね。絶対に。

 肝心の光枝は見つかる気配も無いけど、今のこの感じがこのまま続くのかな、なんて思ったら少し安心もした。

 お金の心配も無くなって、毎日おいしいものが食べることがてきて。お休みの日にはメルティエさんと町を見て回って買い物をして。

 同じような事の繰り返しのはずなのに、メルティエさんと一緒だと見え方が毎日少しずつ違う気がするし、刺激的だったりもするし。

 お休みのお昼に、人前で、あ〜ん、させられるのはさすがに刺激が強すぎるのでやめて欲しいのだけど……。

 それも空っぽだった記憶の箱にしまわれていく。他の嬉しいことも、ちょっとだけ怒ったことも、驚いたことも、退屈なことも。その全てが真っ白だった箱の中を色づかせていく。

 ……これが幸せ、なのかな?

 これまでも自分は運が良かったな、幸せだな、って思う瞬間はあったけど。それが一瞬で終わるんじゃなくて、今の私までずっと続いていて、これからもきっと続くんだろうって。

 いや、続いて欲しいって思っているだけ、なのかな。

 願望が現実と交差して、どっちが現実なのか分からなくなっているだけなのかも。

 ……このままでいいのかな。

 ふと、冷静になるとそう考えてしまう私が居なくなったわけではない。

 でも、今はそれも心の底にしまっておいて、メルティエさんとの時間に浸って、大事にして。

 できるのなら、このままずっと。

 メルティエさんと二人で。

 ふたりなら、私も前を向いて歩き続けられると思うから。

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