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星降る大樹の少女と魔法使い  作者: 畑根蓮
第1層 暗き根の先に
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大切な人のために……。④

 行く先々で現れるブラックヴァイン。この迷宮にはコレしかいないのかと思うくらいに黒いツタのモンスターしか出てこない。

 おかげで苦戦はしないけれど、一戦ごとに魔力を使い果たしてはメルティエさんのお世話になってしまう。申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、メルティエさんはそんな私を嫌な顔ひとつせずに迎えて、包んで、魔力を分けてくれて。

 戦っては魔力を分けてもらって、を繰り返しながら、今日は引き返す時間になってしまった。

 迷宮を抜けると、すでに空は真っ赤に染まっていた。

 宿に帰る前に、迷宮で集めてきたものを大通りの行商人さんの所へ売りに行く。私もそこまで一緒についていくつもりだったけど、「ここで待っててっ。」と強く念を押されてしまったので、宿に続く小道の角からメルティエさんが行商人さんと交渉しているのを眺めていた。

 メルティエさんのポーチの中には、ブラックヴァインを大小含めて10体ほど倒した戦利品と、道端でメルティエさんが採取した素材が入っている。それを鑑定台の上に広げて行商人さんと話していると。

 ……少し、メルティエさんの表情の雲行きが怪しい。

 気のせい、かな?

 そう言うには少し、あからさまのようにも思えて。

 やがてメルティエさんがパタパタと私のもとへとやってきて。


「フィルカちゃん、お待たせっ!」

「ありがとうございます。……行商人さんとなにかあったんですか?」


 単刀直入に聞いてみる。

 メルティエさんは、あ〜……、と少し考えたようにしてから。


「最近は迷宮の素材も潜る人がいなくなってるから助かっているよって。そう言われただけ。」


 声はいつものを装ってはいる。けど、明らかに何かをはぐらかしている。

 少なくとも、私にはそう見えた。だけど、必要以上にメルティエさんのことを疑いたくもなくて、メルティエさんがそう言うのであれば、そういうことにしておく。


「そうだったんですね。行商人さんも喜んでくれたでしょうか。」

「うんっ。とっても!ささ、今日は1日目で疲れちゃったでしょ?早く宿に戻ってお風呂とご飯にしよっ!」


 行商人さんと話していた時に見えた表情の名残も無く、靴底で石畳を軽快に鳴らして宿へと向かうメルティエさんの少し後ろをついて行った。

 宿に戻るとまず、お風呂。メルティエさんが先に入る。一緒に入ろうと言われたけど、さすがにそこは一人ずつ入ろうと死守して。しぶしぶ一人で脱衣所に消えて行ったメルティエさんを見送る。私は部屋に戻ってベッドに腰を掛け、窓から見える湖の静かな水面をぼんやりと眺めて待つことにした。

 このままでいいのかな……。

 それは、探索中のこと。私がすぐ魔力切れを起こしてしまうから、あまり探索が進まないんじゃないかな、なんて思ったりして。1日目だし仕方がないよ、ってメルティエさんは言ってくれたけど。

 このままじゃ良くない気がする……。

 早く探索にも、戦うのにも慣れていかないと。メルティエさんの邪魔をするわけにはいかない。

 メルティエさんにきちんと恩返しがしたい。私を拾ってくれて、それだけじゃなくて、生活ができるように手伝ってもらっているんだから。

 そう、自分に言い聞かせて気合を入れな直す。

 けれど、さっきの町中での出来事を思い出して、また、しゅんっ、と気持ちが右肩下がりになってしまう。

 明らかに、私に隠し事をしているように見えたメルティエさん。

 ……そんなに私に言いづらいことがあったのかな。

 まだ出会って間もない私達。なんでもかんでも話すような間柄あいだがらにはなっていない。それは分かっているけど、どうしても心に引っかかってしまう。

 いずれ、時期が来たら話してくれるようになるのかな。

 きっと、そう。そう思っておくことにしよう。とりあえず、今日を無事終えられて、明日からも私が頑張らないといけないことがたくさんあるから。まずはそのことだけを考えて。メルティエさんのために。

 ……一人きりだと、あまり良くないことばかり考えてしまう。

 メルティエさん、早く戻って来てくれないかな。

 今の灰色がかった思考をその明るさで全て吹き飛ばして欲しい。

 他力本願な私が、しばらく湖を見つめて無為に時間を過ごしていると、階段をパタパタと駆け上がってくる足音が聞こえた。次第に大きくなる足音が部屋の前で止まり、扉が開く。


「フィルカちゃん!お次どうぞっ!」

「はい。ありがとうございます。」


 メルティエさんの明るい声を聞いたら少しだけ気持ちが楽になった。

 ……私って、意外と単純。

 そんな自分に気が付きながら、メルティエさんから借りているパジャマとバスタオルを小脇に抱えてから立ち上がり、部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時。


「あの、メルティエさん。」

「うん?なあに?」


 振り返るとメルティエさんのまるっとした大きな黒い瞳と目が合った。

 どうしてメルティエさんに声をかけたのか。私自身、よく分かっていなかった。

 なにか聞こうとしたから?

 だけど、今、メルティエさんに聞いても……。


「フィルカちゃん?」


 不思議そうに首を傾げたメルティさん。


「あ、いえ……。その、私がお風呂から上がってくる前にご飯ができたら先に食べていて構いませんので。」


 取り繕ったそれっぽい言葉に、ぶんぶんっ、と大きく横に首を振って否を突きつけたメルティエさん。


「だ〜めっ!ソミアさんは二人のためにって作ってくれてるんだから、二人で一緒に食べるのっ。あたしはフィルカちゃんと一緒に食べたいし。それに、フィルカちゃん、朝ごはんはあたしが起きるまで待っててくれたでしょ?だから、あたしも待ってるよっ!あっ、でもでも、お風呂、そんなに急がなくていいからね?ゆっくり入って疲れを取ってきてねっ。」


 きらきらとした笑顔をくれたメルティエさん。

 ……メルティエさんがそう言うのであれば。


「分かりました。」


 そううなずいて部屋を後にした私は、少しだけ早めにお風呂を済ませてしまおう、と思った。

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