2話:現実
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いつもどおりの朝、6時に目が覚めた。早く朝ご飯を作らなればならないという恐怖を振り払い、台所へと向かう。台所に行く途中に洗面所の中から声をかけられた。
「遅えよ穀潰し! さっさと朝飯作れ」
「……はい、すみません」
「……ッチ」
自分のほうが早く起きてきたのに俺に向かって朝飯を作れと言ってくる女性は、新堂 凛さん、俺の一応母親代わりの人だ。
俺の本当の両親は7歳の頃に交通事故に俺と一緒に巻き込まれ亡くなったらしいが、俺は7歳より前の記憶がない。そんな子供だった俺は親戚一堂にたらい回しにされ最終的に嫌嫌ながらに引き取ってくれたのが母親の姉に当る凛さんだった。正直感謝していない。
因みに去年還暦を迎えたが、20代にしか見えない。見ている限り能力のおかげだろう。早く寿命迎えないかな……
「すぐに朝飯作らなかったら昨日と同じことするからな!」
「……はい」
凛さんにこう言われたのなら早く作らないとまたアレをやられる。それを考え背筋が凍る思いをしてながら俺は台所に立つ。
朝ご飯を一人前作り終えた俺は皿に盛り付け机に置き凛さんを呼ぼうかと思った。が、顔を洗っていないことを思い出した。顔を洗うために洗面所に行こうとしたが台所でもいい気がしてきた。
顔を洗い終えた俺はシンクの反射で自身を見る。そこにはいつも通りの体が小さく栄養の足りてなさそうな髪の白い男が写っている。今日の朝ご飯もいつも通り残飯になるのかな……なるだろうな。
「飯はまだか!!」
「……今できました」
朝食について悩んでいるとドカドカと大きな足音を立てながら、凛さんが机に近づいてくる。
「……またこの飯かよ! 新しい料理作れねえのかよ!」
……この人は何を言っているんだ? 作るだけありがたいと思え! こっちは家でまともな飯食べれないんだぞ! ……なんてことを言えたら良いのだが俺は後のことを考えてしまう小心者だから言うことができない。
「すみません、明日には作ります」
一言声をかけて部屋に戻ろうとするが「おい」と呼び止められてしまった。
「お前、明日から十六歳だったよな?」
「はい」
「ということはアルバイトできるよな?」
「……はい」
どうやら明日からアルバイトに行かなくてはならないようだ。だが、今までアルバイトなどしたことがないし、どこに行けば良いというのだろうか。
「……すみません、アルバイトとはどこに行けばいいのでしょうか」
「あぁ? そんなの自分で探せよ。明日から一日に5000円以上持ってこいよ。持って帰って来なかったらア
レするからな」
「…………はい」
そろそろ家を出ないと学校に間に合わないんだよな。でもこれ言ったら怒られるだろうな。いや、昔の遅れても点数が引かれるだけの学校じゃないから行けるか?
2000年代の高校とは違い高校まで義務教育になっているし、そのへんの法律も変わって遅れたり問題行動などで罰金が課される様になっている。
「……すみません、そろそろ家を出ないと学校に間に合わないので準備をしてもよろしいでしょうか?」
「……勝手にしろ」
よし、これで鬱陶しい凛さんの話をスキップできた。早く準備をして学校に行こう。
そう考えながら部屋に戻り、関節部が擦り切れ汚れている制服に着替え、カバンに水に濡れたあとや汚れが目つグチャグチャの紙切れを入れ玄関に行く。靴を履き、行ってきますとは言わずに無言で戸を開ける。朝の忌々しくも気持ちの良い風が頬を撫でる。ああ早く終わらないかな。
そう思いながら学校に走っていくと何事にも巻き込まれることなく学校についた。
「よう、落ちこぼれ」
下駄箱で靴を脱いでいると唐突に声をかけられた。
「……」
「何だまた無視か? 返事の一つぐらいしてみたらどうだ? ん?」
何か、男がほざいているが無視でいいだろう。めんどくさいな早く終わらないかな。
「おい、舐めてんじゃねぇぞ」
「……」
「いい加減喋れつってんだよ!」
男がキレて掴みかかってくる。避けても能力で追撃されるだけだしな、ここは避けずにいよう。でも男の能力が身体強化系だったらどうしよう。まあ、その時は怪我しないように祈っとこう。
男に肩を掴まれ下駄箱に投げ飛ばされる。……良かった身体強化系じゃない。
「おい、返事をしろ」
「……お、おはよう」
「……チッ」
男は満足したのか階段に体を向け進んでいく。……やっと1つ終わった。今日はやけに舌打ちされるな。
地面に落としていたカバンを拾い俺も教室に向かう。
……めんどくさいことに巻き込まれなければいいが。
教室に着くと皆が道を開け静かになる。そりゃそうだ、誰が好き好んで落ちこぼれに近づくのか。窓際の机まで着くと再び騒がしくなり始める。ここまで来たのならあとは授業が始まるまで寝ていればいい。あ〜今日も窓から見える海には白波が立っているな〜
何時間たっただろう、授業は終わりもう放課後だこれまで話しかけてきたやつは朝の男しかいない。もちろん先生も話しかけやしない。理由は単純、俺が落ちこぼれ……無能力だからだ。
今は能力者が見つかってから200年がたった今の時代で無能力なのは俺一人。もう一周回って珍しい。
そもそも能力とは200年前のエベレストに登り、遭難した登山家がエベレストの洞窟で産んだ子供から始まった。その子の能力は火を起こす、温度を上げる等色々な考察がなされているが未だにわかっていない。まあそれだけ謎が多いってことだ。今では能力とは現実改変の装置のようなものだと考えられている。
そして他の人も能力を発現することがわかった。その方法は至って単純で、能力者に会いその後子供を作ると子供が能力を発現する。このことから能力はウイルスのような性質を持つことがわかった。
しかし、ここで科学者たちは疑問を持った。1つ能力を持って体に害はないのか、2つ能力は無限に使えるのか、3つ能力はどこに宿るのか。
結論から言うと、1つ目の答えは少しある。だが、その害というのは2つ目、3つ目と関わって来るから後回しにする。2つ目の答えは使えない。これも3つ目と関わって来るから後回しにする。3つ目の答えは細胞だ。細胞1つ1つに能力の素が宿る。だが、細胞1つ1つに違う能力が宿っているか言われればそうではない。1人につき1つから2つ宿る。
そして1つ目と2つ目の害と理由について、まず害というのは細胞の数を能力の素の数が超えると起こる。これは、能力の素の器の数が足りなくなって能力の素が器を無理やり作るため現実改変を起こし宿主の体を変質させる。例えば角が生えたり、指が増えたりする。その能力によって体を変質させられた人のことを魔人という。2つ目の理由は能力を使用するときに能力の素を消費しているからである。一つの能力の素でできる現実改変は精々細胞1個分である。
これらのことがわかっているが裏に返せばこれだけしかわかっていないということである。200年のたったのに。能力の内容は遺伝なのかまた別の要素があるのかだとか、なぜ細胞の数しか存在しないのかだとか色々ある。
……話が脱線した。まあ、そんな事をいくらほざいても俺の能力が使えないことに変わりはない。凛さんの話では俺の両親は能力が使えていたらしい。
で、ここまで長々話して結局何が言いたいのかというと、人生に見切りをつけたってこと。だって〜 俺の人生ってさ〜 他の人とだいぶ違うじゃん? 立場的にかなりつらいわけ。ならリタイアするほうが来世に期待できるじゃん。
てことで、俺は誰もいない教室から海に向かって飛び立つぜ! おっと、止めても無駄だぜ、なんてったって入学したときから決めていたからな!
……はぁ、俺は誰に話しかけているんだろうな。やっぱり死ぬのは怖いな……どうするかな、帰るかな。もうちょい頑張るかな。
そう考えながら窓の下を見るために少し身を乗り出すと、次の瞬間俺の体は宙を舞っていた。
「え?」
そのような言葉が口からこぼれ出る。自体を理解しようと頭を回転させるが、元々死ぬつもりだったしいいじゃないかと言う考えが思考の邪魔をする。
あれこれ悩んでいるうちに海面が近づいてくる。覚悟を決めその時を待つがいつまで立ってもその時が来ない。おかしいなと思いもう一度海面を見るとその瞬間「パキッ」という音とともに海が割れた。
「は?」
……違う海が割れたんじゃない。空間が割れたんだ。……は? 何にせよ意味がわからない。そんな事を考えていると、割れた空間が近づいてくる。
「え?! は?! ちょ! え?」
驚き取り乱しているとその割れた空間に吸い込まれる。なんでだよ!
「あ、やっぱり呼べたのね〜」
目を開くとそこは幾何学模様の空間で可愛らしい少女がいた。
……どゆこと?
長い間空きましたことご容赦ください。何卒!何卒!
まあその話は置いときましてこの小説の設定について気になる点がございましたらコメントでください。
多分答えます。
それと、現実だといったなアレは嘘だ