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能力者しかいない世界で元落ちこぼれの救済  作者: パーリナイ山本
序章
2/10

1話:夢

主人公の夢のお話


 砂浜に打ち上げられていた男、名前は新堂 永久(しんどう とわ)というらしい。永久は、混濁とした意識の中夢を見ていた。

 夢と言っても存在しない世界での出来事ではなく、永久が実際に経験したものに自分の希望を少しだけ足したものを夢想しているようだ。




 いつもどおりの朝、6時に目が覚めた。学校に行かなければならない、という使命感に似た憂鬱な思考を振り払い、顔を洗うために洗面所へと向かう。洗面所に行く途中に台所の中から声をかけられた。


「おはよう、永久ちゃん相変わらず朝が早いわねぇ〜」


「おはようございます、(りん)さん」


 自分のほうが早く起きてきたのに俺に向かって朝が早いと言ってくる女性は、新堂 凛(しんどう りん)さん、俺の母親代わりの人だ。

 俺の母親は3歳の頃に亡くなっていて、そんな俺を引き取ってくれたのが遠い親戚に当たる凛さんだった。

 因みに今年で還暦であるが、20代にしか見えない。本人曰く「能力のおかげ」だそうだ。


「もう少しで朝ご飯できるからねぇ、顔を洗ってきなさいな。」


 凛さんにも言われたのなら行かねばなるまい。そんなことを寝ぼけた頭で考え俺は洗面所に行く。


 洗面所で顔を洗い終えた俺はふと鏡を見た。

 中にいたのは見慣れた俺の姿だったが、いつもより少し痩せているように見えた。


 朝食を食べ終えた俺は学校に行くための準備をするために自分の部屋へ戻る。

 箪笥を開け制服を手に取る。だがその制服は今年の4月から着ている見慣れたものではなく、布がところどころ薄くなっており、薄汚れたサイズが少し大きいボロボロの制服であった。

 そんなことはないだろうと思い目を擦りもう一度見てみると、次は見慣れた制服だった。


「な、なんだ、まだ寝ぼけていたのか……」


 そう自分に言い聞かせないと、制服がボロボロになる不可解な現象への恐怖で動けなくなってしまう気がした。

 実際、呟いた言葉は自分でも気がつけるほどに震えていた。

 だが学校へ行く準備は昨日の夜カバンに詰めた教科書の再確認だけなので、急いで確認し学校へ行くことにした。

 確認のためにカバンを開いてみると願い通り昨日入れたもの以外なにもないし、入れたものにも異変は無かった。


「っは……やっぱりなにもないじゃないか。さっきのは夢だったんだな。」


 そう呟いてカバンを持ち上げた瞬間、指に鋭い痛みが走った。


「痛っつ」

 

 カバンの持った部分を見てみると画鋲が中から出てきていた。だが出てきた画鋲は1つや2つではなく、持つ部分全体から出てきている。


「なんだよ‼ クソ‼」


 なぜ起こったかわからない現象へ恐怖を通り越して苛立ちを覚える。

誰がなんのためにこんなことを……理由を考えていたらと落ち着いてきたな……もうどうでもいいや。

 思考を放棄して手を動かしカバンから画鋲を1つづづ外していく。その作業を20分ほど続けてやっと全て取り終わった。

 これで学校へ行ける。

 時間が押してきたので急いで部屋を出た。


「凛さん行ってきます。」


「……」


 凛さんからの返答はなかった。おかしいないつもだったらすぐに返事してくるのに……

 そのことを疑問に思いながら学校に走っていると何かに巻き込まれることもなく学校についた。


「よう」 


 下駄箱で靴を脱いでいると唐突に声をかけられた。


「なんか久しぶりだな田中。」


「おう、土日挟んだからな。」


 いつもどおりの気安い会話をしながら二人同じ教室に向かう。

 田中はオカルトに少し詳しいのを思い出し教室についてから田中に朝起こった現象について相談してみることにした。


「なあ、田中」


「なんや」


「ちょっと相談があるんだけど」


「ええよ聞いたる」


「何目線だよ」


 いつも通りふざけているけど話は聞いてくれるらしい。


 相談する予定をつけてから数秒間歩くと教室にたどり着いた。

 取り敢えず俺の席に荷物を置いてから田中の机に向かう。

 教室の反対側にある田中の机につくと田中は机に突っ伏している。

 相談を聞く気はないのだろうか……


「おい田中、あ間違えた佐藤か、あれ鈴木だったけ?」


「田中だよ! 相談する相手の名前間違えるとか社会人として終わっているからな!」


「そも社会人じゃないし、突っ伏していたお前もお前だろ」


「それもそうか……」


「納得するなよ……」


「それで、相談とは?」


「ああ、そうだったな……」


 そうして俺は朝に起きた不可解な現象を説明した。


「ほう、それで」


「それだけだけど……」


 田中は10秒間程考える素振りをしていた。

 絶対これ何も考えてないやつだ……


「大体わかった」


「何がだよ」


「朝から変なことが起こる理由だよ」


「ま?!」


「ああ……」


 本人より話を聞いただけの他人がすぐに分かるとはどういうことだ。田中はそこまで頭が良く無かったはず……


「すごく失礼なこと言われた気がする」


「気の所為じゃね」


「そうか…」


 ……きっしょなんでわかるんだよ。


「で、理由がわかったんだったら教えてくれよ」


「そりゃあれだよあれ」


「あれってなんだよ」


「あれはあれだろ」


「だからあれってなんだよ!」


 思ったより大きな声が出てしまった。クラスメイト数名が不審げな目を向けてくる。自分でも気づかなかったが朝から起こっていることで相当頭にきているようだ。


「いきなり大声出すなよ、耳が痛くなるだろうが」


 大声を出させた元凶は耳を塞ぎながら文句を言ってくる。


「お前のせいだろうがふざけんな。海に突き落とすぞ。」


「あれについて教えるからそれだけはやめてくださいお願いします。」


 あまりの変わり身の速さに一瞬呆けてしまったが、考えてみると田中の能力は海の中では発動すらしなかった気がする。


「で、結局あれってなんだよ?」


「ああ、それはな……」


 俺は真剣な顔をした田中を見ながらこいつの顔サルみたいだなと思っていた。


「■■だからだよ」


「…………は?」


「おう、だから■■だってことだ。」


「………………」


 こいつは何を言っているのか? 喋っている言葉が日本語に聞こえない。いや、外国の言葉だとしても意味がある言葉に聞こえない。それほどまでに人間が出せる音ではないような気がした。 


「俺がこんな音を出して驚いたか? 俺も驚いてる。俺はお前について何もかも知っている。だが、教えようとしたら規制がかかるみたいだな。知っているからと言ってすべての情報をお前に話せるわけじゃないみたいだ。すまんな」

 

 俺の心の内を言い当てられた直後に衝撃的なカミングアウトが続き、脳内は疑問符で埋め尽くされていた。


「俺に相談している時点で既に気付き始めているんだろ? 自分の頭で結論にたどり着いたらどうだ? 

これが■■の世界だってことによ。」


 その言葉を聞いたときには俺は教室を飛び出していた。俺は今あいつにえもいえぬ恐怖を感じていた。


「はあ、はあ、なんだよ……あいつ……気持ち悪い」


 走り出したは良いものの恐怖で息が切れてしまった。眼の前にある図書室で休むのもいいかもしれない。


「し、失礼します……」ガラガラ


 中には生徒どころか司書さんもいないし、カーテンが締め切ってあるため中は薄暗い。少し怖いな……

 中を少し歩き、休むために読む本を探す。


「あ、あった」


 お目当ての本を見つけると近くにあった丸椅子に腰掛け本を開く。


 …………何だこれ、本に何も書かれていない……本当に今日はおかしい。違和感が多すぎる。

 朝の現象だったり田中だったり、現実ではありえない事が起こっている。まだ夢だと言われたほうが信用で……き……る?

 

 ああ、そういうことか。


 点と点が線で繋がった感覚がする。


 違和感も説明できる。


 そうか……

 

 田中も……現象も……本も……


 全部……


 全部……全部……





 夢だったんだ。

夢の中で夢見ることありますよね

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