8話:初めての街(3)
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買い物をするために総合スーパーに来た俺達は、三週間分の食料と消耗品を物色するために二手に分かれていた。
野菜類は慧が持ってくるって言ってたから俺は消耗品と肉、魚、調味料あたりを買えば良いのかね。とりあえず肉コーナーに行こう。
「…………お?」
この肉はドリップも出てないし、新鮮な……っていうか卸されたばっかりの良い肉じゃないか! いや、まあ三週間以上肉を新鮮なままで持たせられる冷蔵庫が各家庭にある時点で、こういうのはあんまり関係なくなってるんだろうけど、少しでも良いのが食べたいじゃん?
……この新鮮さとかを見分けられるのもあの場所での経験のせいだな。少しぐらい感謝……するわけねえだろ。何だよアイツラいつもこき使いやがって。能力が使えるようになったらすぐに殺ってやる。
そんな仄暗い事を考えながらかごの中に豚鳥牛の肉を1kgずつと鮭や鯵などの魚をかごに入れていく。
「あとは……調味料か……」
調味料コーナーに行くと先客がいた。
「あ、永遠さん。肉類はもってこれましたか? って聞く必要もないですね」
慧である。慧はかごパンパンに野菜を詰めて調味料を吟味していた。だがそれもすでに終わっているようだ。
「子供扱いしないでよ」
「はいはい。でも、永遠さん小さいというか小柄ですし言動も何処か子供っぽいんですよね」
「余計なお世話だよ!」
まったくもうなんでそうデリカシーのないこと言うかな! それでも住処と食事と衣服を用意してくれるからずっと一緒にいたいんだけどね! ……はあ、我ながら酷いツンデレだと思う。
「私も選び終わったのでそろそろ会計して帰りましょうか」
「はい」
買い物を終えるために俺たちは出口に向かう。
科学の進歩は凄まじい。レジに行かなくても店を出れば勝手に銀行から引き落とされる。万引きのできなくなることは良いことだ。
「ねえ、聞きました山田さん」
「なんです? 鈴木さん」
出口に近づくと女性の話し声が聞こえる。いつの時代でも主婦という生き物は噂好きなものだ。
「丘の上に住んでる七篠さんとこ。ほらあのおじいさんが亡くなってから元気がない」
どうやら慧の噂をしているようだ。見ず知らずの俺のようなやつの面倒を見てくれるいい人なのだから、街の人からの評価も高いのだろう。
「ああ、あの。剣で魔物を狩ることしか能がない」
「っ!」
「そうそう、あの子ね……」
主婦たちの話を聞きたくなかったのか慧はフードを目深に被ってしまった。
……どうやら街での慧の評価はあまり高くないどころかだいぶ低いようだ。ここにも能力至上主義の思想が入り込んでいるのか。
「最近中学生ぐらいの男の子を拾ったらしいの。で、その子の体には傷とかあざとかがたくさんあるんですって」
「やーねー、もうその男の子拾ってきたんじゃなくてさらってきたんじゃないの?」
「さあ? 私はこの話、佐藤さんの奥さんから聞いただけなのよねぇ」
慧は苛ついているのいつものような音がしない歩き方ではなくドカドカと足早に出口へと向かう。
俺も主婦たちの物言いに少し、いや、だいぶ苛つきを感じる。そのことに今日だけで慧との心の壁が少なくなった事を実感する。
というか世間一般から見ると俺達の関係はそんなに爛れて見えるのか。
「そうじゃないなら、そうねぇ……夜逃げでも考えてるのかしら?」
「ああ! きっとそうよ!」
「だとしたら馬鹿よねぇあの家は契約に縛られてるのに」
「「あはははは」」
慧は立ち止まる。
……こいつら糞だな。自分より下のやつを見下して、ありもしない噂で盛り上がり、挙句の果てにはそれを嗤う。人間は何処に言っても変わらない。というよりも本質は同じなのだろう。
「ふざけるな」
慧が体の向きを変え怒気を孕んだ声で言う。そこには抜き身の刀のような殺気を帯びた少女の姿がある。
……いや実際に短刀を抜いていないからなけなしの理性で押さえつけているのだろう、今にも主婦に手が出そうだ。刀傷沙汰はまずい、できるかは分からないが手が出そうなら止めよう。
「お前らが……お前らが……」
「きゃ! なにこの子!?」
「ほら今噂してた七篠さんとこの子よ」
「じゃあその隣りにいる男の子が噂の子?」
「じゃないかしら。全く遺伝ってやぁね、祖父が犯罪者なら子も孫も犯罪者になるし。過去から学ぶこともできないのかしら。温故知新って言葉知ってるぅ?」
この山田という人はなかなかに煽りスキルが高いらしい。慧のことを言われているのに俺も苛つく。
「! あれは! 本はといえばお前らが!」
「慧! 落ち着け!」
慧がパーカーのポケットから短刀を取り出そうとするのを無理やり抑えようとする。そのために食材を落としてしまったがこの際どうでもいい。慧を本物の犯罪者にしない方が先決だ。
「うぁ!」
だが奮闘虚しく纏わり付いた紙のように簡単に引き剥がされてしまう。そりゃそうだこんな欠食児童を引き剥がせなようじゃ逆に心配になる。
主婦たちの顔が青ざめる。ああ、慧が殺人を犯してしてしまう、そう感じながらも心の何処かでは少しスッキリとしていた。……そうか人間の本質は変わらないのだ、それは俺すら例外ではない。そんな感傷に浸っていても時は止まってくれない。慧は完全に短刀を抜いてしまった。
次の瞬間に起こる惨状を予測して目をつぶった。
しかし、次の瞬間に起こったことは血なまぐさい臭いが漂って来たわけでも、水がこぼれるような音がしたわけでもなかった。
「ぐぁっああぁぁあぁ!」
地獄の底から這い出てきた幽鬼の怨嗟のような、悲鳴のような声が聞こえた。
恐る恐る目を開けてみるとそこに倒れていたのは佐藤でも鈴木でもなく、俺の恩人である慧だった。
次もいつも通りだと思います(意訳:不定期になります)