0話:漂流
初投稿です。
4月の末の夜更け、廻街より少し南に行ったの海岸に一人の少女がいた。
その少女は顔立ちは整っていたが虚ろな目をしていた。
だが、その少女の足は海の方向へ向けられている。海に近づいていくに連れて、その目には恐怖の色が少しづつ見え始める。今にでも海に入ろうかというとき砂浜に打ち上げられている一人の男を見つけた。
男の肌は水を吸いブクブクに膨れ上がりさながら水死体のようだった。
「これが私のしようとした事のなれの果てか……」
と少女は呟く。しかし、その言葉は間違いであった。
「がほっ……」
その男は突然、息を吹き返し口から水の塊を吐き出した。
「この人まだ息がある!」
少女はすぐに駆け寄り、男の肩を優しく叩き救助のセオリーに則り意識の確認をする。
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
だが反応はない。そんなことは少女もわかっているようで。
「意識は……なし、と」
一応声に出して確認した少女は次の行動に移ろうとしたが、ここでは波に飲まれてしまうことに気が付き、移動して処置に当たろうと考え、男の背中に手を回し優しく持ち上げた。
男の体は水を吸って持ち上げられないような重さはなく、簡単に持ち上がる。
そのことを少女は不審に思いながらも移動し、波が来ない場所に男を下ろす。
少女は数秒間考え込むように顎に手を当てながら処置を開始した。
「肺に水が溜まっている……胸腔ドレナージは器具がないし……細くて短めのパイプは……あった。これを火で少し炙って……」
少女はつぶやきながら、ポケットからオイルが少なくなっているライターを取り出した。ライターに火をつけ、その火を近くにあった乾燥した流木に火を移す。すると移された火が不自然に煌々と燃え上がる、少女は驚いた様子もなく燃えている流木を砂の上に置き、乾いた流木を追加した。
「先端を炙って……よし、これをこの人に……」
パイプを持ち男の方向を向いた少女は突然、男の髪の毛を100本ほど引き抜きそれを喰べた。だが、少女の突然の異常行動を咎める者は誰一人としていない。
だんだん少女の異常行動はエスカレートしていき……というわけでもなく。
「あぁ、美味しい……」
と呟き恍惚とした表情を浮かべていた。
しかし、すぐに表情を引き締め直した少女はパイプを逆手で持ち男の胸のあたりに掲げ、パイプを勢い良く薄い胸板へと突き立てる。
人の胸にパイプを突き立てるなど通常の少女の力ではとてもできない芸当である。
数秒も経てば胸に突き立てられたパイプから少しずつ水が溢れ出した。ドクドクと水と血液が混ざった、少々赤黒い液体を見た少女は苦悶の表情を浮かべる。
その顔は痛みに耐えているようにも、自分を律しているようにも見えた。
少女は男の肺から水が抜け切ったのを見計らい、人工呼吸と心臓マッサージを始めた。幸いにも20分程度で心臓の鼓動は再開し、意識も混濁としているが戻りかけていた。そして水を吸っていたはずの皮膚は水を排出して、胸にあいた傷が塞がりかけていた。
その頃には東から太陽がのぼり始じめ水平線から少し頭を出していた。
「う、うぅぅ……」
男が唸るような声を発したときにはもう付近に人影は無く、有るのは木の燃えカスと森へと続く少女のものであろう足跡だけであった。
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