名もなき村の英雄譚
名もなき村の英雄譚
【プロローグ】
地球なのか・・・
異世界なのか・・・
昔なのか・・・
未来なのか・・・
そんな世界の小さな村のお話です。
その村は自然に恵まれ、村人が生活していくには十分な農作物が取れ、これまで、山に囲まれていたこともあり、盗賊や他の村との大きな争い事もなく平和な時間が流れていました。
しかし、その平和な時間は未来永劫、約束されたものではなく、変化の時を迎えようとしていました。
村の周辺では領土を広げようと国と国が争い、各地で戦争が起こっていました。
その為、豊かだった土地は枯れ、食料などの奪い合いが各地で起き、残党兵や盗賊などが豊かな村を襲い、略奪を繰り返すようになっていました。
そしてついにこの小さな村にもその影響が出てき始めました。
ほんの十数里先の洞窟に盗賊がアジトを作り、周囲の村を襲い始めたのです。
しかし、平和に慣れた村人の多くは何の根拠もなく、自分の村は大丈夫だと安心しきっていました。
【戦士の進言】
とある町の王宮にて・・・
戦士「王様、各地で起こっている争いの影響で、各地の村々が盗賊に襲われております。このままでは前線で他国と戦っている兵士たちの食料にも影響が出てきてしまいます。まずは我が国の民のために盗賊の征伐軍を・・・」
王様「ちょっと待て!!お主は今の我が国の状況をわかっているのか?今、我が国は領土争いで一進一退の戦況の中、民の為とは言え、兵力を分散できる余裕などあるわけはないであろう!!そもそも、この国がなくなれば、民がなどと言ってられないのだぞ。」
戦士「それでは王は民を見捨ててしまわれるのですか!?」
王様「誰もそんなことは言っておらぬわ!!ただ、お主の言う通り盗賊どもの最近の振る舞いは見過ごせぬところもあるのも事実だ。」
戦士「流石はわが王君、それでは兵をお貸しいただけるのですか?」
王様「まあ、落ち着け!、先ほども言ったが、今、戦況はひっ迫しておる。正直、近衛兵のお主にも戦場へ出てもらいたいぐらいなのじゃ。だが、お主の言う通り、食料が枯渇することは即敗戦を意味することも理解は出来る。そこでお主に改めて命を下そう。」
戦士「・・・・」
王様「盗賊征伐のために軍を動かすことは・・・やはり出来ん。」
戦士「それでは民が・・・」
王様「まあ、落ち着けと言っているであろう!!話は最後まで聞け!!」
王様「ワシからの命はお主一人で盗賊どもを何とかしてこいという事じゃ」
戦士「はっ?どういう・・・」
王様「疎いやつうじゃの・・・そのままの意味じゃ。但し、お主に金貨を10万枚与えてやるので民兵を募集して秘密裏に盗賊どもを討伐をしてくるのじゃ。他国に情報が流れないように秘密裏にじゃぞ。いまそのような情報が相手国に流れてしまっては余計な刺激を与えるだけじゃからな。」
戦士「・・・・」
王様「何をしておる、話は以上じゃ、良い知らせを期待しておるぞ!」
【我が道を行く武術家】
武術家「強い相手と戦いたいな~」
武術家「日々の鍛錬で自分が強くなっていく実感を感じるのは嫌いじゃないが・・・やっぱり強い相手と戦いたいな~」
武術家「んっ!?何か聞こえるぞ?」
男の声「おい!クソガキ、命が惜しかったら黙って、村まで案内しろ!!」
少年「誰がお前たちみたいな盗賊の言う事を聞くかよ!」
少年「お前たちみたいな卑怯もんは、俺みたいな子供でも人質にしなきゃ村一つおそえないんだろ!!」
男の声「くそ!優しくしてりゃつけあがりやがって!!今すぐ殺してやる!!」
男の声「イテッ!!」突然男の頭に石が飛んできてぶつかる。
盗賊の男は石の飛んできた方向を見ると凄まじく威圧感のある大柄の男がたっていた。
そしてその大男は盗賊に向かって話し出した。
武術家「おいおい、大人3人がかりで子供1人に力づくとは・・・大人げないね~」
武術家「それから少年!!命は粗末にするもんじゃないぞ!お前が本気で村を守りたいって思うんなら強くなるしかないんだ。今なら俺が助けてやるがどうする?自分の弱さを認めるのも強さなんだぞ!!」
男たち「何を勝手にベラベラと!!」
武術家「うるせいな!!今、大事な話をしてるんだ!!」
武術家「少年!!決断しろ!助けて欲しいのか、欲しくないのか!」
少年「わかった!助けてくれ!村を守りたいんだ!!」
武術家は少し笑顔を見せた瞬間、3人の盗賊をあっという間に倒していた。
武術家「少年、よく頑張ったな。」と言って少年の頭をくしゃくしゃにして撫でていた。
一瞬で盗賊を倒した武術家はいきなり少年を担ぎ上げ・・・
武術家「俺を村へ案内してくれ!ずっと一人で修業をしていたのでちょっと人恋しくてな・・・。できれば美味い食事が出来るところを教えてくれないか?ここんところ、ろくな食事にありつけていなくてな・・・」
【武術家、村の用心棒をかって出る】
村への道すがら、少年がその大男から聞いた話では、武術家の修行をするために数週間前、一つ向こうの山の中で修業をし出していたこと、そしてこの一帯、夜盗や盗賊がこの周辺の村を襲っていることを聞き、強い奴が盗賊の中にいたらいい腕試しが出来ると思い数日前にこの辺りまでやってきたことなど色々と聞いてもいない事までたくさん話してくれた。
その武術家の話は村しか知らない僕にとってはすごく新鮮で楽しい話だったが・・・ただ村までその武術家に抱きかかえられて連れて帰ってこられたのはとてつもなく恥ずかしかった。
その為、僕はこの姿を出来るだけ誰にも見られたくないためにすぐに僕の家へと案内した。
少年の母親「今日は息子を助けていただいて本当にありがとうございます。」
少年の頭を押さえながら少年の父親は・・・
少年の父親「ほんと、こいつがご迷惑をおかけしました。あなた様が助けてくれなければどうなっていたか・・・」
少年の父親「お前もちゃんとお礼を言わないいか!!」
武術家「いやいや、そんなお礼なんていいですよ。それより、俺はいますごくおなかが空いていて、何か食わせてくれないですか?」
少年の母親「本当にすみません!すぐに食事のご用意をしますね。」
その後、母が用意した食事を美味い美味いと連呼しながら、次々と料理を平らげていった。
正直、実際に盗賊を倒した姿を見ていなければ、本当に強いのか?と疑いたくなる気もしていた。
そして、食事をたらふく喰った後、突然、武術家は
武術家「俺をこの村の用心棒に雇わないか?」
少年の父親「この村は平和ですし、それにあなた様をお雇いするのも村長に確認してみないと私の一存では・・・」
武術家「平和・・・?本当にこの村ではみんなそう思っているのか?この少年が盗賊に襲われたのだって決して偶然じゃないんだぞ。」
と言って武術家は村の周辺の危険を両親に話して聞かせた。
この村から1里ほど離れたところにある洞窟に盗賊がアジトを築いている事、そして、A国とB国との不毛な戦争がどんどんと激しくなっており。数々の村々で家や畑を焼かれ、難民となっている人たちがたくさんいる事、そして何より、A国もB国もそんな小さな村々の人たちのことなど眼中にすらないことなど両親に話してくれた。
そして突然、武術家は僕に向かってこう言った。
武術家「別に俺にとっちゃこの村が盗賊に襲われようが、それはよくある話の一つにすぎない。けれど、俺はさっき、この少年に助けて欲しいと言われ、分かったと返事をしちまったしな。つまり、お金なんて別にいらないし村長に雇ってもらう必要はない、ただ少年との依頼を受けて盗賊から少年の大事な村を守ってやりたいってだけさ。だから、盗賊に村が襲われる危険がなくなるまで、食事と寝床だけ貸してくれるだけで用心棒をやるぜってことかな。」
両親はそこまで聞いて、どうしたものかと困っていたが、武術家はそれ以上話を聞く様子もなかったので、父は村長にしばらくこの武術家が村に住むことだけを報告しにいき、結局、武術家は無理やりに近い形で村の自称用心棒になってしまった。
【引退間近の戦略家】
戦士は困っていた・・・
自ら進言したとは言え、予想に反しての王様の無茶ぶりと渡された金銭の少なさだ・・・
この世界で10万金貨とは10人分の日当ぐらいにしかならない。
正直、盗賊のアジトの探索を依頼するだけで3万金貨ぐらいかかる。
ましてや命がかかった盗賊討伐となると私以外にもう一人雇えられればというところだろう。
こういう時、いい知恵を貸してくれる奴は・・・
戦士「あっ!そうだ!あの方なら何とか力を貸してくれるかも!!」と思わず声に出していましたが、気にせず、急いでその方の家へ向かいました。
戦士が向かったのは町はずれに住んでいる高名な戦略家の屋敷だった。
戦士自信、その戦略家とは何度か戦場で一緒に戦った経験もあり、その戦況を一変させる実力はこの国の宝とさえ感じていた。しかし、国とは過去のその様な多大な貢献に対し、あまり評価をすることなく、まだまだ実力も十分な老兵を飼い殺しにしていた。
そんな戦略家の屋敷に戦士が突然訪問したにも関わらず、快く歓迎をしてくださり、屋敷に招き入れてくれた。
戦士「突然の訪問にも関わらず、お会いいただきありがとうございます。」と謝意を述べると・・・
戦略家「そんな挨拶など適当でいい。俺に頼みたいことがあってきたんだろう?」
正直、このなんでも見透かされているような感じは戦場で味方でいるときは心強いが、こんな風にお願いや交渉をしなければならない場合、とてもやりにくいと感じながら、王様との一件を詳細に伝えた。
戦略家「なるほどな・・・あの王なら言いそうなことだな。しかし、お主の言うようにその盗賊どもは放置すると大きな禍になりそうじゃの。」
戦略家「大体の状況はわかった。多分、周辺の被害状況から俺が予想するに、盗賊どものアジトはこの山の中の洞窟か何かだと思うな。そして、次に盗賊どもが狙っている村は多分、ここじゃな。」といい地図のある地点を指し示した。
戦士「なぜ?ココだと思うんですか?」
戦略家「理由はいくつかあるが、多分間違いないだろう。それにこの村が襲われるまでにそれほど時間もないように思うぞ。急ぎ出立すべきじゃな。理由は道すがら話してやろう。」
【武術家の想い】
村の少年は、用心棒を勝手にやっている武術家が好きだった。助けてもらった恩人という事もあるが、村の人たちにはない心の強さを感じていた。ある日、少年が武術家の訓練を覗き見していると・・・
武術家『そんなところで隠れて覗いていないで、こっちに来て一緒に話さないか?ちょうど少し休憩しようと思っていたんだ。』
少年『うん』
二人は黙ったまま、そろって座っていたが・・・おもむろに・・・
武術家『この村って、俺が住んでいた村にそっくりなんだよな・・・』と言い出した。
少年は武術家の顔をのぞき込むとなんとなく悲しげな表情に感じた。
その時、武術家は今は存在しないかつての故郷を思い出していた・・・
俺にとってあの小さな世界がすべてだった。あの事件が起こるまでは・・・
平和な時間に身を置いている間は、この時間が永遠に続くように思えてしまうけれど、本当に壊れるときは一瞬だった。
そして武術家はおもむろに、自分が住んでいた村の話を話し始めた・・・
武術家『俺の村は、そんなにたくさん人が住んでる村ではなかったが山にも川にも恵まれて、食べる事にも苦労しないとても平和な村だった。
その頃、周囲の村々では天候悪化や台風などの影響を受けて食糧不足となっていた。そのため、食料の奪い合いや、盗賊になって他の村を襲うやつらまで出てきているのは大人たちが話しているのを聞いたりして、知っていたが、自分の村では起こるはずない・・・そんな何の根拠もない思い込みをしていたんだ。そして平和な時間はその日までで終わった・・・
本当に一瞬だった、夜になってしばらくすると、急にあたりが明るくなって目が覚めると、村のあちこちで火が上がっているのが目に入ってきた。俺は怖くなってトト、カカを呼ぼうとしたところで勢いよくカカが入ってきて、裏口から俺を抱えて走り出し、森の中へ入っていった。
そしてカカの顔を見ると、今まで見たことのない、すごく恐ろしい表情をしているが泣いているという不思議な顔だった。そして、俺はカカに、トトはどうしたの?と何度も繰り返し聞いていたが答えてはくれなかった。
そして、森の奥にある洞穴までたどり着いたときにカカは力尽きる様に膝をつき、倒れ込んだ。
よく見ると、カカの背中には大きな刀傷があり、本当は俺をここまで運んでくることすらできない状況だったのが子供ながらに理解が出来た。
そしてカカは・・・『洞穴の奥で隠れてじっとしていなさい。決して出てきてはいけません。何があってもです。』といい、俺を洞穴の奥に隠れさせました。そして、俺はカカを振り返ると笑顔で、早く隠れなさいと促されました。
それから、どんな風にして近くの村までたどり着いたのか今でもあんまり覚えていないんだけどな・・・
それから、俺は強くなろうと決心した。確かにカカやトトが殺されたことに対しては今でも怒っているし、カタキも討ちたいとも思っているけど、カカやトト、そして村を守れなかったのは俺が弱かったからだと思っている。だって、カカは俺を守ったんだからな。
俺は世の中、単純なんだと思うんだ、何かを守る奴は強くて、守られる奴は弱い。たったそれだけなんだ。』
と言って少し寂しそうな顔をしていた。
そして、おもむろにまた僕の頭をくしゃくしゃにして・・・
武術家『守りたいものがあるってことが強さなんだから、お前も守りたいものを持てよ!』と言われた。
【戦略家の推測】
戦士と戦略家は村へとつながる山道を馬にまたがり進んでいた。
戦士『さっき聞きそびれましたが、どうして今から向かう村が狙われると思ったのですか?』
戦略家『ああ、その事か・・・わしは今回の一件、単なる盗賊の村襲撃事件とは考えておらん、一番の理由はこの周辺の村の襲われた順番じゃ。』
戦士『順番?』
戦略家『そうじゃ・・・通常、盗賊というのは食料や金品を奪う目的で村を襲っていくため、目についた村から襲っていく、そして、奪うものがなくなればまた近くの村と被害を拡大させていく。
しかし、今回の盗賊はこの山の麓から順番に山頂へ向かって渦巻き状に村々を襲っている。
つまり、次に狙われるのはこの山頂近くにある、今から向かう村が一番怪しいという事じゃ。』
戦士『それはわかりました。しかし、先ほどおっしゃっていた単なる村襲撃事件ではないとおっしゃっていた理由は何ですか?』
戦略家『それはまだ、確信にまで至っていないのじゃが、どうも今回の盗賊どもの行動や組織性などを総合的に考えてみると盗賊の集団というよりは軍の一個師団のような動きにしか思えん、ここからはわしの推測じゃが・・・確信に至るためにもまずはその村を見てからじゃな・・・そして、あそこがその村じゃ・・・』
そう言って戦略家は山頂近くの森の中にひっそりとたたずむ小さな村を指さした。
【村人に突き付けられる現実】
村に到着した戦略家と戦士はまずは村長に会いに向かった。
そして、この近くに盗賊がアジトを作って、周辺の村を襲っている事、そして次に襲われる可能性が高いのがこの村である事を説明した。
村長『王国の戦士様と戦略家様にわざわざお越しいただきましたが、わが村は平和そのものです。まさか襲われることなどあるはずありません。それにこの村は先程、お二人が入ってきた道以外の3方を切り立った崖になっているため侵入はほぼ不可能です。小さな村とは言え、一方からの攻撃や侵入ならば、見張り台から見逃すはずもありません。これでもまだ、盗賊に襲われる心配があるとお考えですか?』
戦士『何を悠長なことを・・・』と戦士が村長に詰め寄ろうとするのを制止して戦略家が話し始めた。
戦略家『村長・・・本当にこの村を襲おうとしているのが盗賊程度ならお主の言う通りじゃ。しかし、戦いに成れた兵士たちが襲ってきても同じことが言えるかな?』
村長『兵士・・・?』
戦略家『そうじゃ、わしの見立てが正しければあの盗賊どもはわが王国がいま、領土争いをしている隣国の兵士どもだと思っておる。そして、この村を見て確信した。この攻めにくくて守りやすい自然の要害となっているこの村の地形をな。』
村長『戦争に慣れた兵士の集団に襲われたら、こんな村ひとたまりもないことは分かりますが・・・なぜ、こんな小さな村を襲う必要があるのでしょうか?』
戦士『その理由は私もうかがいたい・・・』
戦略家『理由はここの地理じゃ・・・この村は3方を崖に囲まれている。つまり、見通しが良いが攻めにくいという事じゃ、そしてここから、周囲を見てみればわかるじゃろ、わが王宮から隣国へ向かう道が丸見えじゃ・・・つまり、ここを抑えれば、わが王国の軍の動きは筒抜けになるという事じゃ。』
戦士『そんな重要な拠点をなぜ今まで我が国は放置していたのですか?』
戦略家『放置していたわけではない。先代の王の時はこの村の重要性を理解し、目立たぬように麓の村々に警備兵を配置し、この山ごと監視していたのじゃ。
しかし、愚かなことに今の王はこんな村を守る理由が分からぬようでな。ここに置いていた監視兵を全て隣国との戦争の最前線へ向かわせてしまったのじゃ。』
戦士『だから、このタイミングで手薄になって無防備な村々が隣国の侵入者に襲われたという事ですか?』
戦略家『まあ、そういう事じゃな。』
村長『しかし、それが本当なら・・・もうこの村はおしまいじゃないですか・・・戦いも知らない村人とあなた方二人でどうやって戦うんですか・・・?』と言って村長は急に思い出したように話し出した
村長『あっ!そういえば数日前からあなた方と同じように、盗賊に村が襲われるから俺が守ってやると言って無理やり用心棒を名乗っている武術家の方がいましたが・・・もしかして、その方は隣国のスパイか何かでしょうか・・・・?』
戦士『確かに・・・このタイミング・・・少し怪しいな・・・』
戦略家『まあ、待て、焦るでない。万が一、敵の密偵ならもう少し、怪しまれないように潜入するだろう。もしかしすると、戦力の増強になるかもしれんから、まずはあってから判断しても遅くはないだろう』
戦士『わかりました・・・なんか怪しい気がするが・・・』と戦略家の意見に渋々従い、武術家が村に戻ってくるのを待つことにした。
【意見のかみ合わない戦士と武術家】
武術家は戦士と戦略家を射貫くような鋭い眼差しを向けながら
武術家『王家の騎士様のお二人が言う事はよくわかったが、結局、3人でどうやって戦うつもりなんだい・・・俺が知っている限りだが、盗賊どもは少なく見積もっても100名近くいるようだぜ・・・流石にこの3人だけじゃどうにもならないんじゃないか・・・』
戦士『それは分かっているが・・・』と戦士が答えをあぐねていると戦略家がおもむろに武術家に向けて尋ねた。
戦略家『武術家殿が言われる通り、正直このままでは勝てる見込みは皆無に等しい、ましてや盗賊の正体が隣国の騎士どもの偽装であるなら尚更だと考えて当然じゃ・・・しかし、その事とは別に一つ疑問があるのだがそれはお主の事じゃ・・・』
武術家『俺に疑問・・・?俺は疑われるようなことは何一つしてないぞ!それに隠し事や嘘なんて俺が一番不得意とするところだからな・・・戦略家の旦那は一体俺に何が聞きたいんだ・・・?』
戦略家『確かにお主に会うまでは疑っていた部分は確かにあったが、正直今はお主を疑うことはしておらん。疑問に思っているのは別の事じゃ・・・それはお主がなぜこの村が盗賊に襲われるという事が事前に分かったのかという事じゃ』
武術家『ああ~その事か・・・それは俺の勘ってやつだ!!』
戦士『はぁ~勘だと・・・勘だけでこの村に居座って他というのか!?やっぱりいよいよ怪しいではないか!』
武術家『勘だから勘といったまでだ。それ以上説明のしようなどあるか!!』
戦士『もっと論理的な理由とかあるだろう!!』
武術家『そんな事言われても、ないものはない!!』
そんなやり取りがエスカレートしてきて、険悪な雰囲気になってきたところで、戦略家が割って入るように戦士に視線で落ち着けと促しつつ武術家に話しかけた。
戦略家『いやいや、気を悪くされたのならすまなかった・・・』と武術家に頭を下げ、そして続けて『勘と言われるのもうなずける。現にわしがここに来たのも、さしたる確信も根拠もなかったわけだから、勘と変わらん。』と笑って見せた。
それを見て武術家は戦士にそら見たことか・・・という表情を向けたため、戦士は少しイラっとする表情を見せたが、またしても戦略家に視線で諫められ、不服そうに黙っていた。
戦略家『それでは、先ほどの話に戻すが・・・武術家殿がこの村が襲われると思う前までずっとこの周辺で修業を行っておられたのですか?』
武術家『いや、実はこのあたりで修業を始めたのはこの村で世話になる10日ほど前の事だ。』
戦略家『ほぅ~それまでは何処で修業を・・・?』
武術家『いや、それが』と思い出すようなしぐさをして話し出した。『この先の山奥に、奇妙な術を使うやつがいてな、3か月ほど前ぐらいから、そいつのところで修業させてもらっていたんだ。』
戦略家『へんな術とな・・・どんな術なんじゃ・・・?』
武術家『よくわからんが、紙で出来た人形に、変な呪文をかけたら動き出したり、野に咲いている花が次の日には人に姿になって、そいつの世話係をしていたりと・・・本当に奇妙な術をたくさん使うやつだったよ』とにわかに信じられないような事をさも楽し気に言い出した。
しかし、戦略家はにわかに信じられないこの話を聞きながら、考えを巡らせていた。
そして、おもむろに、こう切り出した。
戦略家『よし、その御仁に会いに行こう・・・』戦士は驚いたように戦略家の顔をみた。そして・・・
戦士『そんな奴いる訳ないじゃないですか・・・どうせ、その武術家の戯言か、夢でも見ていた話ですよ・・・』と言いながら戦略家の方へ顔を向けたが、戦略家はいたってまじめな顔で・・・
戦略家『いやいや、一概に嘘とは言い切れないぞ、世界は広いからな・・・それに以前少しだけ耳にしたことがある。東の端の国に変わった術を使う者たちがいると・・・だからこの目で確かめに行かんとな・・・そこまで嫌ならお主にはこの村でやってもらいたい事があるのじゃが頼まれてくれるか?』
戦士『そいつの戯言に付き合うぐらいなら、何でも言ってください。』と言いながら武術家の方を見てみたが全く眼中にない素振りで村の少年と戯れていた。またその武術家の緊張感のない姿を見てイラっとしたが、気にかけないようにして、戦略家の依頼内容を聞いた。
【東の果ての奇術師】
翌日、早朝、戦略家と武術家は馬で、山奥へ向かっていた。
しばらく行くと、大きな川が現れた。
武術家『ここから、馬はおいていくしかないな。この先に滝があるんだが、その滝の上にある小さな小屋にそいつは住んでるんだ。ここからは道も狭くなっているし、迂回できる道もないからこの川沿いに上っていくしかないな。』
戦略家『ほぉ~、これではこの山に慣れたものでも中々たどり着けそうにないな。』
武術家『そうなんだ、俺も修行のつもりでなきゃ、こんな険しい山道を登ろうとはかんがえねぇしな。』
それから、二人は険しい道なき場所を川上へ向かって歩き続けた。出発してから半日ほど経ち、辺りが闇に包まれ始めていた時、少し離れた場所で、滝の音が微かに聞こえてきた。
戦略家『今日はこのあたりで休もう。』
武術家『そうだな・・・そうしよう。』
二人は村人からもらった、パンとイノシシの干し肉を少し火で炙ったもので、空腹を満たし、眠りについた。そして、二人が眠りにつき始めたころ、どこから着たのかわからないが人の気配を感じた。
しかし、二人とも思うように身体を動かすことが出来ない。そして頭ではこんなところに人がいるはずはないと感じつつ、夢なのかと思うほどの意識の中でぼんやり感じていた。
そしてわずかな記憶の中で・・・『客人をこのような場所でお休みいただくわけにはいかない、わが庵へご案内なさい。』という声が聞こえてきたが、またすぐに、意識が深いところへ落ちていった。
翌朝、戦略家は見たことのない部屋の中で目を覚ました。
戦略家は最初何が起こったのか理解できなかった・・・確か、昨晩は森の中で、武術家と共に休んでいたはず・・・それがなぜ、このような部屋の中に・・・夢でも見ているのかとも思ったが・・・深い眠りに落ちる前の一瞬、男の声が聞こえたような記憶が確かにあった・・・それに、一緒に寝ていた武術家は何処へ行った?とあれこれ想いを巡らせていると・・・扉が開き・・・武術家が入ってきた・・・
武術家『戦略家の旦那・・・起きたか?』
戦略家『起きたか?ではない・・・ここは何処なんだ・・・』
武術家『あぁ~ここか・・・陰陽師の家さ・・・あの奇妙な術を使うって言ったやつさ・・・』
戦略家『陰陽師・・・?』と聞き覚えのない術者の名前を聞き、寝起きのまだ覚醒しきっていない頭では情報を整理することが出来ずに困惑していた・・・すると武術家の後ろからこの周辺地域の魔法使いとは全く違う衣装を着た、女のような顔立ちの美形の男が立っていた。
陰陽師『起きられましたか・・・?突然、このような案内をいたしましたご無礼ご容赦ください。詳しくは彼方に朝げの支度が出来ておりますので、そちらでお話いたします。』
武術家『おぉ~朝飯か・・・腹が減っていたところだ・・・戦略家の旦那もいつまでもぼぉ~っとしてないで早くめしにしよう!!ここの飯はうまいからな!!』と自分の家の事のように自慢げに言った。
【全てを見通す眼力】
戦略家は驚いていた・・・武術家と共に滝の麓まで来ていたことを知り、俺たちが野宿をしているのをこの庵まで運んできたことや、俺たちが村に来た理由、そして盗賊が隣国の兵士の偽装した姿だという事などすべてこの陰陽師と名乗る男は見抜いていた・・・正直驚きを通り越して恐ろしくなるほどだった。
しかし、武術家を誘導して、村を守らせていたところを見ても敵ではなさそうであった。
そして、村を守る必要性、隣国の民が我が国以上に戦争の犠牲になっており、生活に困窮している事、さらに、この周辺の村々を襲っているのは、自国で食料の生産を賄えなくなったことを補うため盗賊に偽装して食料を確保していることなど、戦略家が予想していた状況よりもはるかに詳しい内容をこの陰陽師はつかんでいた・・・
戦略家歯どうしても気になっていることを訪ねた・・・
戦略家『そなたはこのような森の奥で、なぜそこまでの情報を集めることが出来るのだ?』
陰陽師『はい、私が住んでおりました東国に伝わる呪術というものを私は使うことができます。簡単にご説明するとこの周辺地域でいうところの魔術みたいなものです。ただ、魔術との大きな違いは、魔術は生きとし生けるものの生命の魔素を利用するのに対し、陰陽師の使う呪術は呪という言葉の持つ力、言霊を利用して術を使うものです。細かいご説明はこのぐらいにして、ご質問のお答えですが、陰陽師は生命亡きモノに言葉という魂を与えてこのような術を使うことができます。』と言って手に持っていた紙片を器用に鳥の形に切り取った。
そして、何やら呪文のような言葉をその切り取った鳥に吹き込むと・・・まるで生きているように飛び始めた・・・
戦略家は驚いて何も言葉にすることが出来なかった・・・
それまでの話をつまらなそうに聞いていたが、紙で出来た鳥を見た途端、懐かしむような顔をして・・・
武術家『おぉ~!!久しぶりにみたが、やっぱり、奇妙な術だよな・・・俺も木とわらで作った人形を動かしてもらって訓練に使わせてもらっていたよな・・・』といった。
その武術家の話を聞いて戦略家は何か思いついたように、陰陽師へ話しかけた・・・
戦略家『陰陽師殿、先程、武術家殿が言っていた木と藁で出来た人形というのは今でも作れるのですか?』
陰陽師『確かに作れます。ただ、戦略家殿のご期待には沿えないと思います。武術家殿のおっしゃる人形は1体動かすのが限界です。』
戦略家『そうですか・・・しかし、陰陽師殿は察しがよくて話が早い。ではそのうえでお尋ねしたい!!今のままでは盗賊に扮した隣国の兵隊どもを撃退する戦力が不足しております。何とか、陰陽師殿のお知恵をお借りしたいのですが何とかなりませぬか・・・』
陰陽師『私もその部分を懸念しております。その為に、戦士の方に村人への協力を要請するため説得にあたっていただいているとりかいしております。しかし、それだけでは心許ない状況だという事ですね。』
戦略家はまたも自分の行動を見透かされている感覚に陥ったが・・・今はこの陰陽師を頼る以外選択肢がないと考え、『その通りです・・・』とうなずいた・・・
陰陽師『私も直接的な解決策は今のところ浮かんではいないのですが・・・一つ、戦力自体を上げる方法には妙案があります。』
戦略家『それは、すぐにでもお聞きしたい!!』と言って体を乗り出した・・・
陰陽師『わかりました・・・すぐにお話いたしましょう。』と言って淡々と話し始めた・・・
陰陽師『ご存じとは思いますが、この庵の外にある滝があります。その滝の裏側に鍾乳洞がありその奥は少し、迷路のような状態になっています。実はそこにドアーフの村を追放された錬金術師殿が人目を避け、工房を作っています。その工房は、当国はもちろん、他国の方にも知られてはと私が段取りをしたのですが・・・その理由は、その錬金術師殿の技術はあまりにも強力なもので、祖国の村でも禁忌となる技術をつかっていると疑われ、追放されたようです。しかし、本来は禁忌にあたる危険な技術ではなく、その錬金術師殿の技術力と創意工夫によるものなのですが、この戦争状態の両国にとって、戦況を左右するその方の技術は公にする事は出来ないと考え、私の一存で工房をあのような場所に作らせていただきました。』
戦略家『なるほど・・・確かに、隣国に渡っても困る技術ですが、正直、今の我が国の王に渡っても決して民のためにはならない技術ではありそうですね。しかし・・・多分、私と一緒に村に来ておる戦士にはこの判断の意図は理解できないかもしれません』
陰陽師『あなた様であればそのようにご判断いただけると感じておりました。そして、まだ実際に戦士殿にはお会いしておりませんが、私も同意見です。それでは早速、錬金術師殿に直接、会いに行くとしましょう・・・』と言って3人は立ち上がった・・・
【錬金術師のこだわり】
陰陽師、戦略家、武術家の3名は錬金術師のいる滝壺の裏にある鍾乳洞の工房へ向かった・・・
そこは、真夏でも涼しく、快適な温度だった・・・そして中に進んでいくと、奥から金属をたたく音が聞こえてきた。
3人はさらに奥に進むと・・・炉のそばに人影があり、周囲の壁には所狭し、と武器や防具が並べられており、そこには妖艶な輝きを見せる武器や見たことのない形の武具が揃っていた。そして、炉のそばのドアーフは一心に武器を鍛えており、3人が入って来たこともあまり気にせず、武器づくりに没頭していた・・・
錬金術師に声をかけづらい雰囲気の中、陰陽師だけはそんなことは全く気にせず、涼やかな表情で錬金術師に声をかけた。
陰陽師『錬金術師殿!そなたのお力をお借りしたい・・・少し話を聞いていただけないだろうか・・・?』と声をかけると錬金術師は驚いたように顔を上げ・・・今初めて人が入って来たのに気が付いた様子で陰陽師の顔を見ていた。
陰陽師『やはり、気が付いておられなかったようですね・・・』
錬金術師『いつ、いらっしゃったんですか・・・?申し訳ない・・・全く気が付いていませんでした・・・それに今日は珍しくお客人とご一緒とは・・・』と言って武術家と戦略家の顔を見上げていた・・・
陰陽師『そうですね・・・今日は錬金術師殿にお願いがあって参りました。実は今まで作られた武具をある村のために使わせていただけないでしょうか・・・?』
錬金術師『ある村ですか・・・?』
陰陽師『はい』と言って、盗賊に偽装した隣国の兵士がこの近くの村を制圧しようとしていることを一部始終話した。しかし、錬金術師は話が進むにつれ、渋い表情となり、話が終わるころには険しい顔になっていた・・・
陰陽師『やはり・・・気が進みませんか・・・?』
錬金術師『あぁ!気が進まない・・・いや出来れば貸したくないのが本音だ・・・』と言って憮然とした。
戦略家『割って入って申し訳ない・・・だが何とかお力をお貸しいただけないでしょうか・・・?我が国は隣国に攻められ、あの村が敵国の手に渡れば、我が国の防衛線は壊滅してしまいます・・・何卒お力を・・・』と言って錬金術師に頭を下げていた・・・
しかし、錬金術師は冷めた表情で戦略家を見つめ、こう言った・・・
錬金術師『お前たち戦争屋のそういうところが嫌いなんだ!!人が死ぬことなんか、なんとも思っちゃいないじゃないか・・・俺が何で武具を作っていると思う?それは出来るだけ人を死なせないためだ・・・より威力のある武器は相手国への牽制になる。だから、より強い武器を作り、お互いの国に渡せば、力の均衡が生まれ、戦争が減るではないか・・・?』と強い語気で戦略家に詰め寄った・・・
それを聞いていた武術家が突然話し出した・・・
武術家『俺にはお前ら2人が言っている事、どちらもわかんねぇや・・・』
戦略家『わからぬなら黙っていていただこう!!』と錬金術師に言われたことでイライラした怒りを武術家にぶつける様に言い放った・・・しかし、武術家は動じることなく続けて話し始めた・・・
武術家『俺がいってるのはそんなに国ってのが大事なのか?ってことだ・・・沢山の村があってそこに家族や仲間がいて、それを守るために戦うなら意味も分かる・・・そのために必要な武器っていうのであれば、自分たちの身を守る程度のもので十分じゃないか・・・それを国みたいな格好ばっかりでかくなっていくから、そんな何十人も何百人も殺すための武器が必要みたいな考えになんじゃないのか?』
戦略家『・・・』
錬金術師『・・・』2人は返す言葉がなかった・・・
武術家『俺はあの村で世話になったからな・・・それを守りたい・・・たったそれだけだ・・・』と言って、辺りを興味深そうに見ていた。それを聞いて、陰陽師は笑っていた・・・
陰陽師『武術家殿の言う通りですね・・・そこまで正論を解かれれば・・・というところですね。』その言葉を聞いて、戦略家は陰陽師ともうすでに遠くでこの会話に興味がなくなってウロウロしている武術家に軽く頭を下げ、改めて錬金術師にお願いした・・・
戦略家『錬金術師殿、そなたの考えていることには正直、異論はあるが・・・今、襲われそうになっている村に住む人々を守りたいというのは私も武術家殿と同じ思いです。どうか村を守る為に力を貸していただけないでしょうか・・・?』
錬金術師はそういわれると・・・断る言葉が見つからなかった・・・それに武術家の言葉は自分が強い武器を作ることで誇示してきた、自分の存在意義を根底から崩されるものであったと同時に・・・自分が罵倒した戦略家と同じ戦争屋の一人に自分自身がなってしまっていたことに気付かされてた思いだった。そして錬金術師は少し恥ずかしそうに・・・
錬金術師『すまなかった・・・俺も村の人たちが傷つく事は望んではいない・・・そのあたりにある武器なら、剣術や戦闘に慣れていない村人でも使える武具だ・・・好きにもっていってくれ・・・』
戦略家『わしもすまなかった・・・』と恥ずかしそうにあやまっていた・・・
陰陽師『お二人ともそれぐらいにして、正直時間はあまりないないと思います。それに敵の中にとても気になる人物がおります。早めにこれらの武器を村に持ち帰り、盗賊に対抗する作戦を立てるべきかと・・・』と言って2人を促していると・・・突然、武術家が錬金術師に向かって大きな声を上げた・・・
武術家『このナックル、格好いいな・・・ 持って行っていいか?』そのあまりの緊張感のなさに、3人は思わず笑っていた・・・
【盗賊のアジトの強者・・・】
村を守る一行が錬金術師の所で武器を手に入れて村に戻っているころ、村を狙っている盗賊に偽装した兵士たちも村にこの国の戦士が居座っている事に気が付いていた・・・
どうも、王都から来ているのはこの戦士だけの様で、戦力不足を補うために、村人を訓練しているという情報をつかんでいた・・・その情報を手に入れた兵士長は、村に見張りを立て、警戒を強めていた・・・
兵士長『正直、戦士1人が派遣されているのは違和感がある・・・隣国の王の無能ぶりから考えるとこの村が戦略的なキーになっていることに気が付いていない可能性はあるが、それならば、誰も派遣しないという事になる。あの戦士の単独行動だとしても、少し、不自然すぎると違和感を覚えていた・・・』
兵士『兵士長殿、些細な内容なので報告するか迷ったのですが・・・先日まで村をうろついていた武術家風情の男がここ2~3日、姿が見えないようです。』
兵士長『やはりな・・・あの戦士どもは俺たちの存在に気が付いてる可能性が高いな・・・急ぎ、本国へ伝令を出し、2日後に敵の王都に総攻撃をかける様に依頼をかけろ・・・そして、我々もその時同時にあの村を落としにかかるぞ!!』と言って、手元に置いてあった弓を手に取りアジトの洞窟の外へ出た。
そして、空目掛けて弓を力いっぱいつがえ、ヒョーと矢を放つとものすごい勢いで太陽に向かって飛んで行った・・・そしてしばらくすると、先程、放った矢が落ちてきた・・・するとその矢には一羽のトンビが刺さっていた・・・
兵士長『お前たち!!いよいよ、明後日の夜、村に夜襲をかけるぞ!!これが終われば家族のもとに帰れるぞ!!たとえ戦闘を知らない村人だとしても、決して、甘く見るなよ!!侮った時点で命がなくなると思って一切、気を抜くな!!わかったな!!』
兵士『『『おぉ!』』』と兵士たちは雄叫びをあげた・・・
【陰陽師の作戦】
陰陽師は武器を持って帰る際にある作戦を立てていた。
その作戦は先に武術家と戦略家だけを村に戻し、陰陽師と錬金術師とで船に乗り、川を下って村の後方から崖伝いに村へ武器を運び込む作戦だった・・・
陰陽師は敵の兵士長が戦略に長け、村に残っている戦士の動きから、村を襲うタイミングを早めると考えていた。そしてその読みは的中した。錬金術師の武器を手に入れたとしても、戦闘に長けている兵士に戦闘未経験の村人が対抗できるわけがない・・・そのため、まずは、武力的に劣る事をイメージさせるために、何も持っていない武術家と戦略家を先に村へ戻ってもらったのだ。
そして、陰陽師はもう一つ危惧することがあった・・・それは敵の兵士長の弓の実力だ・・・以前放っておいた式神から得た情報では400m以上離れた獲物を射貫く実力があるようだった・・・そのため、陰陽師は戦略家にある秘策を行うため、村に戻る途中あるものを手に入れて帰るように頼んでいた・・・
そして、武術家と戦略家が村に戻った次の日の夜、盗賊たちは村から森を抜ける唯一の道を封鎖し、村人たちを一人も逃さないよう、そこに陣を張った・・・
村の様子は、村人たちは完全に寝静まり、静まり返っていた・・・
そして、盗賊の密偵が夜中に一人で歩いている男を発見し、騒がれる前にと考え、襲い掛かろうと背後に回り込むと、突然、腹に衝撃が走り、後ろに吹っ飛ばされていた。
武術家『後ろから襲うんだったら、もっと、ちゃんと気配を消さないとな~、村に入るあたりからバレバレだったぞ。』と笑っていた。密偵はすぐに立ち上がり、体制を整え、武術家に襲い掛かろうと持っていたナイフを拾い上げ、ものすごいスピードで襲い掛かった。しかし、そこには武術家はおらず、振り下ろしたナイフは空を切ったと同時に今度は後頭部に強い衝撃を受け地面に叩きつけられた・・・そして、ナイフを持った手は大きな足で踏まれ、ナイフから手を離すと、遠くにナイフは蹴り飛ばされた。その隙に密偵は立ち上がり、武術家の膝辺り目掛けて強いローキックを繰り出したが、またしても空を切り、今度はこめかみ辺りに蹴りが飛んできて完全に気絶した。
武術家『殺気が強すぎて、攻撃が単純すぎるんだよな・・・』とブツブツ言いながら、その密偵を気に縛り付けていた。
そして、その近くで武術家の伝令役をかって出た村の少年に声をかけ、戦略家の旦那に始まったぞと伝える様に合図を送った・・・
【盗賊の攻撃】
兵士長は苛立っていた・・・密偵が帰って来ない事にだ・・・戦士と年老いた老兵、そして武術家っぽいなりをした多少実力の在りそうな男、村で戦えそうなものはこの3人ぐらいしかいないという事は分かっていた。しかし、自分たちが村を襲うタイミングまで掴まれている訳はないと高をくくっていた。
実際に密偵が戻ってこない事を考えると情報は漏れていると考えた方がいいと考えを改めていた。正直、裏切り者がいるとは考えにくく、裏切るメリットも考えにくい。認めたくはないが、あの村に俺たちの上を行く情報収集能力を持った者がいるという事だろう。
兵士長『怪しいのはあの老兵か・・・想像するに戦略家ってところか・・・まあいい。戦略家一人いたところで戦力になる人間が2人だけというのは変わりない・・・少し、作戦を軌道修正すれば問題ないだろう』と一人つぶやきながら頭の中で状況を整理していた・・・
そして、直ぐに、副兵長を呼び、作戦が露呈しているため、作戦を変更して、夜襲ではなく、火矢を打ち込み、火責めすることを命令した。
そして、直ぐに矢を射る音が聞こえるとあたりが急激に明るくなり始めた・・・
【戦略家の作戦】
戦略家は村に戻って、すぐさま、村人へ縄梯子を数本用意させた。そして、村長に予測では明日、盗賊は村を襲うであろうことと、村が盗賊の手で家々が焼かれる事を伝えた。
最初、村長は狼狽えてどうすればいいかわからず、頭を抱えていたが、少し、落ち着いたところで戦略家は村長へ今回の作戦を話し出した・・・
戦略家『この戦いで誰も何も失わないという選択は不可能だと感じている。その中で、私が優先すべきものと考えたのは村人の命に他ならない。家財を焼かれ、豊かな農地を踏みにじられる事はどれほど辛い事かは兵士である私にも想像に難くはないことだ。しかし、村人さえ、生き残れれば再建も可能だとも思っている。矛盾しているように聞こえるが・・・村長、村を守るために、村を捨ててくれないか?』と言って頭を下げていた・・・
戦略家に言われるまでもなく、そんな事は分かっていた・・・わかっていたが自分が生まれ育った村が壊されていくのを黙ってみていられなかった・・・そして、戦略家に尋ねた・・・
村長『我々の生まれ育った村だ。あなた方には愛着はなくても、村の風景すべてが我々にとって大事なものなのです。あなた様の言っている事はよくわかります。しかし・・・』と言いかけた時、戦略家が割って話しかけようとするのを決意の籠った目で制し、こう続けた・・・
村長『我々の村です。あなた方だけに守らすわけにはいきません。私たちも戦います。戦える、若い者はこちらで選抜しますので我々にも村を守らせてください。』と言って頭を下げていた・・・
戦略家『・・・』と言葉に詰まったが、一呼吸おいて、話始めた・・・
戦略家『その言葉、感謝します。本来、我が王国の兵士が命を賭して戦うべきところ・・・いや、そんな感慨に耽っている場合ではないですね。ありがたくそのお気持ち活かさせていただきます。我々が考えている作戦はこうです・・・』と言って村長に作戦を説明し始めた・・・
【盗賊の侵入と戦士と武術家の応戦】
盗賊による火責めが始まった・・・
一見すると村が燃えているように見えていたが、実際には村の入り口付近の家しか燃えていなかった・・・あたりが暗くなり始めたころ、村では村人たちの手でしっかり水分で湿らせた薪を高く並べ防災壁を作っていた。そしてその壁に杉や松の葉が付いたままの枝を並べ、煙が多く出るような仕掛けを作っていた。
そして、火の手が上がると、あたり一帯で鐘を鳴らし、あたかも村が騒然としている様子を演出して見せた。
盗賊の陣営からは高く煙が上がり、騒然とした村の様子から、いかにも火責めが成功したように映っていた・・・
その様子を見て、副兵長は突撃の合図を出し、一斉に村へと奇襲をかけた。
副兵長は村へ突入した途端、異変に気が付いた。しかし、その時はすでに遅かった・・・
隠れていた若い村人たちは昼間に到着していた錬金術師の作った武器である爆裂球を兵士目掛けて投げ始めた・・・その音に驚いた馬は暴れ出し、副兵長の一団は統率を失い、そこ目掛けて投げ入れられる爆裂球の餌食になっていった。そして、最初の爆裂球の音で馬から振り落とされたものの、すぐさま体制を整えると目の前に立っていた、武術家に向かって剣を構えた・・・
そして、副兵長の一団のしんがりでは戦士が爆裂球の音に驚いて落馬する盗賊たちを切り倒し、先方の副兵長の一団をほぼ殲滅していた。
1人になった副兵長は後方の仲間たちの気配が消えていく事を認識し、覚悟を決めていた・・・
そして、武術家に向かって一撃を加えようと上段の構えから大きく剣を振り下ろし、その勢いを右足で踏ん張り、左足を大きく一歩踏み出して、下から剣先を返す、得意技を繰り出した。
この技は上からの攻撃で目線を映した際、死角となる下部より攻撃を繰り出す技で、一度目を避けられたとしても2撃目の攻撃は避けられたことはなかった・・・しかし、1度目は空を切った剣を返す際、剣先が何かにあたって止まった。
見ると、武術家の拳で剣先が止まっていた・・・
副兵長『そんなバカな・・・』と言って後ろへ飛びのき、再び剣を構え直した・・・
武術家『いや~今のは危なかった・・・錬金術師の旦那にこれを貰ってなかったら、危なかったぜ・・・』と言って拳にはめたナックルを見せて笑っていた。そして、今度は俺から行くぞと言わんばかりに構えを整えると一瞬で副兵長の懐に潜り込み、鳩尾あたりに一撃を与えていた。
副兵長は腹部に強い衝撃を受け、思わず膝をついていた。しかし、すぐさま、2撃目が来ると悟り、横へ飛びのき、武術家の拳を交わしていいた。それを見て武術家は楽しそうに・・・
武術家『戦いはこうでなくっちゃ、面白くないよな!』と何か楽しそうにして笑っていた。
副兵長は次で決めないとこっちがやられるという事を悟っていた。明らかに戦闘経験が違いすぎた・・・戦場では多くの敵を倒してきたし、1対1での剣術勝負なら何度も経験してきたが、これほど、実力に差がある人間と本気で戦う事はなかった。
そして、今まで戦場で戦ってきたときに感じる恐怖心と高揚感の合わさった何とも言えない感覚とは全く違う感情を感じていた・・・それは、純粋な恐怖だった・・・剣を握る手が汗ばみ、背中にひんやりとした何とも言えない感覚だった。そして、この死地に至った状況で笑っている敵に対し、畏怖という言葉でしか表現できない恐ろしさを感じていた。
副兵長はそんな感覚の中、相手の隙を見逃さないように構えた。一見、無防備に見える武術家だが隙が全く見当たらなかった。そして、武術家がゆっくり近づいてきて、剣の間合いに入ったと同時に上段の構えから剣を振り下ろし、返す刃で下から上に切り返した・・・しかし、2撃目も空を切った・・・そして、武術家の姿を確認する暇もなく、顎へ強い衝撃が走った・・・
顎にヒットした拳は副兵長を気絶させるのに十分な衝撃を与えていた。
武術家『なんで、同じ技にしたんだよ・・・太刀筋が一緒だから、避けられるって考えなかったのかな~・・・はぁ~もう少し楽しめると思ったのに・・・』とブツブツ言っている武術家を横目に、縄で伸びている副兵長を戦士は木に縛り付けていた。
【兵士長の猛攻】
兵士長は副兵長から伝令すら帰ってこない状況から、自分自身が予測していたよりも想定外の事態が起こっていると感じていた・・・副兵長がそんな簡単にやられるとは考えにくいが伝令が帰ってこない事を考えるとやられたと考えるべきだろう・・・副兵長とは長い付き合いだったが、こんな事で取り乱している場合ではないと気持ちを落ち着かせて、作戦の立て直しと状況把握を優先した。
兵士長『やはり、何かおかしい・・・村は燃え、圧倒的にこちらが有利な状況だ・・・何か見落としているのか・・・』と考えを巡らせ、直ぐに密偵役の兵士を呼び寄せた。
兵士長『少し、村の様子を見てこい!!ただし、絶対に戦闘はせずに状況だけを確認して戻ってこいいいな!!仲間が捕まっていても助けずにだ・・・』と言い終わる前に密偵役の男は素早く走り去った・・・
次に特殊工作を得意とする兵士数名を呼び寄せ、森の木を使って投石の準備、同時にわら球と燃える水を用意させ、石と燃える水がたっぷりしみ込んだわら球を次々と村へ打ち込んでいった。
その後、次々と火矢を打ち込み、あっという間に村は火の海と化した・・・
そして、戻ってきた密偵の報告によると、先陣で突入した副兵長の舞台は全員、捕縛もしくは死亡しており、やたらに強い武術家風の男と戦士が主力で村人数名が武器を持って応戦していたという内容だった・・・
兵士長はまだ何か重要なピースが足りていない感覚がぬぐえなかった・・・武術家と戦士の実力が相当なものだとしても、単なる農民である村人を統率する能力はないとみていた。
ならば・・・戦士と一緒にいたおいぼれは戦略家ってところか・・・つまり俺が今行っている火責めも、あいつらにとってはある程度、想定済みって可能性が高いな・・・
それならば、あいつらの後ろは崖で逃げるすべはないはずだ・・・徹底的に焼き払ってやる・・・
その頃、奥の崖では・・・村の女子供を縄梯子でおろし、停泊させていた船に乗せ、順番に脱出の段取りを陰陽師が指揮していた・・・
一方、村の中央では戦略家が火責めに備え、戦闘にあたっていた村人を崖まで避難させようと誘導していた・・・しかし、戦略家の予測よりも早く、村の火責めが始まった。
戦略家『まずいな・・・もう始まってしまったか・・・そのわら球には絶対に近づく・・・』と言い終わらないうちにものすごい勢いでわら球が燃え始めた・・・
戦略家『崖まで走れ!!後ろを振り返るな!!一気に燃え広がるぞ!!』と叫んで村人を走らせた。しかし、盗賊から投げ込まれたわら球や石を避けながら、燃え広がる火の中、村人を安全に崖まで誘導するのは厳しかった・・・戦略家はこの状況を打開する方法を必死で考えた・・・そして、叫んだ・・・
戦略家『このままでは崖まで間に合わない・・・村の入り口に向かえ!!』戦略家は村の入り口には戦士と武術家がいる。そして、村の入り口は敵が攻め込むためのルートを確保しているはず、火の回りがこの場所よりも幾分かマシなはずだと考えた。
戦略家『後はあの者たちの実力に任せるしかないな・・・』と言って、戦略家は燃え盛る火の中を崖に向かって走り出した・・・
【守るものがある本当の強さ】
戦士『おい!奥から村人が戻って来たぞ!!』と戦士は武術家に向かって叫んでいた。
武術家『あれだけ、火が回っていたら、戻ってくるしかないか・・・流石、戦略家の旦那だ・・・つまり、俺たちがここを死守しなければ、全員死ぬってことだな・・・』と言って指と首をコキコキと鳴らした。
戦士『あなたはこの状況を楽しんでいるんですか!!村人の命がかかっているんですよ!!』
武術家『そんな熱くなるな・・・もちろんわかっているさ!!だが、この状況で頼れるのはおのれ自身しかいないじゃないか・・・全員が力を出し切れば、おのずと活路は見出せるさ!!』とこの状況でも武術家は笑っていた。
戦士は笑っている武術家を見て少し呆れたが・・・武術家が言わんとすることは理解できた。
戦士『うぉ~!!』と叫んで気合を入れ直し、『俺は村人を守りますから、出来るだけ入ってくる敵を防いでください』
武術家『ああ、任せておけ!!』と言うと同時に、前から地響きと共に馬の蹄の音が近づいてきた。
武術家『来やがったな・・・ちゃんと楽しませてくれよ!』と言って村の入り口に向けて走り出した
戦士はそれを見て、村人を防災壁の陰に隠れる様に指示し、武術家が防ぎきれなかった場合に備えて体制を整えた・・・
一方、村の表に出た武術家に向けて盗賊に扮した兵士が殺到していた・・・武術家は剣や弓の攻撃をかわしつつ、兵士どもをなぎ倒していた・・・武術家の拳や蹴りは的確に兵士の急所をとらえ、次々と兵士は倒れていった・・・しかし、全速で駆け抜ける馬は防ぎきれず、騎馬兵は村の中へと入り込んでいった・・・
武術家『くそ!!あれは間に合わないか・・・頼んだぞ、戦士の兄ちゃん!!』とつぶやいていた・・・そして、武術家は今までにない殺気を感じ、身をかわした・・・そこを矢が通過した・・・
武術家『今のはちょっとやばかったな・・・』と大きな声で笑いながら言ってのけると続けて『あんた!!中々、強そうだな!!今の弓は中々いい腕だ・・・』と兵士たちの一番しんがりで弓を構える兵士長へ向かって叫んでいた。
その言葉に応える様に兵士長は2本の弓をつがえ、武術家目掛けて放った・・・
武術家は同時に放たれた弓を1本は素手でつかみ取り、もう1本は寸でのところで交わした・・・
しかし、交わしたと思っていた矢は武術家の頬をかすめて、うっすらと血がにじんでいた・・・
矢がかすめたことなど気にせず、武術家は前に向かって走り出し、兵士長が次の矢を射る前に距離を詰めていた・・・
だが、兵士長の弓をつがえて放つスピードの方が勝っており、武術家の足に矢が刺さった・・・
しかし、それをものともせず、武術家は走りながら足に刺さった矢を抜き取り、兵士長との距離を詰め、またがっている馬の急所に一撃を加え、失神させて、兵士長を馬から引きずり下ろした・・・
兵士長は素早く、剣を構え、武術家との距離をとったがスピードのある拳の応酬に防戦を強いられていいた・・・
だが、その拳の応酬は長くは続かなかった・・・明らかに武術家のスピードが落ちてきていた・・・そのタイミング見逃さず、兵士長は武術家の腹目掛けて蹴りを繰り出した・・・
普段の武術家なら避けられない蹴りではなかったが・・・先程とは明らかに様子がおかしかった・・・
兵士長『やっと効いてきたな・・・あんた、だいぶ化け物じみてるな・・・俺様特製の即効性のしびれ薬なんだぜ。効いてないかと、ちょっと焦ったぜ!!』
武術家『やっぱり、毒矢か・・・思っていた通りだったが、ちょっと油断しちまったな・・・でも、丁度いいハンデだ・・・』と言ってはいるが、少し、息が上がっていた・・・
兵士長『言ってくれるね~ハンデとは・・・ならお言葉に甘えて、遠慮なくいかせてもらうぜ!!』と言って、兵士長は武術家へ素早い突きの連続攻撃を仕掛けた・・・
武術家はその突きを避けるのがやっとで防戦一方になり、そして、徐々に剣を避けきれず、全身を剣先が掠り至る所、血がにじんでいた・・・
兵士長『さぁ!!どうした!!もう終わりか・・・村を守る英雄さんよ!!』と言って、武術家を追い込んでいった。
武術家は決して一方的にやられているわけではなかった・・・兵士長の太刀筋を見極めていたのだ、そして兵士長が油断した一瞬を見逃さなかった・・・
それまで、左右に避けていた剣を仰け反った形で避け、その勢いを使って兵士長の剣を蹴り上げた・・・流石の兵士長も突然の蹴りには反応が出来ず、剣は上空へと飛んで行った。そして、その手放した剣に気を取られている隙に右わき腹に強い衝撃を受け吹っ飛ばされていた・・・
兵士長はすぐさま、体制を整えようとしたが、武術家のスピードの方が勝っていた・・・体制を整える間も無く、こめかみに強い衝撃を受け失神していた・・・
一方、村人を守っている戦士の元に十数名の騎馬隊が殺到し、戦士は必死に戦っていた・・・しかし、もう防ぎきれないところまで追い込まれ、覚悟を決めかけた時、村の奥から数本の矢が飛んできて、盗賊に扮した兵士たちを射貫いていた・・・
戦略家『危ないところだった・・・ギリギリ間に合ったな・・・だが、まだのんびりしてられんぞ!!今のうちに村人たちを非難させるぞ!!』と言って振り向くと、突然、燃えている村の奥から現れた乗物より陰陽師と錬金術師が降りてきた・・・
戦士『その乗り物はなんですか・・・?なぜ、馬や人が引いていないのにうごいているんですか?』
戦略家『あれは錬金術師が作ったからくり車だそうだ・・・まあ、詳しい話はあとだ!!まずは村人を守るのが先だ!!』と言ってその自動で動く奇妙な乗物に村人を誘導し、のせていった。
【盗賊による最後の攻撃】
武術家は遠くから村に向かってくる馬の蹄の音を遠のく意識の中、聞いていた・・・
武術家『やっぱり、あれで終わりってわけじゃないよな・・・流石にあれだけ動いたら毒も回るのが早いな・・・』と近くの木に体を預け、独りごちりながら、倒れている兵士長をぼんやり眺めていた・・・
そろそろ・・・と思い、体を起こそうとすると、村の方から馬に跨った戦士が走ってきた・・・
武術家『どうした・・・なんで来た・・・俺が時間を稼いでいる間に、陰陽師と戦略家の旦那が上手くやってくれていたはずだ・・・なんでお前だけ逃げてない・・・』少し苦しそうにしながらも戦士に笑いながら言った・・・
戦士『あんたが強いのはよくわかっているさ・・・それにこんな事ぐらいでくたばるわけないこともな・・・ただ、あんたばっかりいい格好させる訳いかないからな・・・弱ってるあんたを助けりゃ、それなりにあんたに恩を売れると思ってな・・・』と気恥ずかしそうに笑っていた・・・
武術家『まあいいさ・・・そういう事なら、甘えて助けてもらう事にするか・・・で・・・あの遠くで聞こえる大軍を追い返す秘策はあるのか・・・?』というと戦士は・・・馬の背中に乗せている赤い花を見せた
武術家『それは、陰陽師の旦那が戦略家の爺さんに頼んで集めさせていた花だろう?そんなもん何に使うんだ?』と不思議な顔をして尋ねると・・・
戦士『これは夾竹桃と言って毒のある花だ・・・この枝を燃やすと眩暈や体の倦怠感を引き起こす・・・森は風下だから、この村の入り口付近で燃やせば、足止めぐらいにはなるってこと・・・らしい・・・』
武術家『らしい・・・ってなんだよ・・・どうせ、陰陽師の旦那の受け売りだろ・・・まあいいや・・・それより、そこに倒れている兵士長って言ったっけな・・・そいつはちゃんと縛っておいてくれよ・・・』
戦士『ああ、わかっているさ・・・こいつの事はよく知っている・・・』と言って兵士長をにらんでいた・・・
武術家『なんだ、知り合いか?』
戦士『ああ、知っている・・・向こうは知らないだろうがな・・・』と苦い表情を浮かべている戦士を見て、武術家はそれ以上聞かなかった・・・
武術家『それより、あんまり時間がないぞ・・・急いで用意して立ち去ろう!!もう俺も戦う気力は残ってないからな・・・』と言って、木にもたれていた体を起こした。
そして戦士は素早く、夾竹桃の束と薪をおろし、村の入り口に積み上げ、武術家を馬の背に乗せた。その後、馬の背に跨り、夾竹桃を仕込んだ薪目掛けて振り向き様に火矢を放ち、村の奥へと全速力で走り去った・・・
武術家は走り去る馬の背で戦士に遠のく意識の中、体を預けながら、その様子をぼんやりと感じていた・・・
【奪われた村の奪還】
戦士と武術家が村を脱出したころ、夾竹桃の毒から難を逃れた兵士達が村に入り、多大な被害を出しながらも村を制圧するという目的は達成した。
しかし、死者や負傷している兵士の数を考えると、とても勝ったとは言えないような状況だった・・・
兵士長もこめかみに受けた一撃が思いのほか効いているらしく、意識が戻った今も体を起こすことが出来なかった。
そして、怒涛の夜が明けた。
疲れ果てた兵士たちは制圧した村で激戦の疲れを癒そうと多くの者が深い眠りについていた・・・
その為、村に流れ込んでいる川の水が極端に少なっていたこと、そして、すでに川上から轟音が鳴り響いてきていたことなど気付くことなく、村諸共に兵士たちは濁流にのみ込まれていった・・・
急に川が氾濫した理由は陰陽師と錬金術師が一定の時間が経つと決壊するよう、川をせき止めていたのだ・・・
それからしばらくして、真夜中の自然災害にも関わらず、村人全員が無事であった事から、その村は奇跡の村と呼ばれるようになっていた・・・
当初、村人たちの中にはこの村を救った英雄たちがいたことを話し、奇跡なんかではなく彼らの功績を広めようと話すものもいた・・・しかし、盗賊に扮した部隊を敵国に侵入させ、領土を奪おうとした行為を到底、隣国が認める訳もなく、また、そんな失態を王国すら認めようとするはずもなかった・・・そして奇跡が起こった村という噂の方がドラマチックで面白く、事実はどんどんと黙殺されていった・・・
そして、その事で、国中の注目がこの奇跡の村へ集まり、隣国も無暗に手出しできなくなっていった・・・
数年後、かつて奇跡が起こった村は平和な日常を取り戻し、肥沃な土地と周囲の崖に守られ、そんな被害もあった事すら思い出すものも少なくなっていった。
この平和な村の村長は子供たちにある物語を話して聞かせるのが好きだった・・・
盗賊から村を救った英雄たちの物語・・・そして、そこに登場する戦士、戦略家、陰陽師、錬金術師の名前は誰もわからないと話していた・・・ただ、村長が語る英雄譚では、とてつもなく強く、そして優しさに満ちた武術家だけを名前で呼んでいたそうだ・・・
それから、長い年月が経ち、この村で奇跡が起こったという噂さえされなくなったころ、この英雄たちの話がこの地域で多く語り継がれるようになっていた・・・
それは真実なのか物語なのか今となっては分からない・・・遠い昔の名もなき英雄たちの物語・・・