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狼王の国シリーズ

腰掛け女騎士は、狼王の婚約者選びが早く終わる事を強く願う

作者: 関谷 れい

「きゃあああっ!!ば、化け物……っっ!!」


聞こえてきた悲鳴に、びくりと肩が震えた。

まだ落ちてこようとする瞼を必死で持ち上げ、扉の前で背筋を伸ばす。

バタバタバタ!と慌てた様な足音が次第に大きくなり、扉が大きく開いて、廊下で待機していた私は大袈裟に肩を落とした。


……てか、殿下の部屋の扉、結構な重たさがあるのにあんなか弱そうな細腕で軽々しく開けるなんて、ある意味凄技だわな。


そんな事を思いながら、扉から出てきた蒼白な顔色の高貴な女人に、用意していたブランケットを肩からフワリと羽織らせる。

そのまま、彼女専用に用意していた客間まで何も言わずに付き添い、カタカタと震える彼女の侍女に後を頼むと、私は主人の元へと戻った。


「……また追い出しやがって、クソ殿下め……っっ!!」


今回の妃候補は、前の二人に比べて時間的に長かったから、いけたかと思ったのに。

ギリギリと歯を食い縛る。

クソ!殿下の妃候補がなかなか決まらないせいで、私の婚期まで遅れるじゃないか!!


一言文句を言わずにはいられない。

私と殿下の間には、そりゃもう山脈並みの身分差があるのだが、そんなもの二人きりの時にはひょいと飛び越えるのが常である。

殿下にも私にも、お互いの出会い方からしてそんなものを意識する相手ではなかったからだ。


「イディム殿下!いい加減にして下さいっっ!!今度は何が気に食わなかったんですか!!」

バターン!と扉を開けて、ズカズカと主人たる人の部屋に殴り込む。いや、話し合いをしに行く。マジで殴りたいけど、一応この国の第一王子だし、我慢我慢。



「ん?この姿になったら向こうが勝手に出てっただけだけど?」

悪びれる様子もない殿下は、立てば二メートルにもなりそうなもふもふ銀狼の姿でベッドに寝そべり、立派すぎる犬歯を見せながらアクビをしていた。




***




私とイディム殿下は腐れ縁だ。


騎士隊長なんかを生業とする父の仕事場に兄達と遊びに行き、瞳を輝かせて見学する兄達と違って直ぐ様飽きた私は、訓練所を出て鬱蒼と木々が生い茂る王城の裏の森でターザンごっこをして遊んでいた。

立派な蔦あったら誰でもやるよね、ターザンごっこ。


で、その時私は一匹の犬と出会った。

因みに我が家は大型犬を10匹程飼うような愛犬家だったりするもんで。

突如現れたそれ(・・)を大型犬だと思い込んだ私は、自分と同じ位の大きさの狼に恐怖を覚える事もなく、その犬と遊びたいが為に執拗にその犬を追いかけ回した。

そして仕方なく相手をしてくれた犬とその日1日お馬さんごっこで走り回って遊んだ。まぁ、走り回ったのは犬だが。


出会いは、そんな単純なもの。


この国の国旗(シンボル)に狼が描かれている理由も、王家にはたまに先祖返りする子供が生まれる事も、そしてたまたま現第一王子が先祖返りした事も、ひっそりと王城の裏にある隔離された塔で過ごしていた事も、何も知らない単なる伯爵家の小娘、それが私だった。


そして私は、その大型犬が大層気に入った。

何故ならば、我が家の犬どもの序列で私は最下位で相手にして貰えなかったのに対し、その犬はまるで人の話がわかるかの如く、遊んでくれたからである。


で、私は父の仕事場に遊びに行く度、人目を盗んでその大型犬に会いに……構い倒しに行った。


代々武功を立てる事で、政治に関わらずとも他家に舐められずになんとかやっている我が家では、そのうち兄達も当然の様に騎士となり。

私は全く騎士の才能がなかったので、正直別口のあてはないかと嫁ぎ先を父母に打診してみたら、見事に求婚がこなかった、という悲しい現実にぶち当たる。


や、自分で言うのもなんだが顔もスタイルも悪くない、筈なんだよ!?

身長がっ!身長が高すぎるだけでっっ!!因みに我が国の女性の平均が150センチに対して、170センチ程である。……本当は174.9センチだけど、きりよく四捨五入してみた。


で、嫁ぎ先もなし他の仕事もないので、仕方なく女騎士になった。

立派な七光りである。父よ、兄達よ、ありがとう。

騎士と言えば、男所帯。女騎士は、意外とそんな屈強な男達に貰われたりもするらしい。

という訳で、腰掛けの女騎士として娶られる気満々で今に至るのだ。

だが、待てども待てども待てども求婚はなく。腰掛けにしては、騎士の 任務(しごと)は非常に厳しいものだった。


……という愚痴を、馴染みの王城裏の大型犬に愚痴っていた。

まぁ、その頃には大型犬というレベルを越えた大型になってたんで、そろそろ「あれ?これ犬じゃなくね?」とは気付きつつあったが、それでも(いぬ)さんと呼んでいたんでそのままだった。


「犬さん、騎士は辛いわー、脳筋じゃなきゃ無理だわー、そもそも周りの男、どう考えてもMっ気ありまくりだわー、あの修練とか付き合えないわー」

いつもペロペロ舐めて慰めてくれる犬さんは、こう答えた。

「じゃあ、俺の侍女募集中なんだけど、どうだ?」

と。因みにこの身長のせいで、過去に侍女面接自体却下されていた。身長制限なんてない筈なのにっっ!おかしいなぁ!!

「あー、それ良いわー、犬さん相手なら気楽だわー、てか、今誰が何言った?」

犬さんが話す訳ない、そう思ってキョロキョロと辺りを伺う。

「俺だ、俺」

「おう、なんだやっぱり犬さんか」

「俺の侍女、最近歳で亡くなったんだよ」

「そっか、それは辛いねぇ、ええ?」

「だから、侍女兼騎士って事で、俺に仕えろよ」

「おっふ……ちょい待てちょい待て。ひとまず……幻覚?幻聴?」

狼狽えていると、がぷ、と顔を甘噛みされた。

犬さんの喉ちんこ発見。……じゃなくて!頭と顎に歯が当たってますがな。

「ひど!ひど!他に夢じゃないよ~ってお知らせする方法はいくらでもあるよね!?仮にもレディの顔!!」

「傷一つ付けてねーだろが」

「涎がついたわっ!!」

「……気にするところは、そこかい」

犬さんが半眼になり、呆れてますよ~アピールし出す。

何この犬。人間様を馬鹿にしおって!


「侍女兼騎士かぁ……」

「騎士と言っても、お前の腕の悪さはわかってる。だから、身の回りの世話係とでも思っておけばいいよ」

「おっふ……」

腕の悪さとは何て言いぐさなんだ、と文句を言う前に想像してみる。

下半身を鍛える為の過酷な人間馬車引きレースや、上半身を鍛える為の岩石持ち上げ耐久レースや、熱さに強くなる為の火渡りと呼ばれるイベントや、寒さに強くなる為の極寒登山慣行イベントのない生活。


……考えるまでもなくね?

「はい喜んでぇ!!」

そしてその日から私は、犬さん改め狼さん改め第一王子であらせられるイディム殿下に仕える事となったのである。




***




「……ちょいとレオナ、事情を確認したい」

私が犬さんに「はい喜んでぇ」をした翌日、私は父に呼ばれた。

で、犬さんの正体を知ったのだ。

父は頭を抱えていたが、第一王子が先祖返りをしている時点で、王位継承権は後回しとなり第二王子が一番となるらしいので、まぁ酷い勢力争いに巻き込まれてゴタゴタはしないだろうしいっかー、という結論に至った。第三王子もいる事だし。

父は私に似て、かなりおおざっぱでなんとかなるさ主義だ。


その時、私も父も、まさか第二王子や第三王子が流行り病で呆気なくお亡くなりになる事等、想像もしていなかったのである。


で、私がイディム殿下の毛並みを整えたり、食事を出したり、ともかく身の回りの事全て引き受けながらも騎士だった時とは真逆の平和な悠々自適生活を送っている時に第二王子と第三王子が揃ってお亡くなりになるという、国家の存亡に関わる大事件が起きた。


その為イディム殿下は久しぶりに王城に呼ばれ、妃を貰い受ける事と、急ぎ子供を為す事を急務と課せられた。因みに、その時のイディム殿下の後ろ姿を見るに、人型だったら鼻でもほじりながら話を聞いてるんだろうなって位のかったるさ満載だった。ま、私がイディム殿下だったとしても、同じ反応したかもしれない。


イディム殿下をずーっと日陰に追いやってた人が、自分のピンチになるなり掌返して虐げ続けた相手に助けてくれとお願いするのって、モヤモヤするし納得出来ない。


で、イディム殿下が退場する際に私も去ろうとしたら、陛下に呼び止められてぎょっとした。

国の王が、単なる伯爵家出身の騎士崩れの侍女を呼び止めるとか、あり得ない。思わず私の脳内を能力(エスパー)で読んだ王が断罪するのかと思って、寿命が縮まった。絶対一時間位縮まった。返せ一時間。


「イディムが無事に妃を娶ったならば、主にもそれなりの相手を身繕って婚姻を成立させよう」

王が言うのを要約すると、私の結婚相手を王命で決めてやるから、妃探しを手伝えよ、とな?

私は勿論元気良く答えたさ。

「はい喜んでぇ!!」




***




(レオナ)6歳、犬と出会う。

(レオナ)15歳、求婚なく騎士になる。

(レオナ)17歳、犬じゃなくて狼のお世話係になる。

(レオナ)18歳、狼じゃなくて第一王子の妃探しに躍起になる。←いまここ


派遣されてきた妃候補は、三人目。

いや、派遣というのもおかしいけど、でも本当にそんな感じ。


一人目の妃候補……とある公爵令嬢、狼の姿で登場したイディム殿下を前に気絶で終了。どうやら予想外にでかすぎた模様。まぁ、普通の大型犬を想像してたら規格外も良いところだ。


私は反省し、二人目の妃候補にはイディム殿下はでっかい狼ですからねー、と事前に伝えておく事にした。

その二人目、狼の姿で登場したイディム殿下を前に何とか倒れずすんだものの、近寄られた際にまさかの失禁。からの、戦線離脱。


私はイディム殿下にその姿なんとかなんない?と八つ当たり。そしてまさかの、短時間なら人型も取れる事が判明。疲れるけど頑張るとの事だったので、人型でスタートする事に。勿論、三人目の妃候補にも、狼になる可能性はありますからね~、とは伝えておく。てか、人型からスタート出来るんなら一人目からそうしろよ、と思わずにはいられない。


陛下の部屋に訪れた三人目の妃候補。

最初は、良い雰囲気だったと思う。扉越しだったからわからないけど、少なくとも悲鳴は聞こえなかった。だから良い雰囲気、間違いない。


なのに……なのに!三人目の妃候補は、大型犬も飼っているし大丈夫だろうと思っていたのに!!

これで三人目も駄目だった日にゃあ、首根っこ掴まえて何が気に食わないのか吐かせてやる!!と思ってはいた。


だけど実際、眠気に負け扉の前で居眠りしたくなる程度には、三人目の妃候補は頑張ってくれた。つまり、私は淡い期待をしてしまったのだ。

よっしゃ!妃探しがやっと終わったぜ!!これで晴れて高身長すぎて行き遅れにならないか心配だった私にも(強制力ありの)春が来る~♪なんて期待をした先に、やっぱり駄目でした、なんて結末受け付けたくなかった。キャッチアンドリリースしたかったわ。




***




「イディム殿下っ!!もう誰でも良いですから、さっさと怖がらない花嫁見つけて下さいよっ!!本当にマジで頼みます!!」

鼻息荒く、イディム殿下の首の肉を揉み上げる。人間であれば襟首持って押さえつけたいところだが、大型犬……否、狼に扮した殿下にそれは出来ない。この首根っこ辺りのむにむにした(あまり)肉をむにむにするしかこの苛立ちは解消されないのだ。


むにむにむにむに。

むにむにむにむに。


あ、癒されるわー。やっぱり私が手塩にかけて整えているこの毛並み、素晴らしい手触りだわー。むにむにの弾力も申し分ない。いくら揉んでも手が疲れない程度の程好い柔らかさ。


「見つけてはいるんだがなぁ」


殿下はのんびり、首を揉まれて気持ち良さそうに天井を仰ぐ。

もっとマッサージしろと言わんばかりの態度に腹が立つが、私の耳は聞き捨てならない言葉をしっかりとキャッチしていた。


……見つけている!?狼の巨体を前にしても、怖がらない女人を既に見つけているとな!?

「見つけてるんなら、さっさと押し倒して既成事実でも作っちゃって下さい!!」


私は、正直先祖返りという存在を甘く見すぎていた。

そりゃあ、普通の女性ならば生涯の伴侶は人間が良いだろう。

いくら王子でも……いや、王子だからこそ、相手にもそれ相応の身分を必要とするのであり、そんな高貴な女性が喜んで人間の姿でない王子の元に嫁ぐか?答えはノーである。

だからこそ、先祖返りをした王族は婚約者が選定されず、王位継承権が遠退く代わりに自由を与えられるのだ。

陛下は、今まで殿下をただ放っておいたのではなく、今までの過去──先祖返りした王子の婚約者になる様無理強いされた女性が不幸な結末を迎えたとか──があったからこそ、そう言う選択しか出来なかったのかもしれない、と思い至った。



何故今更思い至ったのかと言うと、私自身は仮に旦那が狼の姿であっても全く構わないからだ。だから、普通は(・・・)嫌がる、という発想がなかった。妃候補が軒並み脱落していく中、やっと「あれ、何で気絶?何で拒否反応??」と疑問に感じてやっとたどり着いた答えだからである。



身長170センチの私を娶りたいと言う奇特な貴族がいるとは思えない。いたらとっくに嫁に行っている。だから、陛下が手を回して下さったとしても、良くて後妻だろう。下手をすれば、じいさんの介護要員かもしれぬ。

でも、それでも良い。

私を必要として、私を選んでくれるなら。

私の両親はめっちゃ仲が良くて、ずーっと夫婦というものに憧れてきた。

後妻だろうが、じいさんだろうが、狼だろうが。

お互いが相手を思いやって、楽しく寄り添って生きていけるなら。

誰からも選ばれない私に、夫婦の心地好さを教えてくれる人なら、私は全身で愛すると誓える。

だから、真っ当な貴族令嬢がイディム殿下を拒否する様は、私の目には贅沢な行為にしか見えない。


もし殿下の見つけた相手が拒否しないなら、王妃になれるよ~!権力あるよ~!って餌をぶら下げてもいいからマジで既成事実作らせたい。

無理やりにならないギリギリのレベルまで、私は喜んで暗躍(きょうりょく)しちゃいまっせ!


「でもさぁ、先祖返りの子供って、やっぱり先祖返りになる可能性が普通より高いんだってさ。そんなの、愛されない子供増やすだけじゃない?」

「……は?」

おおっと、既成事実計画に支障をきたす新事実か?

「子供が狼でも、レオナなら愛せる?」

何それ何それ何それ!!

()でまくり一択でしょう」

真顔で即答。てか、愛犬家の一員である私に、何わかりきった事を聞くんだ、殿下は。

原因不明であれば子供の不調を心配するであろうからまだしも、先祖返りという歴とした理由もあり、それが成長の妨げどころか体力体格的にも恵まれる事はわかりきっている。

ただ、重要なのは殿下の見初めた相手がそれを許容出来るかどうかで……


悪い顔をしながら思考する私の耳に、殿下の息がかかった。

「おー、じゃあ問題ないな。……よし、レオナ。お前が俺の妃だ」


もふっと。でっかい身体が被さって。


「え?は?わ!ちょっと……!」


気づけば私は、殿下のベッドに押し倒されていた。




***




「わ、ちょ、んん~っっ」

普段は顔をべろべろ舐める長く薄い舌が、私の口の端から割って入ってきて口内を占拠する。間違えて噛まない様、開いたまま固まったのを良いことに、好き勝手に暴れる舌先は一向に出ていく気配がない。

「んーっっ!!」

息がし辛くて、苦しくて、閉じた瞳の眦に涙が溜まり、頬が紅潮していくのがわかる。心臓がドクドク鳴り出して、私は初めてイディム殿下に犬……もとい、狼でなく男を感じた。


抗議の甲斐があったのか、やっとイディム殿下の長い舌が私の口から去っていく。沢山の空気がやっと吸えるのに、何故か少しの物足りない気分になる。


そっと両手で殿下の長い鼻顔に手を当てようとしたら、そこに何時もの毛並みはなく。

……ん?

思わず瞳を開けた先には、端正な美貌の男性が、こちらを瞳を細めて見詰めていた。愛されていると錯覚する様な、甘い甘いデロ甘光線を発射している。


「……どちら様?」

「……イディム様だが」


いや!銀髪だし、イディム殿下と同じ黒曜石の様な瞳だし、そりゃそうだろうがな!!ちょっと現実逃避したかったんだよ、わかってよ、こんなイケメンとは思わなかったんだよ、何でいきなり人型とってんだよ、免疫ないんだよこっちは!!


「……さっさと(いつも)の姿に戻りませんか?」

私がそういうと、目の前のイケメンは破顔一笑した。

「レオナらしいな。俺も人型は保つの面倒だから、レオナの服脱がせるまでな?」

そう言いながら、おでこにキスを落とされる。

おっふ……狼の時にもしょっちゅうやられてたデコチューなのに、人型でやられると口から砂吐きたくなるのはこれ如何に。


私がそんな事をつらつら考えている間にも、殿下はせっせと手を動かして気付けば私は丸裸にされていた。きゅきゅきゅ急展開に思考回路がついていけませぬぞよ殿下!!


私は、殿下の逞しい上半身をぐいと押して確保したスペースに何とか自分の上体を持ち上げ捩じ込んだ。ついでにシーツをぐいぐい引っ張って胸を隠す。

「ままま待たれよ殿下!この展開早くない!?」

「レオナが既成事実作れって言ったんだろーが」

「あ」

言った。言いました。

あれでも、今までの妃候補は立派な公爵令嬢やら侯爵令嬢やらだ。

ん?単なる伯爵家の娘が、この国の第一王子の妃?未来の王妃?それ無理じゃね??

首を傾げつつ、その疑問をぶつけたところ。


「陛下が出した、俺への課題は2つ。妃を見つける事と、その妃との間に子供を作る事だけだ。何処に妃の肩書きが入ってた?」

おっふ……そう言われると、確かにそんな事は一言もおっしゃっていなかった。陛下は先祖返りの伴侶選びが難航する事もわかっていたに違いないしな。


「まぁ、陛下はこうなると思ってただろうから問題ない」

「……ん?」

「俺がお前(レオナ)に懸想している事位、誰だって知っているだろうしな」

「え?じゃあ私に妃候補選びを手伝わせたのは……」

「まさか本気で探すとは陛下は思いも寄らなかっただろうな。匂わせたつもりだろうが、お前がそんな事気付く訳ないもんな」

「……お、おかしいなぁとは思いま」

「うそつけ」

うぐぐぐ。


「まぁ、お前が頑張って本当に妃候補を準備したから俺も付き合ったけど、精神的には結構寂しいものがあったぞ」

イケメンが半眼で呆れた視線を送ってくる。

あ、これよくイディム殿下(おおかみ)がやるやつだ!


「……さ、お話はもうおしまいだ」

気付けば私は丸裸にされ、した当人はさっさと狼型に戻っている。

恐るべし変身スピード!!いつの間に!イッツマジック!

……沸き上がる羞恥心を何とかしたくて、見慣れたふわふわの頭を抱き抱える様にし、狼の視線を遮る。


「……本当に私で良いんですか?」

「お前がいい。……駄目か?」


無理だと言ったら尻尾がしゅんと下がるのだろう口調で聞かれれば、こちらは頷くしかなくて。ゆっくり頷いたら、イディム殿下は尻尾を激しくバタバタとめちゃくちゃに動き回した。


「……レオナ、レオナ……」

殿下は私の頬を舐め回すたび、パタパタっと、イディム殿下の舌先から滴る唾液に、マーキングされたように感じて嬉しく思う私は、きっともう、そういう事なのだろう。



私の両手の横で、殿下自身の身体を支える太くがっしりとした前足がある事に気付く。

そっとその前足に、外側から自分の掌を重ねた。

私の人生と、イディム殿下の人生が重なり合う様、願いを込めて。




***




──こうして私達は、イディム殿下の婚約者選びが無事に終わった事を、翌日に陛下へ報告をした。


やっとくっついたか、という含みを持たせた生暖かい視線と祝福を感じつつ、私は自分を選んでくれた狼王の隣で幸せを噛み締めたのだった。










数ある作品の中から発掘&お読み頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  素敵なお話をありがとうございました。  二人からの報告をもらって、生暖かい視線を送る陛下にも、「おめでとうございます」の言葉を贈りたいです。     ありがとうございました。
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