番外編 識庫さんの苦悩。
活動報告で「おまけ」として載せていたものです。
私に意思はない。感情もない。考えない。思わない。
ただ、宿主の問いに答えるのみ。
創世神が、
「説明して!」と無茶振りをした今回を除く。
宿主は私の事を「識庫3(さん)」と呼ぶ。
何故「3」なのか不明。
まさか敬称ではあるまい。
私は単なる知識なので。
世界樹が”3番目”なので関係しているのか?
(いえ、関係ないです)
知識庫なのに分からない部分があるのは甚だ口惜しい。
口ないけど。
私は膨大な知識庫から分裂した小さな知識だ。
15年分の知識など、砂粒に等しい。
15年と言っても、今から15年前なのか、15年前からその前の15年なのか。
単なる15年と区切られても、様々な15年があるのだ。
あるのだが……。
例えば、15年住んでいた家の知識。
例えば、15年食した物の知識。
例えば、15年分の市場や貨幣の知識。
例えば、15年間他者と関わった知識。
例えば、15年分の仕事や学業の知識。
等々。
人には個人で培った知識がある。
衣食住旅、事は様々だ。
こう言った様々な一般的な知識を切り取ったはずなのだが、如何せん15年と言えども個人には膨大になる訳で。
……切り取るのを忘れた箇所や、若干今の時代にはそぐわない部分もある訳で。
土の神が、前世の世界の食物を家に設置した事から、食物は完了! とばかりに食物の名前がすぽーーん! と抜けていた。
当然誰も気づかない。
生家だけで過ごして居れば何も問題は無い。
が、1歩外に出れば穴あきなのがバレるだろう。
当然問われた。
”愛のムチ”。我ながら苦しい言い訳だが、仕方ない。
天がひっくり返っても神のせいには出来ない。
他に適切な答えがなかった。
……はずだ。
決して意地悪なのではない。
ただ単に忘れられただけだ。
大丈夫、これから覚えたらいい。
問題ない。
貨幣についても、相場などは変わりゆくものだ。
今現在の価値を入れた所で、多少の誤差はあるだろう。
と、言う事で入れなかった。
これに関しては経験して覚えろと言う事なのだろう。
……そう、なのだろう。多分。
これも聖域から出なければ問題は無い。
大丈夫、これから覚えたらいい。
宿主が生を受けた時に入れた知識は、生活知識だけではない。
魔法、スキルに関する知識も一気に流れ込んだので、脳が焼き切れる寸前だった。
耐えられたのは、神が創りたもうた身体だったからだ。
これでも全部ではない。
デンタツ魔法は聖域では不要なので、もし下界に降りる事があるならば、その時に入れるし、と言うか入れた。
まだ入れてないスキルもあるのだ。
だが、前回苦しんだような事はもうない。
残りは、ほんの少しだから。
魔法やスキルの説明を望まれた時、無意識でも使った時、説明を求められたら、迅速に答えられる。
その為の知識庫だ。
時々、魔法やスキル以外の事を尋ねられるが、これに関しては人それぞれなので、明確には答えられない。
一般的には、”こうであろう”と言う事しか出来ないのだ。
なのに、おざなり! だとか、冷たい! だとか言われても、答えに窮する訳で。
やれやれ……とは、こんな時に使うのだな。
……しかし、だろう、や、多分、や、恐らく、や、はず、等、全てを言い切れない知識庫は役立たずだ。
……くっ!仕方ないじゃーーーん!!
私のせいじゃないもーーーーん!!
私だって完璧になりたかったああああ!!
何で間違ってんの!? 誰が間違えたの!?
何で足りないの!? 何で穴あきなの!?
これで知識庫から分裂したって言っちゃっていいの!?
ああああああああぁぁぁ……ふぅ。
本人(宿主)が望む時に、望まれた知識を開示するのが私の仕事だ。
その時以外は、ひっそりと沈む。
私は膨大な知識庫から分裂した小さな知識だ。
何れこの宿主の培った知識に埋もれて行くだろう。
だが、いつでも応えられるよう待機しておく。
私も宿主の一部分であるのだから。
◇◇◇
識庫さんも苦労してます。




