騒動の前に。〜その1〜
「そんで、ジーク根回し頼んだ」
「……突然だな。まぁいい。各ギルド長に流せばいいか?」
「うん。ハンター、商業、服飾、薬師、大まかにこの位は必要だね」
「待った、薬師ってギルド長誰だ?マルクスは捕まっただろ?」
「あぁ、あいつは極度の貴族嫌いだったなー。今は……誰だ?」
「まだ決まってなかったんじゃないか?」
あー、居たね!とんでもない奴!
「なら、副ギルド長でいいや。つーか、前ギルド長に感化されて貴族嫌いが多かったら厄介だなー」
「ふむ……。あんなに貴族嫌いな奴なんか見た事ないけどなー」
うんうん。
どっちかってーと、平民の方が弁えてるって言うか、住み分けしてるし、関わる事すらないからね。
そんなに嫌いって思ってる人少なそうな気もしないでもない。
まぁわたしの主観だけど。
「とりあえず、噂として流しておくか?それとも事実としての方がいいか」
「ギルド長なら事実でいいんじゃないか?そこから下に流すのはギルド長の采配でいいと思う」
「分かった。なら明日から早速流して回るよ」
「……直接回るのか?この魔法花の後で?」
「それなんだけど、もういっそガンガン外に出た方がいい気がしてる。隠れるから話が大きくなるし、隠れるから追いかけたくなるんじゃないかなと思う」
「ふむ。まぁそれは任せるよ。シャルルも行くんだろ?充分気をつけるんだよ」
「はい!大丈夫です!」
ぐっ!と握りこぶしだ!
「「「シャルルは可愛いなぁ」」」
ぶふっ!何だか久しぶりに聞いたよそれ!
◇◇◇
「さて、準備はいい?」
「うん!いつでも大丈夫!」
作戦はこうだ。
まずは近場の商業ギルドに行って、ポーションを納品がてらヘルベスさんに説明する。
今回は、ちゃんとデンタツで先に行く事を伝えてある。
大まかな話は、メッセージで言ってある。
そうしたら、ラシードさん、ゴードンさん、マリアーナさんも呼んでくれるとの事。
サラナさんもきっと居るだろう。
これで、ハンターと服飾ギルドも完了する。
一応、アレクさんと、5人組にも来てもらう事にしたので、建物前でのゴタゴタは大丈夫だと思う。
アレクさんと5人組には、街中での噂に協力してもらうのだ。
……つーか、彼等も魔法花の影響があるんじゃない?
ま、まぁ、それはあれだ。
うん、ガンバレ。わたしもガンバル。
「んじゃ行くか」
「はーい!」
第1門の門兵さん。
あぁ!キラキラ目!
「おっおはようっございますっ!行ってらっしゃいませっ!」
「はい、行ってきます!」
飛び交うキラキラが見える気がする。
ジークは平気な顔してるけど、わたしは下を向きたい気分。
向かないけどっ!
「そうそう、堂々としてれば大丈夫」
ちゅ
「ちょ!それとキスは別っ!」
あはははは!
「それも堂々としてれば大丈夫!」
ちっがーーう!もうっ!
◇◇◇
今日は徒歩で行くので、門の外を歩くのも久しぶり!
って、うわぁ、すんごい見られてる……。
「ジ、ジーク様!シャルル様!おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
「おはようございます!」
”きゃぁ!!お返事してくれたわ!”
キャッキャ!キャッキャ!
「おはようございます!」
「「おはよう」ございます!」
”おおお!やった!返事くれた!”
ゆっくりと、でも確実に広がる街に出現したジークとシャルルの噂。
あちこちから、おはようの挨拶が飛んでくる。
単純に嬉しい。
てくてくと商業ギルドに着くまでの間に、囲まれる事もなく、何度おはようを返したか。
ふふふっ
「やっぱり挨拶は大事だね」
「そうだな。でも俺こんなに”おはよう”を言ったのは初めてだ」
あはははは!
「わたしも!」
「ジーク!シャルルちゃん!」
「アレクさん!おはようございます!」
「おはよう!何なのアレ!」
「え?」
「魔法花!」
「あー、いや、俺達も知らなかったから、何なのと聞かれても……」
「おかげで俺モテモテっ!!」
ぶはっ!!
「良かったじゃん!」
「でも裏が透けて見えて怖い!」
「あー、教育でもあったからなー。まぁ気をつけておけよ?」
教育?
「貴族はそーゆー教育も受けるからねー」
ほぇー!そうなんだ!
「だから逆に踏み込んで付き合うのは慎重になるんだよね。そのお陰でお家騒動にはなってないけど、純粋に楽しめない!」
そうか、アレクさんは貴族籍のままハンターになってるからね。
「悩みどころなんだよなぁ」
貴族のままだと平民と結ばれるのは高い壁がある。
でも貴族同士の繋がりのために望まない婚姻は結びたくない。
しかし、貴族籍を抜く決断はまだ出せない。
って事か。
ふむ。
「ジークさーん!シャルルさーん!」
「お!5人組!久しぶり!」
「「「「おはようございます!」」」」
「おはようございます!お久しぶりです!」
「何すかアレ!」
ぶふっ!こっちもか!
「あー、まぁ先に中に入るか」
ひぇ!!いつの間にやら人が集まって壁になってる!
大きな声で騒がれる事はないけど、通行の妨げにもなるし、どこから来たのかハンターさんが交通整理してたよ!
申し訳ないですわー。
コソコソと聞こえるのは、何故ハンターギルドじゃなく商業ギルドに、時の人である最下層攻略チームが集まってるんだ?と。
そりゃそーだな。
まぁ、今は謎のままにしておきましょう。
近々それ所じゃない噂も流れるし。ね。
◇◇◇
受付のお姉さんが、議会室に通してくれた。
流石に執務室では人数的に入らなかったらしい。
既にギルド長達は揃っていて、上座のお誕生席にジークとわたし。
……そこはギルド長じゃないの!?
お姉さん、お茶を置いてにっこり。
察しました。了解です。
左右、上座に近い所に商業ギルド長、ハンターギルド長、それに続き、服飾ギルド長、薬師副ギルド長?ってか、初めましてだな。
各副ギルド長、アレクさんと、5人組。
さぁ、始まる。




