来訪者ご相談室。
Bメイドさん(仮)が出てくれた。
カトラリーを両手に、いざ実食!の構えからのステイ。
クレープシュゼットが冷めちゃう!
「メイドさんのクレープシュゼット、一旦ジークのインベントリに入れてくれる?冷めちゃう」
インベントリは時間停止機能があるからね!
「うん、いいよ」
わたし達はお先に失礼!
ミランジュリエを垂らして火を点ける。
ぽわっ!と青い炎が上がると、歓声が!
「「わぁぁ!」素敵な演出ですね!綺麗!」
「火が消えたら食べてね、熱いから気をつけて!」
ジークから順番に火を点けて、最後にわたしのクレープに、と思ったら、Bメイドさんが申し訳なさげに帰ってきた。
おや?
「ジークフリード様、突然の面会依頼です。お断りしたのですが、扉の前で座り込んで大泣きされてしまわれて……」
「誰だ?」
「宮廷総料理長でございます」
「「え?」何用か?」
「それが……、お部屋に呼ばれなかったのは、料理がお気に召さなかったのか、と申しております」
「は?」
どゆこと!?
とりあえず、扉の前で泣かれていても困るし、兵士さんに連れて行かれるのもなぁ、って事で中に入ってもらった。
「あなた達は食べてていいよ?」
「いえ!主を差し置いてメイドだけでとは!マジックバッグに全て入れますので!」
「あら。じゃあジークのインベントリのも一緒にお願い」
と、Bメイドさんのも入れてもらう。
ややこしいな!
そして話を聞く為に応接室へ。
縦も横も大きい人だな!
そんな人が縮こまって、グズグズと泣いている。
シュールだ。
「あー、此度はどうした?」
「とっ、突然のっ、訪問っ、申し訳ない事でっ、ございまっ」
ひっくひっく
ジークもドン引きだ。
もちろんわたしもだ。
「泣いていたら分からん」
「は、はいっ!私の!料理はっ!お口に!合わなかったので!しょうかっ!?」
「いや?美味しく頂いていたが?」
がばっ!っと顔を上げた料理長さん。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだよ!?
詳しく聞くと、城に初滞在する貴族は、美味しかったら料理長を呼ぶもんだ。との主張。
マジか。知らんがな。
「明日のフェスタリオスが終われば、滞在も終わると聞いて……なのに、お呼びが掛からないのは、何か粗相があったのかと……それでなくとも、エヴァンスから自慢話を聞かされていて、居てもたってもいられなく……」
エヴァンス?って誰?
「フランシアの料理長か」
「はい……。フランシア家のサンセバスチャンも、どこにもレシピは存在せず、フランシア家の奥方様、キャロル様がお茶会にお持ちするお菓子の数々は城でも有名です。いつも新作をご用意されていて、わた、私はっ、お茶会の度にっ、叱責を受けるのでございます!」
うっうっう……
え?誰に?
と言うか、料理長さんってば自慢しまくりなのね。
たはー
この料理長さんと、フランシア家の料理長さんは同期で、お城の総料理長の座を争った事もあると。
数十年、新作など作らなかったエヴァンスさんが、最近になって続々と新しいレシピを作るものだから、これは時期的にきっとジークかわたしが関わってるんじゃないのか?と思ったらしい。
そこで、城に滞在するなら、料理を頑張るから評価して欲しかった。
と、まぁこんな感じ。
いやいや、巻き込むなや!
当たってるけど!
その洞察力は凄いと思うけど!
「叱責、と言うと?」
「……王妃殿下でございます」
わぁぉ!
マウント合戦か!
筆頭公爵家がお茶会するなら、上位貴族だと思ってはいたが、まさかの王妃殿下!
とは言え、こればかりはなぁ……。
「あの、あなたは王都でレシピを買い求める事はありますか?」
「え?いえ、下の者に任せております」
「フランシア家の料理長、エヴァンスは自ら出向きますよ?市井での味覚、流行も自らの足で探しているそうです」
「は?しかし、流行は上から下に行くものでは……?」
おや?そこから?
「なるほど。おまえとエヴァンスの違いはそこにあるな。自らレシピを探すことなく、自ら味を探すことなく、ふんぞり返って居るだけでは向上心も生まれまい。今1度己を振り返る良い機会ではないか?」
ぐっ、と黙ってしまった。
「最近見たお茶菓子はどのような物があって?」
「……最近では、マカロン?と言う焼き菓子です」
「そのレシピは商業ギルドで扱っていますよ?他にもマドレーヌやフィナンシェ、色々あると思います。自分の目で見て、作って、食べて、レシピを買い求める事も必要では?お料理を頂いた限り、腕は確かなようなので」
レシピ買ってくれてもええんやで?
「商業ギルド……」
「今までの殻を破って目新しいモノを探すのもいいんじゃないか?」
うんうん
「お部屋に呼ばなかったのは知らなかったからなの。ごめんなさいね。お料理はどれも素晴らしかったわ」
にこっ
「ありがとうございます。それで、その、エヴァンスのレシピは……やはりジークフリード様かシャルル様が……?」
ぎっくーん!
「いや、商業ギルドのレシピじゃないか?よく分からん」
「そ、そうなのですね……ではサンセバスチャンも……」
ダラダラダラダラ……
「それも知らんな。そもそも俺はもうフランシアを出ているからな」
「あっ、そう、ですね。そうですよね。申し訳ない事でございます!自分の事しか考えが及ばず、お恥ずかしい限りでございます……」
「うむ。まぁ腕は確かだ。これからも精進するといい」
「ありがたきお言葉!そのお言葉を胸に精進致します!また城に滞在される時には、更に成長した料理をご披露させて頂きたく存じます!」
と、退出して行った。
はぁぁぁ……
「疲れた」
「ねー」
「だから遮二無二に料理を持たせたのですねぇ」
と、リリアが言う。
「そうなの!?」
「はい。朝餐等はわたくし共で用意するはずでしたが、有無を言わさずでしたから」
「とりあえず一件落着、かな?」
「クレープ食べようぜー!お預け食らった気分」
あははははは!




